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Firabelfia(フィラデルフィア)

 一茶は一茶の家を通り過ぎて、家の裏山に登っていった。裏山は舗装されて、道があるが、余り車が通っているのは見かけず、人気のない場所だ。よく、一茶と冷子と私で遊んだものだ。

「なんか、この山を二人で登るなんて久しぶりだな。」

「確かにそうだけれど、こんなところにワープ装置があるの?この上には、あの廃墟しかないんじゃなかった?」

「そこにワープ装置があったんだよ。」

「ワープ装置って言ったって、あそこはコインランドリーなんだから、洗濯機しか置いてないでしょう。」

「それが洗濯機がワープ装置なんだ。」

「洗濯機がワープ装置?」

「ああ、俺はたまにあそこの洗濯機を部品を取りに、あのコインランドリーに行くことがあるんだけど、今日、あのコインランドリーに行ったら、見覚えのない洗濯機が一つ増えていたんだ。その洗濯機はそのコインランドリーに置かれている他の洗濯機と違って、ドラム式じゃないやつで、少し大きかった。


 僕はその洗濯機を不思議に思いながら、よく見てみることにしたんだ。洗濯機の中には、誰かの濡れた服が詰め込まれていて、洗剤が入れっぱなしになっていたんだ。僕は誰かがこの洗濯機を持ってきて、洗濯しようとしたけど、電源ボタンを入れ忘れたんだなと思って、親切心から洗濯開始ボタンを入れたんだ。


 そして、ボタンを押したら、普通に洗濯が始まったから、僕は他の洗濯機をばらして、必要な部品を取り出していたんだ。そしたら突然、洗濯機が大きな音で、バチバチと音を立てたんだ。そしたら、例の洗濯機が大きく揺れていたんだ。


 僕はその揺れと音が収まった後、洗濯機の中に入っていた服は大丈夫かなと思って、中を覗いてみたんだ。


 そしたら、洗濯物が跡形もなく消えていたんだよ。


 僕は不思議に思って、中を隅々まで探したけど何もなくて、洗濯機の周りとか、下も調べたけど、その服がありそうなところにはなかったんだ。僕はそれを不思議に思いながら、色々考えていた時に、携帯にお母さんからメールが入っていたんだ。


 そのメールの内容は買い物に出かけていたら、空から突然濡れた服がたくさん降ってきて、びしょ濡れになったっていうメールだったんだが、それと同時に添付された写真を見たら驚いたことに、さっき例の洗濯機に入っていた服と全く一緒だったんだ。


 その服は見たこともないメーカーの奇抜な服で、お母さんの出かけていた場所は僕のいるコインランドリーから十キロほど離れた場所だったから、僕は思ったんだ


 服がワープしたんだって。」

 私はワープと言う言葉に反応して驚いた。


「それで、試しに魚と蛙をその洗濯機に入れてみたら、学校の空にワープしたってこと。二回目で生体実験なんて、とんだマッドサイエンティストね。そのせいで私は……。」

 私はお腹を触って、一茶をにらんだ。一茶は私の睨みに恐れをなして、目を逸らした。


「いやいや、あれは事故みたいなもので……。」

「詳しく。」

「この洗濯機がワープ装置だって疑いを持った後、もう一度洗濯機の中を覗いてみたら、中にはたくさんの魚と蛙が入っていて、僕は驚いちゃって、勢い良く洗濯機の蓋を閉めた後、パニックになっちゃって、滅茶苦茶に洗濯機のボタンを押して、洗濯を開始しちゃったんだ。


 僕はその後、落ち着きを取り戻して、洗濯機の中で魚と蛙がミンチになるかもしれないと思って、洗濯機をどうにか開けようとしても、信じられない力で閉まっていて、ボタンを使って洗濯を止めようとしたけど、洗濯取り消しボタンがなくて、どうすることもできないまま時間が経ったんだ。


 そしたら、さっきと同じように洗濯機がバチバチと凄い音がして、大きく揺れ始めたんだ。そして、しばらくして、音と揺れがおさまった後、洗濯機の中を覗いてみると、例の如く中には何もなかったんだ。」

「そして、大発見だと思って、私の所に来たと。」

 一茶は大きくうなずいた。


「着いた。」

 私が一茶の声を聞いて、コインランドリーの看板を見つめると、以前来た時よりもつたや雑草がこびりついていて、錆も酷いものになっている。看板には「天晶コインランドリー」と書かれていた。


