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鯨骨惑星群集 ~始まりの少女は52Hzの詩を運ぶ~  作者: 雪車町地蔵
第七章 それは、兵器を作る〝鯨〟なのか

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第五話 裏・大陸再建計画

 多方面から迫る魚雷を回避すべく、わたしたちは散開します。

 しかし、魚雷は意志を持つかのように軌道を変え、こちらを追尾してきました。

 誘導性魚雷……!


「まかせるの!」


 飛び出したバレェンが大電力を放出。

 電子戦最強の面目躍如(めんもくやくじょ)とばかりに、魚雷の制御装置をクラッキング、自壊させます。

 大きな爆発が起こり、衝撃波によって発生した泡で水中が満たされ、一時的にセンサー系が死亡(ブラックアウト)

 泡の壁は、光学系だけでなく、ソナーをも沈黙させてしまうのです。


 そんな泡壁を突き破り、角持つ鯨が姿を現しました。

 根拠のない演算結果でしたが、彼はわたしを見ていると……そう感じました。


『――大陸再建計画を、転覆させる』

否定(ナイン)! そうはさせないよ……!」


 高速でこちらへと向かって突っ込んでくるイッカク。

 そのまえに、ヴァールが無数の子機を展開します。

 するとイッカクは、前回同様に狙いを変えて、子機を撃破しようとHEAT(パイル)を開放してきました。


「……すまない、多くのボク」


 ヴァールが、なんらかのコードを子機へと送信。

 刹那、


『――!』


 爆発。

 いままさに銛に突き刺されんとしていた子機たちが、イッカクを取り囲んで大爆発を起こしたのです。

 自爆でした。


「この場で打てる手はすべて打ったの」

肯定(ヤー)。問題は、効果があったかどうかだけど」

「――どうやら、時間稼ぎにしかならなかったようですね」


 爆破で生じた泡が消えた中には。

 悠々と、イッカクが存在していました。

 その外殻には傷ひとつなく。

 武器たる銛もまた、健在だったのです。


 おそらく、直前で反転(ターン)を決め、ダメージを減衰したのでしょう。

 尋常ではない旋回性能と速力です。

 あきらかに、こちらの想定を上回っています。


「万事休す、なの」

「運を天にでも任せるかい?」

「冗談ではありませんね――わたしが、相手をします」

「ちょ、エーヴィス、待つなの!」


 制止の声を無視して、なぜか動き止めたイッカクの前に、わたしは泳ぎ寄ります。

 〝彼〟は、やはりわたしを見ていました。

 わたしは。

 管理者エーヴィスは。


「もう一度聞きます。イッカク、あなたはなんのために、活動しているのですか?」

『知れたことだ、大陸再建計画を阻むために』

「なぜ」

(なんじ)らは知らぬからだ』


 なにを、いったいなにを、わたしたちが知らないというのですか。

 そう問えば。

 彼は、まるで自嘲するかのように躯体を軋ませ。


『ならば、愚かな被害者である汝らに教えてやろう。大陸再建計画の真実を。裏・大陸再建計画の全容を!』


 イッカクは、告げたのです。


『裏・大陸再建計画とは即ち、この惑星すべてを燃料に置換すること! そのときこの星は……文字通り消滅する――!』



§§



 その後、イッカクはこの海域から去って行きました。

 ずっと彼女の様子を調査していたヴァールによれば、リアクターの駆動音に異常があるとのこと。

 そこから導き出されるのは、イッカクが長時間の戦闘機動が出来ないのではないかという新たな推論でした。

 だとすれば、これまで鯨が直接襲われる機会が、とても少なかったのも納得がいきます。

 一つの光明ですらありました。


 しかし――


「エーヴィスは、イッカクの言ったことを、信じているの?」


 バレェンから問われます。

 正直に言えば、判断できないというのが、わたしの結論でした。

 なぜならイッカクが口にした〝裏・大陸再建計画〟の全容は、あまりに突飛(とっぴ)なものだったからです。


 大陸再建計画。

 それは、鯨の屍によって海を埋め立て、陸地を作ること。

 しかし、その本意は別のところにある……というのがイッカクの主張でした。


 この惑星の外殻を鯨によって埋め立て、そこに超高圧をかけることで、星自体をひとつの資源――かつて文明を滅ぼしたドリームハイドレートへと変貌させる。


 それが裏・大陸再建計画だと、彼は語ったのです。


「――――」


 どれほどブラックボックスを精査しても、この情報に適合する答えは得られません。

 開示される情報もありません。

 意識してなお調べられないとなれば、判断に困ります。


 イッカクの言葉が本当だと裏付ける証拠も。

 嘘だと否定する証拠もまた、ないということなのですから。

 わたしは。


「わかりません。まだ、なにもわかりません。しかし、だからこそわたしは」


 管理者としてのエーヴィスは、こう思うのでした。


「もっとイッカクと、話をしたいです……!」


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