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 克弥が真美の予備校が六時ぐらいまでかかることを告げると、紗子は時計を確認し、迷ったような口調で返事をした。


「どうしようか。妹さんの話も聞きたいけど、早く祓ったほうがよさそうだし」


 紗子の手が鞄の口に置かれている。


「聖布に動きを封じられて、かなり機嫌を損ねているみたい」


 苦笑を浮かべるその顔には、わずかな焦燥が見られた。


「なにが手鏡に憑いているのか――その正体がわかったわ」

「え! ホントですか!?」

「えぇ」

「……あの、幾つか聞きたいことがあるんですけど」

「でしょうね。でも、その質問に答えるのは後ね。時間が惜しいわ。行きましょうか」

「どこへ?」

「あなたを清める場所よ」


 紗子は言うと手をあげてタクシーを拾った。


 車が走っている間、紗子は口を開かず、鞄に手をやっていた。克弥も無言だった。言葉がなかった。


 除霊師と名乗ったこの女を信じていいのかどうか、そもそもそこから疑問だ。


 しかしながら、確かに菜緒子は落ち着きを取り戻したし、鞄から取り出すアイテムは神道の神職のものだと知識の乏しい克弥でもわかる。


 さらに彼女の口から流れた言葉もそうだ。でたらめと言うのは間違いだろう。しかしながらそれと霊が視えるというのは問題が違うと思うのだ。


 いろいろ尋ねたいことがあるが、黙り込まれて質問ができる雰囲気ではない。


 やがてタクシーが止まり、紗子に促されて克弥は車を降りた。


「ここ……」

「私の家よ」


 二階建ての一軒家だった。紗子は鍵を外して玄関の扉を開けた。


「氷室君。こっち」

「あの」

「早く。時間が惜しいと言ったでしょ?」


 克弥は戸惑いつつも紗子を追って家の中に入った。紗子は廊下を進み、奥の扉を開ける。そして克弥に向け、手招きした。


「地下室?」

「えぇ。あなたから呪いの呪縛を解くにはちょっとやそっとじゃいかないから、絶対に逃げられない聖域で一気に祓うのよ」

「どういう意味ですか?」


 紗子はキリリと鋭い目を向けた。


「何度も言ってるけど、あなた達は見込まれたのよ。手鏡に取り憑いている情念に。真実は情念の元に聞かない限りわからないけど、嫉妬の対象になったのは間違いないわ。推測するに、手鏡を握りしめて、彼女と気持ちを確かめあったとかなんとか、そんなところだと私は睨んでいるけど」


「…………」


「女の過去と似たことをしたんじゃないかしら? だからより強い呪いが発動されたのよ、きっとね」

「同じことをしたから、強く嫉妬された?」


 紗子は頷いた。


「いずれにしても、このままだとあなたは恨みの対象者として取り込まれ、生き地獄を見るわ。あなたと、恋人の菜緒子さん。菜緒子さんは祓ったから、恨みの強さはあなたに向けられる。これ、強烈よ」


 ゴクリと音を立てて克弥の喉が動いた。


「それだけじゃないわ。あなたが菜緒子さんをあきらめない限り、彼女はまた狙われるし、仮に彼女をあきらめて別の女性を好きになっても、今度はその女性が狙われる可能性もある」


 信じられないと言いたげな顔をしている克弥を、紗子は冷たく見ていた。その冷静な目が冗談ではないと語っていた。


「妹は? 妹はどうなんですか?」


「妹さんのほうは詳しく夢の状況と、できたばかりの恋人とのやり取りを聞いてみないとわからないけど、おそらく邪魔をしたかっただけで、ターゲットがあなたであることに変わりはないと思う。それにこういうのって体質や性格も左右するのよ」


 紗子は鞄から手鏡を取り出し、さらに細工を施した。紙垂のついた榊、記号のような文字が書かれている細長い紙を乗せ、新たに白く細い縄で縛る。それから奥に据えられている大きく荘厳な神棚の中央に置いた。


 傍らの水差しを取り出してコップに注ぐと、克弥に手渡した。


「聖水よ。身の内側を清めてくれるわ。用意してくるから、ここで待っていて」


 紗子は隣の部屋に消えた。残された克弥は部屋を見渡した。


 八畳ほどの窓のない部屋は、奥に大きな神道の祭壇――御霊舎が据えられ、四方には天井まである棚が配されている。


 そこにはいろいろな壺や箱が置かれており、すべてに記号のような文字が書かれた紙が貼られていた。


 四隅にはそれぞれ、水と塩、紙垂の垂らされた榊が置かれている。白熱灯と蝋燭の明かりが部屋を照らしていて、なんとも神秘的だった。



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