 一茶はそのコインランドリーの立て付けの悪い戸を両手を使って開けた。中には電気の光はなく、薄暗い。また、天井から落ちてきたコンクリートの粉や黒いカビのようなものがタイルの床を汚していた。コインランドリーの中に入ると、空気がぬるく、何とも表現しがたい変な匂いもする。


「数年前の私はよくこんな汚い場所で、遊んでいたものね。今じゃ考えられないわ。」

「ハハハ、まあ、僕は善くここに来るから慣れちゃったけどね。」

「で、問題のワープ装置とやらはあれ?」

 私は目の前にある一際大きい縦型洗濯機を指さした。横にはその洗濯機を際立たせるようにドラム式洗濯機がずらりと並んでいた。一茶はそうだとうなずいたので、その洗濯機に近づいてみた。その洗濯機は私の肩下くらいの高さがあるから130cmくらいか?


「大体、冷子くらいの高さだから相当でかいよな。」

「確かに、業務用なのかしら?」

 私は洗濯機の横に書かれている企業名を読んでみると、「FIRABELFIA」と大文字のアルファベットで書かれていた。


「フィラ「ベ」ルフィア? フィラ「デ」ルフィアの間違いじゃないの?」

「あっ、本当だ。勢いで読んでいたから、フィラデルフィアって呼んでいたけど、DじゃなくてBになっているね。」

「それだけじゃなくて、本当のフィラデルフィアなら、二つのFはどちらもPHになるはずだけど、まさか、企業名がスペルミスなんてことはないでしょうし、何か意味があるのかしら?


 それにしても、フィラベルフィアにしろ、フィラデルフィアにしろ、そんな洗濯機の会社があったかしら。」

「ないと思うよ。僕は家電の会社や機械に関わる会社は大体覚えているけど、そんな会社知らない。実際、今調べてみたけど、洗濯機を作っている会社にそんなものはなかったよ。」

「やはりそうよね。私の知る限りでもこんな名前の会社はないもの。


 それにしても気になるのは、ワープ装置の名前がフィラデルフィアなんて、私がオカルト信者なら感動していたでしょうね。」

「なんで?」

「フィラデルフィア計画。


 第二次世界大戦中にアメリカで行われたとされる新兵器開発の計画よ。この計画はオカルト界では有名な二コラ・テスラやジョン・フォン・ノイマンが指揮を執って行わた船舶の透明化実験で、その実験中に偶然、瞬間移動いわゆるワープなるものが行われたとされている。」

「それじゃあ、もう、その時にはワープができていたってこと?」

「いや、オカルトだって言ったでしょ。今ではフィクションの話であると考えられているわ。


 でも、このワープ装置とされる洗濯機にフィラデルフィアと書かれているってことは、その計画に関連していることは明らかでしょうね。」

「なるほど。」

「……それにしても、こんなに大きな洗濯機、運ぶのに相当な労力がいるだろうに、誰が何のために運んだのかしら。」

「さあ、この二日以内に運び込まれたことは確かだけど……。」

「いろいろと分からないことだらけね。とりあえず、そのワープ機能とやらをこの目で見てみないことには始まらないわね。」

 私はそう言って、その洗濯機を触ろうとすると、洗濯機の奥の隙間から蛙がぴょこりと出てきた。


「ワープに取り残されちゃった蛙かな。仲間とはぐれて可愛そうに。なあ、一茶。」

「うわあー! 蛙~」

 一茶は蛙を見ると、パニックを引き起こしてしまったようで、こちらに向かって逃げ込んできた。


「ちょっと、落ち着いて。」

 そういう頃には、遅かったようで、一茶は私に突進してきて、私はバランスを崩して真後ろに倒れ込んでしまった。一茶もそれにつられて倒れ込み、私に覆いかぶさる形になった。一茶のカエル嫌いを忘れていた。


「いたた、ちょっとー。」

 そんなことを言っていると、廃墟であるはずのコインランドリーの扉が突然開いた。そこには、奇抜な服を着た男が立っていて、手にはレジ袋を持っていた。男は気まずい顔をしてこちらを見た。


「いやー、若いねえ、お二人さん。……いい所を邪魔しちゃったかな?」

 私はぽっと急に顔が赤くなったことがよく分かった。

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