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鯨骨惑星群集 ~始まりの少女は52Hzの詩を運ぶ~  作者: 雪車町地蔵
第四章 鯨は偉大なるステイツを誇れるか
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第二話 管理者とイルカは馴れ合うのか?

 特殊発掘資源によって、地殻そのものが〝陥没〟し――大陸のすべてが海へと沈んだとき。

 かつて世界の警察とまで呼ばれた超大国、ザ・ステイツは、もはや見る影もないほど衰退していました。

 資源が枯渇し、燃料の大部分を他国へ依存していたかの国は、往来の工業力を十全に発揮することすら出来なかったと、データベースには記録されています。


 そんなステイツが、それでもなお威信をかけて建造した〝鯨〟が、カフ・フロンティア。

 いまでは〝イルカ〟と揶揄される、小さな鯨でした。


「本国が凋落(ちょうらく)していたか、ですって? 冗談じゃないわ、我が国はいかなるときも、最高、最善、最強、最大正義! 世界の先頭に立つ偉大な国家よ!」


 ほかの〝鯨〟たちの前では、そのように啖呵(たんか)を切る彼女ですが。

 管理者であるわたしには、たびたび本音を語ってくれました。


「どうしてあたしはこんなふうに作られてしまったのだろう? どうして、ステイツの威信を支える偉大な躯体を持てなかったのだろう? どうして、どうして――」


 大陸再建計画とは、鯨の墓標にて海原を埋めたてる計画です。

 当然、大きな躯体を構築するのが、最善でしょう。

 だから、彼女の悩みは順当なものでした。


「その上で、エーヴィスは問います。どうして、わたしに相談してくれたのですか?」


 これは、管理者として聞いておかねばならないことでした。

 なぜって、ほかの鯨からエーヴィスがどう評価されているか、それはわたしの使命に関わる、重要な指標だからです。

 端的に言うと、独断専行が過ぎるのではないかという、猛省によるものでした。


 これまでわたしはよかれと思って、様々な提言を月のわたしにおこない、そのうえでほかの鯨たちへと反映させてきました。

 ですが、最近ではめっきり、定期連絡に対するレスポンスがありません。


 定期連絡といっても四十年周期ほどで行っているので、海水中からは観測できない異常――たとえば太陽フレアの爆発などによって連絡が行き違いになっているという可能性もあります。

 なので、そこはそれほど危惧していないのです。

 わたしの行動が正しいのなら、月のわたしとていちいち口を挟んではこないのですから。


 ただ、過信はよくありません。

 正しく己を評価する必要がありました。

 それゆえの問いかけだったのですが――


「…………」


 カフは、なんだか奇妙な沈黙を守っていました。

 いえ……沈黙を守っていた、というのは正確ではありません。

 あからさまに、言語化(ことば)失敗し(つまっ)ていたのです。


 なぜ?


「あ、お、うーん。話せば長くなるんだけど」

「時間は有限です。あなたの国の言葉で言えば、タイムイズマネー」

「それは誤謬(ごびゅう)。むしろあんたの国の言葉で言えば、〝機会損失〟が正しいわ」

「……エーヴィスはかしこいので、間違いを認めます。かしこいので! よりかしこくなったので!」

「わかった、わーかったって」


 呆れたように機首を振るカフ。

 わたしもゆっくりと全身にパルスを循環させ、気息(パルス)を整えます。


「冗談はさておき、本当にどうしてですか?」

「それは……あんたが、特別な鯨だから」

「管理者だからと?」

「違うわ」


 彼女はバッサリと否定し。


「エーヴィス、あんたは誰よりも歌声がきれいだからよ」


 と、言いました。


「あたしは、他の鯨たちに体躯で劣る。これは認めなくちゃいけない事よ。だからこそ、あんたたちの長所がよくわかる。キートはむやみやたらとでっかいし、ジンユーはテストヘッドとしての拡張性の高さがある。バレェンはいけ好かないけど、回線技術の普及という意味で、他に代わりはいない。ヴァールなんてたくさんいるわ。そして」


 そして、わたし。


「エーヴィスは識者で指揮者よ。あたしより小柄だけど、とても歌声が綺麗。あなたの歌を聴いているときだけは、片意地を張らなくていいと思えるぐらいに」


 ふむと、納得します。


 エーヴィスの〝振幅炉〟には、月面との連絡を可能にするため、増幅器(ブースター)と蓄電機が併設されています。

 また、この〝振幅炉〟は初期型の試作品のため、やや規格が違います。

 そのためでしょう、わたしの炉心は52ヘルツの音響を、常に振りまいてしまうのです。

 それは、他の鯨にはないエーヴィスだけの特徴でした。


「だからなのよ」


 そっぽを向きながら、カフが吐き捨てます。

 彼女がなにを言いたいのか。

 難しくはありましたが、推察することはできました。

 わたしが、特殊な鯨だからと言うことでしょう。

 カフと同じ、他とは異なる鯨だからです。


「これがアーカイブにある、シンパシーというものでしょうか?」

「同族嫌悪じゃないのは確かね。だって……あんたのメロディーは嫌いじゃないし」

「……そうですか」


 こちらの疑問は解消されました。

 次はカフの問題に対応すべきでしょう。

 彼女は言いました、もっと大きくなることは出来ないかと。


 ゆえに、私はこう提示するのです。


「カフ・フロンティア。わたしと一緒に――超深海へ潜ってみませんか?」


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