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鯨骨惑星群集 ~始まりの少女は52Hzの詩を運ぶ~  作者: 雪車町地蔵
第六章 第一次円卓〝鯨〟会議は無事催されるのか

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第四話 その名はイッカク

 〝ユニコーン〟は、一直線にわたしへと向かってきました。


「アインヘリヤル……展開」


 情報収集のため、ヴァールが〝群〟を展開します。

 すると、ユニコーンの軌道が急変。

 その巨体が、小魚のように機敏な旋回をし、最も近くにいたヴァールの子機を射貫いたのです。


 さらに、ユニコーンはもう一体、子機へと、艦首先端の銛状物体(ラム)を突き立てます。

 装甲が、薄紙のように突破されるのを見て、ヴァールが警鐘を鳴らします。


機能停止(ナイン)! あれは強力だ!」


 ただの一撃。

 造物主によって、科学の(すい)を結集して作られた鯨が、子機とはいえただの一撃で、たやすく破壊されてしまいました。


「備えろ! 〝やつ〟の銛は連発が利く!」


 キートの通信に、全員が警戒レベルを跳ね上げます。

 鯨を倒せる存在。

 それはやはり、鯨しか考えられません。

 もはやこの場に、その推論を否定するものはいませんでした。


「来るぞ!」


 子機の大半を破壊した〝ユニコーン〟は、こちらをロックオン。


「だったらあたしが……!」


 刹那、高速接近する〝ユニコーン〟とわたしの間に、キートとカフが割って入ります。

 しかし……速い!


 ユニコーンの速度は、その全長二十メートルからは推察も出来ないほどの高速。

 六十……いえ、七十ノットは出ていたのではないでしょうか? ここが、水中であるにもかかわらずです。


「リ、ベーンジッ!!」


 正面から衝突を図ったカフを、ユニコーンは円軌道(マニューバ)描いて(取ることで)回避。

 二段構えで待ち受けていたキートが行く手を遮ろうとすれば、〝銛〟を展開します。


 /演算終了。

 /絶対的脅威判定。


「キート! その銛は、できるだけ末端で受けてください!」

承知(ウラー)!!!」


 わたしの忠告を受けて、即座に身を翻す大鯨。

 その尻尾に、ユニコーンが激突します。


 激しい火花とともに、キートの重装甲がたやすく貫通されました。

 超深海にも耐えうる彼女の躯体を持ってしても、やはりこの銛は防げないのです……!


「受けて解った、分析結果を送るぜ!」


 駆動系をやられながら、それでもキートは即座に情報の共有を図ってくれました。

 傷口の形状はカフと一致。

 残存物質から、HEAT弾頭――液状化金属による穿孔痕(せんこうこん)と判明。

 つまり、ユニコーンのあの銛は。


「HEATパイル。いかなる物質も貫通する、最強の矛というわけですか」

「言ってる場合じゃないですわ……!」


 ジンユーが体当たりをして、わたしの身体を跳ねあげてくれました。

 そうしなければ、いま躯体下を駆け抜けていった〝ユニコーン〟に、わたしは串刺しにされていたでしょう。

 ですがおかげで――準備が整いました。


 電力。

 プログラム。

 行動パターン。

 オールグリーン……!


「来なさい、未知の鯨!」

『――――』


 無言で、しかしユニコーンは即座に反転。

 こちらへ襲いかかってきます。

 通常ならば(かわ)せない速度。

 それでも、正面から来ると解っていれば――!


『――――』


 ユニコーンから伝わる僅かな動揺。

 そう、わたしは攻撃を躱すでも受けるでもなく、組み付くことで(・・・・・・・)無効化(・・・)したのです。

 伊達に、鯨の中で少女型の躯体を維持していたわけではありません。

 こんなとき、四肢は大変重宝するのです!


「すこしパルスが乱れますよ!」


 両のマニピュレーターへ電力を最大集中。

 ずっと演算を続けていたプログラム――かつてジンユーへと使ったものの強化版――強制コアユニット排出プログラムを、たたき込みます……!


 それはさながら張り手のように、ユニコーンの横っ面へ炸裂しました。

 確かに、プログラムが相手の量子回路へと疾走する感覚。

 決まったと、わたしは確信します。

 しかし――


『――――!』


 大きく振られるユニコーンの機首。

 張り付いていただけのわたしは、突然のことに対応できず、振り飛ばされてしまいます。


 止まりません。

 コアユニットの排出は確認されていません。

 つまり、ユニコーンは電子回路に対するこちらのハッキングを無効化したわけです。

 こちらの切り札は、こうもたやすく破られたのでした。


 悠然と距離を取り、こちらを睥睨(へいげい)する正体不明の鯨。

 傷ついた仲間たちが、万が一に備え包囲をはじめますが、それでも動揺のひとつすらみせません。

 ただ、〝それ〟はわたしをジッと見詰めて。


 ……どうやら、意志はあるようですね。

 ならば、対応は一つです。


「すべての鯨の管理者、大陸再建計画の実行者として問います。わたしはエーヴィス。貴艦、鯨名(いさな)を告げなさい」


 ジリジリと縮まる包囲網。

 動かないユニコーン。


「繰り返します。貴艦、鯨名(いさな)を告げなさい」

『――我は』


 ――!

 突如音波を発したユニコーンは、こちらへと応じる構えを見せました。

 驚異的な性能と、鯨が保有することを禁止された兵器(・・・・・・・)を持ち合わせた、角持つ鯨は。

 ついに、その名を口にしたのです。


『我は〝イッカク〟。自然生命保護団体〝母なる海〟のエージェントにして』


 ――〝(イッカク)〟は、宣言しました。

 驚くべき己の使命を。


『大陸再建計画を、転覆させるものだ』


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