Cooler(氷室)
私はかろうじて回収していたノートパソコンに、C3と打ち込んでみた。しかし、出る検索結果は、お菓子会社や車の機種しか出てこなかった。C3にワープやタイムマシン、科学などを付けて検索してみても、これと言って、ピンとくる検索結果は出てこなかった。
最後に「C3 秘密結社」と検索してみた。すると、どこかのオカルト板のスレに飛んだ。そこには、存在が噂されている秘密結社を挙げていくという内容だった。最初はオカルト界隈では有名な秘密結社の名前とその秘密結社がしていること、したことが根拠もない推論として書き並べられていた。
私はそれを流し見ていると、突如、C3と言う秘密結社の名前が出てきた。そのC3の根本の理念としてあるのが、科学の暴走の抑制らしい。科学は進み過ぎると、人間の手に負えなくなり、いつか世界を滅ぼしてしまう。なので、科学が進み過ぎる前に、科学の進歩を止める必要があるらしい。
その具体的な方法は、天才と言われる科学者を片っ端から殺す、もしくは、再起不能にすることだ。それによって、科学の発展を制御する。このC3と言う組織は、日本で発足したとされ、組織の人数は五十にも満たないが、日本やアメリカに居地を持ち、これまで、百人ほどの科学者や技術者を殺したとされている。
基本的に、毒殺によって病死や自殺に見せかけることが多いが、病死や自殺に見せかけることが難しい場合は、テロに見せかけた銃殺や斬殺を行うこともある。最近起こった大学や研究所のテロは、ほとんどこのC3が行っていると言われている。
警察や政府は、このC3と言う組織を認識しているが、C3の中心的人物の情報は全くと言っていいほど掴めておらず、頭を悩ませている。ただ、C3の中心人物として噂されている人物は三人おり、その役割と苗字は、ハッカーの一色、リーダーの車木、そして、殺しの氷室。
「泡ちゃん、学校に遅刻した上に、人気のない踊り場で校則違反のパソコンですか? いいご身分だこと。」
私の顔の横から顔を割り込ませてきたのは、亀山だった。
「……何これ? C3? ああー、確かオカルト部の連中が言ってたわね。科学者を殺す秘密結社でしょ。もしかして、私も天才だから殺されちゃうかもとか思っているの?」
「まさか。私を殺しに来る必要なんてないわよ。殺されるなら、一茶の方が狙われるはずよ。」
「何それ? 泡より一茶の方が価値があるってこと? そんなことないでしょ、確かに、一茶は何か作る能力はもの凄いことは認めるけど、明らかに泡の方がすごいでしょ。だって、あのノーベル賞の候補に三つもなっているんだから。将来有望な科学者でしょ。」
「なら、もう殺されているわよ……。」
「?」
「もう、昼休みも終わりね。もちろん、パソコンのことは教師にチクらないでね。」
「……もちろん。」
そう言って、私は踊り場から立って、階段を下りて行った。
「レコ爺、久しぶり。」
「おお、ラムネの嬢ちゃんか、もしかして、一茶の坊主の代わりに部品を取りに来たのかのう?」
レコ爺は部品が箱一杯に入った段ボール箱の側面を叩いた。
「そうよ。タイムマシンの開発のためにね。」
「やっぱり、タイムマシンなのかい。一茶の坊主は頑張って隠していたのに、やけに素直じゃのう。」
「別に言っても信じないだろうから、言っても問題ないわ。」
「じゃあ、作ったら、わしにも乗らせてくれるかのう。」
「フッ、出来たらね。」
「楽しみにしておるからのう。」
私はそのまま、部品の入った段ボールの箱を持ち上げて、コインランドリーへ向かった。
私はコインランドリーに着くと、まず、一茶の安否を確認した。一茶は少し元気がなかったが、ちゃんと生きていた。私は段ボールの部品を机の上に置いた。机は吋が掃除したらしく、血の跡と生臭い匂いが少し残っているが、特段期にはならない程だった。
「一茶、大丈夫?……大丈夫なわけないか。」
「いや、もう、落ち着いたけど、僕達どうなるんだろう?」
「……私達を守ってって警察に言っても相手にされないだろうし、大人しくしているしかないんじゃないかって言いたいところだけど、……そこをあえて、暴れてみましょう。」
「?」
「賭けだけど、ここはタイムマシン開発を強行するべきよ。」
「なんで?」
「確かに、今朝の脅しみたいなワープは、いつでも私達を殺せるってことを示しているように見えるわね。でも、おかしくない? いつでも殺せるのに、なぜすぐに殺さないのか?
私達を殺さなくても、このワープ装置を壊してしまえばいい。そうすれば、タイムマシンは作れなくなる。でも、そのどちらもをまだしていない。
なぜか?
私の予想では、相手は私達にタイムマシンを作らせたいんじゃないかしら。」
「……そんなことあるのか? タイムマシンを僕たちに作らせたいなら、なんで、今朝みたいなことをしたんだよ。」
「分からない。」
「分からない?」
「分からないわ。でも、いつでも殺せるのに、殺さない理由も分からないわ。でも、行動が回りくどすぎやしない。わざわざ、魚や蛙を切り刻んで、ワープさせるなんて、脅しにしては手間がかかり過ぎている。
確かに、相手は本当に私たちのタイムマシン開発を思いとどまらせたいってことも考えれるけど、私にはタイムマシンを作らせたいって言う意図を感じるの。」
「……だからって、タイムマシンを作るって、危険すぎないか。もしその考えが間違っていたら、僕たちは殺されるかもしれないんだぞ。それに、考えがあっていたとしても、タイムマシンを作った後にどうなるかは分からないぞ。」
「だから、私とタイムマシンを作るか、作らないか。ここで決めて欲しい。」
「えっ……。」
一茶は私の発言に驚いているようで、目を見開いて驚いていた。
「私は何としてもタイムマシンを作る、たとえ一人でも。……正直、私も今言った考えが合っているか自信はない。でも、私はタイムマシンを作りたい。タイムマシンを作れば、私はきっと歴史に名を刻む科学者になる。
これまで私が発表した研究とは比にならないくらいの大発明になる。だから、殺されてもかまわないから私はタイムマシンを何としても開発させる。」
「……。」
しばらくの間私たちのいるコインランドリーには、静寂が流れていた。
「でも、一茶を巻き込む必要はないと思ってる。今なら一茶は見逃してもらえるかもしれない。無理に私のエゴに付き合わなくてもいいわ……。」
「分かった。作ろう。」
私は予期はしていなかったが、期待していた答えが一茶の口からするりと出てきたことに内心驚いていた。確かに、私はずるい言い回しをして、一茶の答えを誘導したかもしれない。それでも、これほど簡単に出てくるものだとは思わなかった。私は一茶の顔を見てみると、勢いで言った発言ではなく、心から出た発言であることが読み取れた。
「一緒にタイムマシンを作ろう。」
「本当にいいの?」
私は嬉しい気持ちを抑えながら、一茶の気持ちを聞いた。
「うん、一瞬、僕はタイムマシン開発から逃げ出す未来を考えてみたんだ。ラムネが死んで、僕が生き延びる未来、……僕はそんな未来考えられなかった。それに、小さい頃から、いつもどんな危険なことも困難も一緒に乗り越えてきた。
ラムネはどうか知らないけど、僕は少なくともそう思っている。だから、これからだって、一緒に乗り越えていきたい、一緒に困難をしょい込んでいたい。そう思っている。
だから、一緒にタイムマシンを作ろう。」




