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鯨骨惑星群集 ~始まりの少女は52Hzの詩を運ぶ~  作者: 雪車町地蔵
第七章 それは、兵器を作る〝鯨〟なのか

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第三話 腹が減っては戦は出来ぬ、黒鉄がなければ兵器は作れぬ

 紅大戦艦クリード・マックベインは、わたしたちの提案を一顧だにせず否定した……訳ではありませんでした。


 あくまで、現状では容認できないというのが彼女のスタンス。

 それも、鯨同士が争うことの危険性――今後もこんな馬鹿げたことが再演されるのではないかという、至極真っ当な危惧を抱いてのものだったのです。

 だから、わたしは改めて彼女に尋ねました。


「では、どうするのが最善なのでしょうか?」

「しらん」

「…………」

「逆に問うが、管理者エーヴィス。おまえさんはどうしたいのじゃ?」


 わたしの使命は、大陸再建計画を円滑に実行することです。

 そのために、鯨の安全を守り、十全な仕事をさせなくてはなりません。

 であれば。


「わたしは、イッカクと話し合いたいと思っています。けれど、ただ(おびや)かされるだけの現状では、〝彼〟も対話の席には着いてくれないでしょう。危険な思想なのは承知していますが、肉食獣が獲物に忖度(そんたく)するとは思えません」

「……ふん。なるほどね、ぎりぎり及第点ってことにしといてやるかのう」

「それでは」

「ああ、まだなにを作るかは決めかねているが……おまえさんがたの邪魔をしたりはせんよ。そうさなぁ……とりあえず管理者エーヴィス、おまえさん、砕掘作業は得意かね……?」


 とまあ、そういうわけで。

 現在わたしはジンユーと連れだって、特殊な鉱脈が埋蔵されているという地点へと向かっているのでした。


「事情はわかりましたわ。わたくしがお供に選ばれたのも、鉱脈が豊富な母国跡地を掘り返したいから、という理由だと承知しました。ですが……なにゆえこんな装備を……」


 あまりにエレガントではありませんのよ、と嘆くジンユーの下部には、巨大な砕掘用(さいくつよう)剛靱(ごうじん)ドリルが取り付けられています。

 これも、クリードとともに凍結封印されていたものでした。


 扱い方は、ブラックボックスから開示済みでしたが、なにせ鯨が地下鉱脈を掘るなどと言うのは未曾有の出来事ですので、正直何度もリスク管理と試算を繰り返してしまいます。

 第一人類風に言うのなら、緊張しきりという感じです。


 さて、そうこうしている間にも目的地である海底が見えてきました。

 わたしたちはコンタクトし合い、ゆっくりと沈降していきます。


「ランディング、ゴー」

好的(アイコピー)


 可能な限り静動を心がけましたが、それでも着底した瞬間には、大量の堆積物が舞い上がりました。

 試しにサンプリングしてみると、なんと、流されていなかった土砂の類いです。


「むむ。これを巻き上げてまで鉱脈を掘り起こすのは、惜しいものがありますね」

「いずれ命を育むかもしれない土ですわ。ですが、エーヴィス。いまは」

「解っています」


 ジンユーの叱咤(しった)を受けつつ、ドリルの準備をして、さっそく鉱脈の開拓を始めました。

 先だってヴァールが地下に音響探査を打ってくれていたおかげで、鉱脈筋を見つけるのは非常に楽だったことを併記(へいき)しておきます。


「あのこ、めちゃくちゃ有能ですわよね。ちょっと自分に自信がないのがネックですけれども」

「水平リンクと分割思考、全会一致が原則のマスブレインシステムで、慎重にならざる得ないという弊害ですね」

「……次に円卓会議を開くなら、その辺りも話し合ったほうがいいのですわ。月のあなたは、なんと言っていて?」

「……とくには、なにも」

「そう、ですの……?」


 微妙な会話を続けている間にも、ドリルは回ります。


「あら、そういえば」


 話の流れを変えるように、ジンユーが言いました。


「かつては第一人類も、大規模な砕掘を行っていましたわね。最後の資源にして、新時代の幕開けを告げた燃料」

「はい、ドリームハイドレートの砕掘ですね」


 旧時代を刷新した夢のエネルギー。

 環境を汚染することなく、膨大なエネルギーを生み出し、革命的に第一人類を進歩させた燃料。

 それこそが、ドリームハイドレート。


 地殻とマントルの境界域、かつてはアセノスフェアマントルと呼ばれたものは、叡智による探求の結果、地球全域に存在する大量の埋蔵燃料資源であることが明らかになりました。


 化石燃料の枯渇と、原子力の安定化に難儀していた第一人類は、いちもにもなくこの未知の燃料へと飛びつき、有史以来の繁栄を遂げます。

 この未知なる資源は世界を文字通り革新しました。

 エネルギー損失がわずか一割という超効率の火力発電に始まり、さらにその先――疑似永久機関の作成へと向かっていったのですから。


 ゆえに、第一人類は、この資源を夢の燃料――ドリームハイドレートと呼称したのです。


 ……しかし、ドリームハイドレートもまた、歴史上に存在したあらゆる資源と同様に、無限の産物ではありませんでした。


「まさか、すべてのドリームハイドレートを砕掘した結果、地殻が(・・・)一段落下する(・・・・・・)なんて、さすがの造物主たちも考えなかったのですわ」

「予想は出来ても、現実に起きるとは思えない事柄というのはあるものですからね。理論上あり得るというのは、常に想定外の事柄を指します」

「結果、振幅炉が作られる運びになったのでしょう?」


 そう、夢のエネルギーを失い。

 それでもこの星の盟主であった第一人類は。

 最後の希望を完成さえ、わたしたちに託しました。


 疑似永久機関の発展系たる真の永久機関〝振幅炉〟を。


 もし振幅炉と、水中元素固定装置がいま以上に量産できていたのなら、大陸再建計画は、あるいはもっと容易で、もっと短期的なものだったかもしれません。

 誰かと……争う必要もなかったのかもしれません。


「……エーヴィス」


 ぐるぐると回るドリルを見詰めながら。

 ジンユーが、厳しい声音で問い掛けてきます。


「もし、無事に素材が集まって。イッカクとの対抗手段が出来たとして、ですわ。それでもあいつが対話を拒んだら」


 そんなときがやってきたら。


「そのときエーヴィスは、どうするつもりなのかしら?」

「わたしは――」


 わたしは、この時点ではまだ。

 即断で答えを出すことが、出来なかったのです。



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