第三話 仮称:ユニコーン
カフが襲撃を受けた瞬間、反射的に記録した映像。
それがいま、わたしたちのまえに映し出されます。
示されたのは、異形のシルエット。
銛のような、細長い衝角を持ち。
高速移動に秀でた流線型の体躯と、いくつかの魚雷と思わしき装備を身につけた〝鯨〟。
そう、これだけ巨大で、この時代に存在しうる熱源体は――〝鯨〟意外に有り得ないのです。
「……ひょっとして、わたくしのファーストミッション。最初の躯体離脱時に飛来した熱源体は」
「はい、推測になりますが、この魚雷様物体があのときジンユーを機能不全に追いやった原因でしょう」
「待つの。エーヴィスの口ぶりだと、まるでこの〝鯨〟が全ての元凶のように聞こえるの。だとしたら――」
そうです。
バーレェンが敷設してきた電波中継基地。
それをこれまで破壊してきた存在も、おそらくこの〝鯨〟なのです。
「……冗談ではないの」
「冗談は言いません。わたしは鯨なので」
しかし、厳密に存在する危機を、見逃すこともまた出来ません。
「ヴァール・アインヘリヤルの〝群〟による広域探査、それを間逃れていることからも、この〝鯨〟が特別であることが解ります」
「否定。もう少し正確に言うべきだ。ボクらの情報が筒抜けということではないかな?」
無論、可能性は大きくあるでしょう。
なので、情報担当であるバーレェンヘ訊ねます。
技術的に、電波中継基地へと諜報戦を仕掛けることは可能なのかと。
「……できてしまうの。なぜなら、そもそも大陸再建計画にはこのような障害は設定されていないの。中継基地にセキュリティーはないに等しいし、〝鯨〟と同程度の演算能力があれば、情報はダダ漏れと考えて間違いないの」
そうでしょうね。
そこまでは、予想できていたことです。
「さて、この存在が〝鯨〟だとして、名称がないのは困ります。不定〝鯨〟第一号とでもしますか?」
「それはさすがにナンセンスだろうぜ」
キートが苦笑いするように言った。
「ユニコーンって、どうかしら? こいつにはぴったりだと思うんだけど」
他ならないカフの提言。
なるほど、乙女を狙う一角獣ですか。
最適でしょう。
「ならば、今後この不定存在を〝ユニコーン〟と仮称します。そうして、現状で可能な対策を協議したいのですが、情報が圧倒的に足りません。なので」
わたしは、蓄電池の一部を使い。
コーン……! と、ソナーを全域へと放ちました。
こちらの情報は筒抜け。
そして〝ユニコーン〟は露骨にわたしたちを――いえ、大陸再建計画を邪魔しようとしています。
なら、わたしたちが対策会議を開こうとすれば、どうするでしょうか?
これまで看過してきたものを、ついに認識したとすれば?
答えは、すぐに出ました。
「――南方より、急速接近する艦影あり」
わたしの言葉に、その場の全ての〝鯨〟が、フル稼動状態に突入しました。
そう、この瞬間を待っていたのです。
あちらも。
――わたしたちも。
「馬鹿め、と言ってやりますわ。この円卓〝鯨〟会議こそが、〝ユニコーン〟をおびき寄せるエサなのですもの……!」
高らかに言い放つジンユー。
そしてわたしたちは。
異形の襲撃者と、ついにエンゲージを果たしたのです。




