第3話
「ふ、ふーん。悪くないじゃない」
などと言いながら、愛梨はうっとりとした表情でクラゲを眺めていた。
悪くない反応だ。
水族館を選んだのは、正解だった。
ただ問題が一つ。
計画が狂った。
本来はイルカショーで最大限楽しませ、その後、食事をし、最後にこのクラゲの水槽でしんみりと落ち着かせるつもりだった。
そしていい雰囲気のところで、告白。
というプランだったのだが、クラゲが先になってしまった。
どうしようかな。
今、気持ちを伝えようか?
いや、でもイルカショーが控えてるしなぁ。
イルカショーの後がいいか。
でも、イルカショーの後って雰囲気としてはどうなんだ?
悪くはないかもしれないが、適切ではない気もする。
そんなことを悩んでいるうちに、イルカショーの時間になってしまった。
「わぁ! すごい!!」
愛梨はキャッキャッと楽しそうに手を叩いている。
記憶通り、イルカも好きみたいだ。
「この後、だけど、レストランに行かないか?」
時刻は十六時。
夕食には早いが、お互い昼は早めに食べて来た。
「レストランって、水族館の?」
「ああ」
「良いわね。気になってたの!」
愛梨は嬉しそうに言った。
早速、水族館内にあるレストランへと向かう。
「へぇ、すごい。水槽もあるんだ!」
レストランの壁面は、巨大な水槽になっていて、魚たちが泳いでいる。
魚を見ながら食事ができるのが、コンセプトだ。
メニューは当然だが、海鮮系が多い。
生きている魚を見ながら魚を食べるのは、少々猟奇的な気もするが……。
やはり日本人の性が、魚を見ていると魚を食べたくなる。
「俺はアジフライ定食にしようかな。……愛梨はどうする?」
「このイルカの味噌煮ってやつにするわ」
愛梨は笑顔でそう言った。
……イルカ、好きなのに食えるのか。
いや、好きだから食べるのか?
どういう心境なんだろうか。
水槽のアジを見てアジフライを食べたくなった俺が言えることではないが。
レストランでの食事が終わる頃には、閉館時間になった。
水族館を出ると、景色は夕焼けで紅く染まっていた。
決してベストのタイミングとは言えないが、今を逃したら次のチャンスはない。
やるしかない。
「愛梨」
俺は立ち止まり、愛梨を呼び止めた。
「なに?」
「……これ。ホワイトデーのお返し」
俺はそう言って愛梨に袋を差し出した。
まずはホワイトデーのプレゼント交換をする。
告白はそれからだ。
「えっ……?」
しかし愛梨はなぜか、驚いた表情を浮かべた。
ぽかんと口を開けている。
……予想していた反応と、違うのだが。
「ホワイトデー……? あっ!」
愛梨は目を大きく見開いた。
そして目を泳がせた。
「あぁ……うん、えっと、その……ごめんなさい」
愛梨は申し訳なさそうな表情で頬を掻いた。
「……準備、してなかった」
あっ……。




