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Again and again (繰り返し)

 冷蔵庫とつないだコードにカセットを差し込み、エキゾティック物質を充填する。そして、そのカセットを抜き取り、新しく作ったワープ装置の洗濯機の上部に差し込む。洗濯機に繋いだパソコンで、10000分の1秒だけエキゾティック物質を流し込む時間や電流を流し込む時間を変える。


 そして、ワープ装置の中に入れたトマトが無くなっていないか確認する。トマトが無くなっていなければ、もう一度カセットにエキゾティック物質を充填し、最初からやり直す。大体、この一セットを行うためには、40秒弱かかる。


 この繰り返しを丸二日ほどやっている。もちろん、ぐっすりとベットで寝ている暇はない。だが、目をふとつむれば、時計の秒針が5分、10分経っていることがある。まあ、ワープ装置の作成も合わせて、3日程寝ていない訳だから、5分、10分程寝てもしょうがないと思いつつも、数十回の試行を無駄にしたという意識が強く残る。


 このたった数十回の試行ができなかったことで、ラムネを救えないのではないかと考えてしまう。今までの莫大な試行の中で、結果は何一つ変わらず、ワープ装置のドラムの中で、トマトは平然と居座っている。この結果の変わらない繰り返しの中で、何か間違っているのではないか、結果はずっと変わらないのではないかと言う疑念に襲われる。


 この疑念は、試行がかさむ程に増していく。でも、僕はその疑念の闇の中で、ラムネの心中を重ねていた。ラムネもいつ爆破するか分からない時限爆弾を抱えながら、刻々と進む時計の針に恐怖を感じていたのだろう。僕も同じように、時間の進みが怖くなっている。


 ラムネはそんな時間とともに蓄積する途方もない恐怖を自分の小さな心に閉じ込めながら、一人で生きていた。しかし、成長し続けた恐怖はいつか、希望に還元される。恐怖している時限爆弾が、不発弾なのではないかと言う希望だ。


 恐怖しながら生きる二年と言う月日は、遥かに長いものだっただろう。この莫大な時間は、ラムネに永遠を感じさせたのではないか。この病気は一生発症しないのではないかと言う考えが生まれたのではないか。


 そして、ラムネはそんな考えと共に、僕との関係を重ねてしまった。この僕との関係すらも永遠に続くのではないかと考えてしまった。だから、死の焦燥感とは裏腹に、僕との心地の良い関係が変わらないという楽観的な気持ちが心を巣食っていた。


 僕はそんなラムネの相反する心の揺れ動きに気付くことなかったが、偶然にも、ラムネとの関係が変わらないという楽観視は共通していた。互いに慣性で続くと思っていた関係が、ただの惰性であった時が付くのは、その関係が終わった後だ。


 僕は今、初めてこの関係に気が付いた。


 僕は今、この関係を変えることができる。だらだらと続いた惰性の先に、終末は存在する。僕がこのワープ装置の開発に失敗しようが、成功しようが、そこには惰性の終末が存在する。僕はこの長く続いた惰性の関係の最後をこの試行の繰り返しで飾り立てる。

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