FIRABELFIA(エピローグ)
「本当に完成したんだね。」
「まあ、考えてみれば当たり前じゃない。誰かがワープ装置を過去に送らないといけないんだから、私達が作ったっておかしくないでしょ。」
「まあ、そうかもしれないな。こいつが生まれた瞬間に、そうなるとは分かっていたけれども……。」
そう言って、一茶は吋の頭に手を置いた。吋は嫌がって、一茶の手を払った。
「もう、なんだよ。いきなり呼び出されたかと思ったら、タイムマシンの実験体だなんて。実の息子を何だと思っているんだ? 俺は切り刻んで捨てられるモルモットか?」
「まあ、そう言うな。
……お前は賢いな。そして、強い。なんでもできる。お父さんとお母さんのいい所をこれでもかともらっている。まあ、僕の遺伝子の比率は少ないってことだけどな。
だから、失敗なんてしたことがないだろう。自分が世界の中心だなんて思っていないか?
だがな、お前は絶対に失敗している。そのことに気が付いていないんだ。一番の失敗って言うのは、自分が間違っていない、失敗していないと勘違いしていることだ。失敗などしない人間はいない。でもな、失敗に気が付かない。失敗に気が付かないふりをしている人がほとんどだ。
失敗に目を向けることは、辛くて、楽しいことじゃない。それでも、目を向けなきゃいけない日が来る。それは突然だ。その突然来る日までに、失敗の惰性を切らなきゃいけない。
……きっと、今言ったことは今のお前には分からないだろう。……いや、分からない。
だから、モルモットになって、タイムマシンに乗ってくれ。」
「……分かったよ。」
一茶は普段は厳しくしかることのない父親だ。何か少し抜けているような父親だ。だからこそ、突然真剣な話をされて、吋はその迫力に怖気づいたのだろう。驚くほど素直に返事をした。
「それと、二つ覚えていてくれ。10月28日19時43分と言う時間とゴミ箱の中に可能性はあるという言葉だ。お前が失敗と言う言葉の意味を分かった時、その二つを使ってくれ。」
吋は不服そうな顔をしていたが、ゆっくりとタイムマシンの方へ向かっていった。結局タイムマシンは、巨大な洗濯機になってしまった。吋を過去に送り込んだ後、ワープ装置を二つ送り込む。これで、過去に矛盾が生じないはずだ。
ワープ装置二つには、過去に見た通り、「FIRABELFIA」と書き込んでおいた。今考えれば、簡単に理解できることだ。「FIRABELFIA」とは、僕たちのイニシャルを並び替えて、作ったものなのだ。まあ、洗濯機連盟を入れた所に、強引さはあることは否めないが……。
F 古畑 FURUHATA
I 一茶 ISSA
R 冷子 REIKO
A 飴井 AMAI
B 泡 BUBBLE
E 越前 ETIZEN
L ランドリー LAUNDRY
F 連盟 FEDERATION
I 吋 INCH
A 天晶 AMAAKI
「やるなら早くしてくれよー」
そう急かす吋の声が聞こえてきた。
「一緒に押す?」
「そうね。ここで私達が初めての出会いになるんだから。」
そう言って、私と一茶はタイムマシンの作動ボタンを押した。




