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鯨骨惑星群集 ~始まりの少女は52Hzの詩を運ぶ~  作者: 雪車町地蔵
第八章 第二次円卓〝鯨〟会議は、兵器の使用を許可するか

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第一話 第一種接近遭遇

 HEATパイルはともかくとして。

 魚雷をいつどこから撃たれるのか解らない、防衛策がひとつもないという状況は、あまりよろしいとは思えませんでした。


 そういうわけで準備をしたのが、大量の粘性を持った泡を発生させるシステム。

 前回イッカクと遭遇した際、魚雷の爆発で発生した泡が探査系を妨害したことに着想を得た装置です。


 バレェンが実際にハッキングを行い、魚雷の性質を分析したところ。

 あの魚雷は、熱源感知でも、有線操作でもなく、旧式の音波誘導であることが判明しました。


 なので、断音声の高い泡を高密度かつ短時間で展開できるシステムを、すべての鯨に応急搭載することとしたのです。

 いわゆる、チャフグレネードに近い装備ですね。

 音波攪乱泡(バブルウォール)とでも名付けましょうか。


 間に合わせに過ぎませんが、これで一時でもイッカクからの脅威に対抗できればと、わたしは思っていました。

 なにもないよりは、マシなはずだからです。


 さて、今日も今日とて資源の採掘を行います。

 クリード・マックベインによれば、あと12パーセントほど資材が足りないということでしたから、迅速にかき集めていきましょう。


 そんなつもりで、大海原を泳ぎだしたのですが――


『――――』

「――――」


 まさかまさかの、鉢合わせ。

 わたしは、図らずも敵性存在、角持つ鯨イッカクと、たったひとりで出くわしてしまったのでした。



§§



『――現在、こちらに攻撃の意図はない』


 めまぐるしく演算を続けていたわたしの思考回路に、そんな言葉が飛び込んできました。

 彼は宣言の通り、推進機関を止め、その場に留まります。

 ……どういう意図かはわかりません。

 しかし、これは千載一遇(せんざいいちぐう)の好機ではないでしょうか?


「イッカク、わたしと話をしてくれますか?」

『我はそのために来た。交渉のためにな』


 交渉。

 なにを対価に、なにをさせたいのか、やはり不明です。

 それでも。


「では、教えてください。裏・大陸再建計画のことを」

『その前に、改めて名乗ろう。我はイッカク。この惑星の自然環境とすべての命を(うれ)う造物主、自然回帰教団〝母なる海〟によって建造された、唯一無二の鯨だ』


 アーカイブを高速で検索します。

 母なる海、でヒットする情報のほとんどはノイズでした。

 それでもさらに絞り込みをかけ、教団の存在に行き当たります。

 ひとは自然の中に帰依し、輪廻の循環におもねるべし――というのが、この教団の教義らしいですが、わたしにはいまいち解りません。

 概念的な難しさはもとより、その教義がなぜ、大陸再建計画の妨害に繋がるかも。

 だから、重ねて問います。


「裏・大陸再建計画とは、なんですか? イッカクは、どうしてそれを阻むのですか?」

『以前話したとおりだ。この計画の真実は、惑星外殻を鯨の屍で舗装(ほそう)し、超圧力によってすべてをドリームハイドレートへ置換すること』


 なるほど。

 では、当然の疑問をひとつ。


「その――超圧力というのは、どうやって発生させるのですか?」

『…………』


 これに、彼は沈黙をかえしました。

 その光学カメラが、何度も瞬き、こちらのすべてを見聞しようとします。

 真意を見抜こうとしている、といったところでしょう。


 しかしわたしは、純然たる疑問として問い掛けたに過ぎません。

 見透かされるようなものなど、なにも――


『我がどうやって、おまえをこの海の中で見つけられたと思う?』


 突然、イッカクはそんなことを言いました。

 どうやってとは。


「電波を逆探知して、ではないのですか? あるいはわたしの行動ルーティーンを分析してとか」

『無論それもある。だが、常に聞こえていたのだ、(なんじ)の歌声は』


 わたしの、歌声。

 試製零型振幅炉が(かな)でる、52ヘルツの駆動音。

 ――まさか!


『そう、そのまさかだ。造物主の言葉によれば、第一人類は鯨の振幅炉にひとつの陥穽(おとしあな)を仕込んでいた。汝らが大陸再建計画を成し遂げたときに発動する、イースターエッグ。それは』


 それは、おそらく。


『振幅炉の、重力崩壊。汝ら自身こそが超重力の基点となり、この惑星を縮退(しゅくたい)させるのだ』

「――――」

『そのためには、鯨を一頭たりとも欠けさせるわけにはいかないと、第一人類は考えた。だから兵器を持たせなかった。すべて、つじつまが合うのではないか?』


 わたしは、彼の言葉を即座に切り捨てることが出来ませんでした。

 もちろん、頭から信じたわけでも、鵜呑みにしたわけでもありません。

 いまこのときも、走査系はブラックボックスの中に、一致する情報がないことを確認し続けています。

 けれど。


 けれども。


「……筋は、通っていますね」

『で、あろう』

「なら、もうひとつ聞かせてください。イッカク、あなたは」


 大陸再建計画を転覆させて。

 そのあと、どうするというのですか?


『すべての鯨を、我は取り込む』


 彼は。


『その膨大な出力を持って、この大海を、海底を、全てを攪拌(かくはん)し、原初にあった生命のスープを生み出す』


 角持つ鯨は。

 イッカクは、言いました。


『これこそ、我が造物主が与えた使命――大海嘯(プロジェクト)計画(・アグル)。別名〝乳海攪拌(にゅうかいかくはん)〟である!』


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