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鯨骨惑星群集 ~始まりの少女は52Hzの詩を運ぶ~  作者: 雪車町地蔵
第八章 第二次円卓〝鯨〟会議は、兵器の使用を許可するか

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第二話 第二次円卓〝鯨〟会議

 赤道上のとあるポイントに、七頭の鯨が勢ぞろいしていました。

 キート、カフ、バレェン、ヴァール、ジンユー、わたし。

 そして、武器を作る鯨クリード・マックベイン。


 私は彼女たちに、イッカクから聞かされた話をすべて、包み隠さず伝えます。

 これまで月へと転送しているだけだった、幾つかの事件レポートも開示して。

 その上で、こう訊ねるのです。


「みんなは、どう思いますか?」


 ――と。


 即答するものはありません。

 みな、電子頭脳をフル活動させ、僅かでも確度の高い答えを導き出そうと躍起(やっき)になっていました。

 それだけ、イッカクの言葉はショッキングだったのです。


 やがて、ひとりの鯨が声を上げました。

 誰よりも優秀な電子頭脳を持つ鯨、バレェン・ボン・ボヤージュ。


「この話には、仮定が多すぎるの」


 全員が頷きます。

 仮説と推論と臆測で構築された情報は、確かに不確実なものでした。


「正直な話、どの程度イッカクという鯨の言葉を信用していいか、それがわからないの」

「ごもっともだ。オレも、あいつが包み隠さず全部を語っているとは思わないな。確実に隠していることがあるはずだ」


 キートが、バレェンの言葉を引き継ぎます。


「仮に――ふむ、仮定が本当に多すぎるな――仮にだ、イッカクがそういう使命を受けていたとするぜ。それでこの、裏・大陸再建計画ってのは、どの程度実現可能な話なんだ?」

「不可能ではない、というぐらいだね」


 答えたのは、ヴァールでした。

 彼女は、これまで蓄積を続けてきた惑星環境のデータと、わたしが開示したレポートを照らし合わせながらリアルタイムで演算を行い、推論を語ります。


「メイドが鯨の墓場で起こした臨界事故。このときに、ラムダP9が生成されている。これは多次元におよぶ構造を持っていて、さらに生成していくととある物質に行き着く」

「時間結晶……」


 ジンユーが、身震いしながら呟きました。

 全員が戸惑いを隠せません。

 なぜならブラックボックスが、新たな情報を開示したからです。


「時間結晶の前駆物質――まさか、これこそがドリームハイドレートですの!?」


 ジンユーの悲鳴のような叫び。

 わたしは、それを肯定することしか出来ません。

 解禁された情報とは、まさしくラムダP9とドリームハイドレートが近しいものであること物語っていたのです。


 つまり、地球誕生以来、地殻とマントルの狭間(はざま)にのみ生成され、そして前時代において消費し尽くされた夢と幻のエネルギー。

 それを。


「高温と超高圧があれば、生成可能ということです――鯨の、廃棄躯体から」

「オーマイガッ」


 わたしの言葉に、カフが発話器官のノイズ(舌打ち)を返します。

 イッカクの言葉が、にわかに重みを帯びてきたのですから、当然でしょう。


「しかしですわよ。ラムダP9とドリームハイドレート。一見同じ〝もの〟のように見えて、そこには大きな(へだ)たりがあるのではありませんこと?」


 ジンユーが、自らを奮い立たせるように、ディスカッションへと参加してきます。

 彼女の言葉は真でした。


 ラムダP9は、確かにドリームハイドレートに近似する物質です。

 しかし、一手間加えれば同じになる、というわけでもありません。

 そこには膨大な手間と、エネルギー、なにより設備が必要になってきます。


 この惑星に、それだけの設備はありません。

 そう――鯨の振幅炉と、元素固定装置を除いては。


「結局ところ、そこなの。イッカクの使命が本物だとして、そうして空想のようなドリームハイドレートが実際に作れるとして、そのためにはすべての鯨の力が必要だとして――でも、そのタイミングはいまじゃないの」


 バレェンは、正論を振りかざしました。

 どうしようもないぐらいの事実。

 鯨の廃棄躯体が海を埋め尽くし、振幅炉が爆縮し、この惑星のすべてがドリームハイドレートに変わる……これはまあ、あり得るかも知れないことです。


 しかし、わたしたちが大洋を埋め尽くすのは、いったいいつになるでしょうか?

 少なくとも、百年後ですら、計画はほとんど進んでいるとは言えないはずです。

 千二百年以上をかけて、ようやくほんの小さな足がかりが出来たばかりだというのに。

 最初期のプランから、遅れ続けているというのに。

 ……だとすれば、答えはシンプルでした。


「自らが黙認されているというアドバンテージを捨てでも、いまこのときに行動しなければならない理由が、イッカクにはあったのだと思います」


 それがなんなのかはわかりませんが。

 しかし、でなければわざわざ、わたしたちに大海嘯(プロジェクト)計画(・アグル)まで教える必要はないのですから。


「そうよ。どちらかといえば議論すべきは、そっちなんじゃない?」


 カフが、怪訝(けげん)そうに告げます。


「大海嘯計画。この惑星に生命を取り戻す計画。こっちこそ、実現可能なの……?」


 その問い掛けに答えたのは、


「可能ではあるじゃろうな。なにせ、振幅炉には〝共振現象(レゾナンス)〟が存在するのじゃから」


 ずっと黙っていた鯨。

 クリード・マックベインだったのです。


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