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第1話

 それはホワイトデーの、翌朝。


「おはよう。一颯君」

「おはよう。愛梨」


 私はいつものように、幼馴染と待ち合わせ、学校に行こうとした。

 いつもと同じ、変わらない日常が続く。

 そう思っていた。


「――していいか?」


 幼馴染が唐突に、変なことを言い出した。

 最初は聞き間違えかと思って、聞き返した。

 

 しかし幼馴染からの要求は変わらない。

 私は幼馴染からの、唐突なアプローチに困惑し、後退る。

 

 幼馴染はそんな私に焦れたのか、手を伸ばした。

 腕を掴まれる。


 強引に引き寄せられ、抱き寄せられてしまう。


 ど、どうして……!

 わ、私、何か、した!?


 私はただひたすら困惑するしかなかった。





 愛梨と一緒に風呂に入るという衝撃事件から、二週間。

 

「おはよう、一颯君」

「ああ、おはよう」

「……」

「……」


 愛梨との関係が、ギクシャクしている。

 何となくだが、愛梨からの距離感が遠い気がする。


 上手く距離を測れない。

 会話も途切れてしまう。


 避けられているわけではない。

 登下校は一緒だし、予備校でも一緒に勉強している。


 ただ、会話がないだけ。

 沈黙が辛く、気まずく感じる。


 怒っているのだろうか?


 仲直りしたい。

 だけど、できない。

 喧嘩をした記憶がないから。

 何を謝ればいいのか、分からない。


 だが、この状態が良くないことは、分かる。


 今日こそは、仲直りしなくては。


「あ、あのさ。愛梨」

「……なに?」

 

 落ち着け。

 まずはちょっとした、世間話から。


「今日、良い天気だな!」

「……曇ってるけど」


 ……失敗した。




 その日の放課後。

 俺は近くの喫茶店に葉月を呼び出した。


「愛梨に嫌われたかもしれない」

「はあ……?」


 俺の真剣な相談に、葉月は呆れ顔を浮かべた。


「いつも通り、一緒にいるじゃないですか」

「一緒にいるけど、会話ができないんだ」

「へぇー、不思議ですね」


 なぜか、葉月は機嫌が悪そうだった。

 愛梨はともかく、葉月に嫌われるようなことをした心当たりはないが……。


「正直に言うと、私、最近、愛梨さんに避けられているので。分からないんですよね」

「あ、そうなの?」


 言われてみれば、愛梨の口から葉月の話が出ない。

 愛梨と話ができていないせいかもしれないけど。


「喧嘩してるのか?」

「喧嘩をした覚えはありませんが、まあ、避けられている理由は、心当たりがありますね」


 葉月は半笑いを浮かべた。


「それは……」

「風見さんは喧嘩したんですか?」

「いや、喧嘩はしていないが……」

「心当たりはある?」

「そうだな」

「それは何ですか?」 

「……一緒に風呂に入った」


 あの時から、ギクシャクしている。

 いや、風呂から出た後は普通に会話できていた記憶があるので、厳密にはその翌日からだけど。


「ふ、ろ……? お風呂ですか? 一緒に入浴、されたんですか?」


 葉月は目を点にしてそう言った。

 俺は気恥ずかしい気持ちになりながらも、頷く。


「ま、まあ……」

「水着とか、着て?」

「いや……全裸だ」


 俺がそう言うと、葉月は額を抑えた。


「お付き合いをしている自覚、あります?」

「……告白された記憶は、ない。した記憶も」

「全裸で一緒に入浴なんて、仲の良い恋人しかしないと思いますけど」

「あぁ……うん。そう、思う」


 いや、まあ、冷静に考えてみるとキスとかしている時点で、俺たち恋人同士だったかもしれない。

 今更だが。


「で、それだけイチャイチャしてたのに、どうして嫌われたという話になるんですか? セクハラでもしました?」

「いや……どちらかと言えば、俺の方がされてたが」


 そもそも風呂に入ってきたのは、愛梨の方だ。

 それが理由で嫌われたら、理不尽にも程がある。


「……好きって言わないから、怒っているのかなって」


 愛梨に“好き”と言われない限り、俺は“好き”と返さないと心に決めていた。

 しかし冷静に考えてみると、一緒に入浴している時点で“好き”と言われているようなものだ。


 ヴァレンタインのあれも、愛梨なりの告白だったのかもしれない。


 もし、愛梨なりの告白だったのなら……。 

 俺は愛梨の告白を、無視し続けているということになる。


「そんなことで今更、怒らないと思いますけどね。愛梨さんも、好きと認めない時点でお互い様ですし」

「好きって言ってるつもりなのかもと、思って」

「多分、そんなつもり、ないと思いますよ」

「……そうかな?」

「はい。告白している気なんて、ないと思います」


 ……確かにいつも、“勘違いするな”って言うしな。


「愛梨さんは、自分からは絶対に告白しないと思います。意地っ張りですから」

「そうかな? そうかも。なら……」

「でも、自分のこと棚に上げて、告白しない風見さんに逆切れしている可能性は、否めないですね」

「そうか……」


 結局のところ、告白してこない、好きと言わない俺に怒っている可能性は、否定しきれない。

 もう、俺が譲歩した方が、いいのだろうか……。


「愛梨さん、美人ですからね」


 ポツリと、葉月は呟いた。


「それがどうした?」

「いや、可愛いから、モテるなと思って。普通の男性は、愛梨さんの面倒くささ、知らないと思うので」

「……それが、何だよ」

「告白されたら、案外、コロっと行くのかなって」

「そんな馬鹿な!」


 思わず、立ち上がってしまった。

 愛梨が俺以外の男となんて……。


「……でも、そう、だな。俺より相応しい男なんて、いくらでもいるかもしれないな」


 俺、愛梨以外から、好意寄せられたことないし。

 愛梨と違って、モテないし。


「……似た物カップルですね」

「うん? いや、愛梨とはそこまで似てないと思うけど」

「あぁ、うん……風見さんがそう思うなら、そうかもしれませんね」


 葉月は呆れ声でため息をついた。


「そう思うなら、早く告白した方が、いいんじゃないですか?」

「……」

「早い者勝ちですよ」

「そう……だな」

「一生、後悔しますよ」

「あぁ……うん」

「私、嫌ですから。お二人が、お二人以外の人と、恋人になるのは。ブチギレます。絶交しますから」

「……ありがとう」

「それは付き合ってから言ってください」

「その通りだな」


 ……腹を括るか。


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書籍版第一巻、4/15GA文庫様より発売予定です
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