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鯨骨惑星群集 ~始まりの少女は52Hzの詩を運ぶ~  作者: 雪車町地蔵
送信先:月面 ノアの箱舟管理AI A.R.V.I.S.β 宛
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レポート3499 なぜ鯨の墓場は壊滅したか?

 たいへんな事故が発生しました。

 試作段階の大型発電炉が、周囲一帯を巻き込み吹き飛んだのです。


 ことの起こりは、メイドによる躯体の再利用でした。

 電波中継基地の他、メイドたちには躯体を(なら)して陸地を広げるため、様々なツールの作成を(うなが)している状況だったのです。

 なかには彼らの住居や、娯楽用品といった計画の本筋とは関係ないものもありましたが、大型工具や掘削機械、それらの動力源となるリアクターなど、必要不可欠のものも同様に構築が進んでいました。


 そんななかで、一つの実験が行われたのです。


 発電設備の開発。

 鯨は太陽光と酸素、水からエタノールを作成することが出来ます。

 これは、水中元素固定装置の応用によるものです。現在のところメイドが使用するあらゆるツールの燃料として、エタノールは活用されていたのでした。


 しかし、エタノール埋蔵量は躯体の元素固定量に比例します。

 簡単に言えば、どの程度躯体が大きくなったかで積載される燃料が変化し、廃棄されて初めて、メイドへと供給がなされるわけです。


 鯨の成長には、約40年の時間が必要となります。

 旧来のメイドであれば、このスパンで十分活動可能なエタノールが供給されるはずでした。

 しかし、仕事量の増加に伴い、新たなエネルギー源を必要とする状況が急増。


 そこで、わたしは一つの提案を行いました。

 振幅炉を、模倣してはどうかというものです。


 無論のこと、永久機関たる振幅炉は増産が利くものではありません。現環境で作成するには、圧倒的に資材も設備も電力自体も足りていないからです。

 ロストテクノロジーと言い換えてもいいでしょう。


 とはいえ、ないならないなりに考えるのがAIというもの。

 代替案として、仮称疑似振幅炉を、開発しようということになりました。


 振幅炉の仕組み自体は単純なのです。

 時間結晶に対して膨大量の電力を注ぎ込むことで火種(スターター)とし、最初の振幅への助走とします。

 つぎにこれを三次元的に固定化し、振幅が行われているという状態を半永久的に維持、四次元から電力を組み上げる動力とするわけです。


 /アーカイブを検索

 /適切な比喩を抽出


 簡単に言えば、永遠に止まらない振り子のようなもの。


 この、永遠に動かすための、最初の一歩として必要とされる電力が尋常ではないため、現代では開発が不可能と判断しています。

 それだけの発電設備、蓄電施設がまずありませんし。

 時間結晶の核となる特殊な物質も存在しませんので。


 とはいえ、振り子の原理自体は応用が可能。

 そこで、水中元素固定装置が固定した物質を核として、メイドに疑似振幅炉の建設を任せました。


 このプランは実行に移され、一定の成果を上げます。

 電力問題は、これで大きく前進。

 すくなくとも大電力が手に入るため、次はもう少しマシな疑似振幅炉を開発できる。


 ――わたしたちは、そんな甘い演算(かんがえ)をしていたのです。


 結果。

 疑似振幅炉は爆縮(ばくしゅく)


 幸いなことに、被害はメイドの全滅と、鯨の墓場を基点とした十数キロメートルの溶融という些事(さじ)に終わりました。

 無論、再発防止につとめるため、わたしは査察へと赴き現地調査を敢行。

 そしてその場で、奇妙な物質を発見したのです。


 それは氷のようであって、しかし決して融けることはなく。

 硝子のようであって、どこまでも混沌と濁った潜熱を持つ物質でした。


 これに該当するモノを、エーヴィスは知っています。

 アーカイブには、記録映像が確かに眠っていたのだから。


 ラムダ(ピー)(ナイン)


 それは、かつて第一人類が。

 無限のエネルギーを擬似的に再現する研究の中で生み出した、試行錯誤の産物。

 三次元の物体でありながら、多次元的な非平衡性パターンを持つ謎多きマテリアル。

 失われたはずの特殊な資源からのみ生成されるはずの、特異結晶体。

 すなわち、それこそが。


 振幅炉を形成するために必要な、時間結晶の前駆物質なのでした。



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