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エピローグ

 あれから一ヶ月が経った。


 春音を見届けたあと、その足で浄閑寺に行き、説明をして礼を述べた。

 春音の亡骸は和尚が責任を持つとのことで、克弥はホッと胸を撫で下ろした。


 その後は紗子と会うこともなく、平和な日々を過ごしていた。

 菜緒子は元気を取り戻し、就職活動に勤しんでいる。


 そんなある日の夜、克弥は夢を見た。

 小柄な男が肩に荷を担いで歩いている。荷は藁で編んだゴザのようなもので包まれ、縄でしっかり結ばれている。


 周囲は真っ暗で人通りもなかった。


(誰だろう?)


 後ろ姿を追いかけつつ、克弥はじっと男の動向を見つめていた。


(あ!)


 やがて男は塀をよじ登り、縄を引っ張りあげて荷物を中に入れた。

 続けて、背に括りつけていた道具を取り出して土を掘り始めた。

 荷がすっぽり入るぐらいの穴を掘ると、その中に荷を置き、藁を解いた。

 中からは女の亡骸が出てきた。


(春音さん!)


 その時、克弥はずっと引っかかっていたことを思い出した。


(そうだ、なんかヘンだと思っていたんだ。右手の人差し指、夢では第一関節からなかったけど、駐車場で会った時の春音さんの人差し指は、根元からなかった)


 ちらりと見える手。確かに人差し指は根元から切り落とされていた。


 男はわずかな時間亡骸を見つめると、再び包んで縄を結び、穴から出てきた。土を被せ、足で踏んで固める。完全に埋めると、手を合わせた。


 それからしばし。男は納得がいったのか、立ちあがって振り返った。


(あぁ! 店長!)


 その時、克弥は目が覚めた。

 数時間後、バイトに行こうとしたら電話がかかってきた。


「あ、店長。おはようございます」

『おはよう、克弥君。あのね、父が朝方亡くなったんだ』

「――え」

『一週間ほど店を閉めるけど、もう病院に通うこともないから、アルバイトは昨日で終了ってことにさせてもらいたいんだ』


 伊倉は穏やかな口調で説明し、今までの礼を述べて電話を切った。


(店長って独身だから手伝う人もいないよな? お母さんはもう他界してるって聞いたし、お姉さんは九州のほうにいるって……)


 思うが早いか、克弥はクローゼットの中から喪服を取り出し、素早く着替えて家を飛び出した。そして『浪漫屋』の扉を開けた。


「克弥君」

「店長、手伝います!」

「いいんだよ。葬儀屋さんが全部してくれるから」

「いえ、お手伝いします! 掃除ぐらいできますから」

「そう? 悪いなぁ。じゃ、仏壇を拭いてもらえる?」


 克弥は仏壇の掃除を始めた。仏壇への作法を知らない克弥は、丁寧に拭くあまり、仏の領域――本来は触れてはならない仏壇の深奥部にまで手を伸ばした。


 中に祀られているものを取り出して綺麗に拭いていく。そしてある小さな箱に気がついた。


(なんだろう?)


 丁寧に布で包まれている。克弥は妙な胸騒ぎを覚え、いけないと思いながらも、その箱を開けた。


「あ!」


 そこにあったのは骨だった。焼かれていたが、人の指の骨だとすぐにわかった。

 第一関節から上がない指の骨だ。


(春音さんを埋めた男、店長の先祖だったんだ。年代からいって、お祖父さんか、曾お祖父さんぐらいかな。本当なら、その辺りに捨てて終わりのところを、こっそり浄閑寺に持っていって埋めたんだ)


 克弥は、その男がさぞかし悩んだだろうことを想像した。


 剥き出しのまま寺に投げ込めば、僧侶達が気づいて供養してくれたはずだ。そのほうがよかったかもしれない。


 しかしながら、苦しみ抜いて絶命した春音をいくら寺とはいえ無責任に放り投げて捨てるのが不憫に思え、自ら土に還してやろうと思ったのだろう。


 そうなると誰からも弔われなくなる。


(だけど葬式も出してもらえず、誰からも弔われないことを気の毒に思って、体の一部を切り取って、自分で供養していたんだ。だから店長の家族には無害で、逆に利益にすら結びつけていたんだ。あ、いや、そうじゃないか。体の一部が弔われているこの家に、手鏡も――手鏡についた血が帰りたかったのかもしれない)


 克弥は万感の思いを噛みしめつつ、箱の中を見つめていた。


「克弥君、どうしたの?」


 動かず、じっとしている克弥に気づいた伊倉が声をかける。克弥はハッとして顔をあげ、箱を元に戻した。


「なんでもありません。仏壇が終わったら、次はどうしましょう?」

「僕は葬儀会場に行ってくるから、克弥君、留守番頼める?」

「わかりました」


 伊倉が間もなく出かけると、克弥は再び仏壇の前に座った。そして静かに手を合わせたのだった。




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