第1話
章タイトルは後で付けます
そこは真夜中の遊園地。
美しくライトアップされたお城、光り輝く噴水、そして夜空には花火。
自然が作り出す闇夜と人工の光が混ざり合い、どこか曖昧で不確かな世界を作り出していた。
昼と夜。
生と死。
唯物と観念。
現世と幽世。
現実と幻想。
そのような狭間の、境界線の世界を人はこう呼ぶ。
“夢”
そのような“夢”の世界に、二人の男女がいた。
どちらも年若く、そして高校の制服を着ていることから、学生であることが分かる。
一人は端正な顔の少年で、もう一人は妖精のように可憐な少女だ。
「……綺麗だね」
どこかぼんやりとした声で、少女はそう呟き……
少年の肩に頭を乗せた。
「そうだな」
少年もまた、ぼんやりとした声で答え……
少女の肩に手を回した。
しばらくの沈黙。
「……一つ、聞いて良いか?」
「……なぁに?」
少女は何かをさっした様子で、少年の顔を見上げた。
少年はじっと、少女の顔を見つめ……
――していいか?
遡ること、一日前。
「おはよう! 一颯君!!」
一颯が家から出ると、ニコニコと笑顔を浮かべた幼馴染が大きな声で出迎えてくれた。
その大きな声に一颯は思わず眉を顰める。
「……おはよう」
朝から妙にテンションの高い愛梨に、一颯はうんざりした表情で挨拶を返した。
愛梨は不思議そうに首を傾げた。
「あれ? 一颯君、テンション低いね。……男の子の日?」
「そんな日はない……ことはないらしいが」
「え? そうなの!?」
「うむ。ただ……俺のテンションが低いのは、低血圧だからだ。そしてお前のうるさい声を開幕で聞いたからだ」
「えー、酷い! こんなに可愛い声してるのに!」
顔はもっと可愛いけど。
にぱー、と愛梨は自分の頬に指を当てて、一颯に対して笑顔を浮かべてみせた。
一方、一颯は小さくため息をついた。
「頼むから朝からトップギアのテンションはやめてくれ……ついていけない」
「あら、そう。なら、ちょっとずつ上げていくわね」
「上げなくてもいいが……」
とはいえ、愛梨と多少会話をしたことで一颯の脳味噌は少し動き始めていた。
そんな一颯は愛梨に尋ねる。
「どうしてそんなにテンションが高いんだ? 良いことでもあったか?」
「良いことはないけど、これからあるはずだわ」
「これから?」
「今日は模試の返却日じゃない」
「あぁ……」
愛梨の言葉に一颯は思わず声を上げた。
今日は一颯と愛梨が以前予備校で受けた、校外模試の返却日だったのだ。
「なに、その反応。どうせ俺は満点だけどみたいな感じ?」
「さすがに全科目はないが……」
「全科目は、ねぇー」
愛梨は一颯をジト目で見つめた。
一颯は小さく肩を竦めた。
過去に満点を取ったことはそれなりにあるのだ。
「愛梨は自信あるのか?」
「まあ、珍しく勉強はしたからね」
「確かに、頑張ってたもんな」
胸を張ってみせる愛梨に、一颯は思わず笑みを浮かべた。
確かに今回の模試では、愛梨はそれなりに勉強した。
勉強時間がほぼゼロに近かった人間が、多少なりとも勉強に手をつけたのだから、その上げ幅はそれなりに期待できそうだ。
「もう、二年生の冬だしね。個人的には大丈夫のDが欲しいところだわ」
「三年の夏休みでもEの人は少なく無さそうだが……」
「第一志望はそれでもいいけど、第二志望以下は安全圏にいたいじゃない」
「それもそうか」
EやDというのは、もちろん大学受験の合格判定のことだ。
もっとも、模試の判定なのであまり当てにはできないが……目安にはなるし、何より自信に繋がる。
「……最低限の保障は欲しいから」
愛梨は真剣な表情でそう言った。
合格できるなら、どこでもいいわけではない。
愛梨には行きたい学部が、将来なりたい職業があるのだ。
どうしても“滑り止め”は高くなってしまう。
「あぁ……ど、どうしよう……ふ、不安になってきちゃった!」
「お前、情緒不安定だなぁ……」
「だって……不安なんだもん……」
どうやら高いテンションは不安の裏返しでしかなかったようだ。
一颯は不安がる幼馴染を勇気づける言葉を探す。
「最悪、浪人すれば何とかなるだろう」
一颯たちの通う高校では、三分の一以上が浪人する。
実質、四年生高校みたいなものだ。
当たり前のように浪人する先輩の背中を見ていると、浪人への抵抗感も少なくなる。
一颯もできればしたくはないと思っているが、しかし選択肢には入れている。
「一颯君がキラキラ大学生やってる中で私だけ実家で浪人とか、絶対に嫌よ」
「俺が受かるとは限らないが……」
「第一志望がすでにA判定の人が、何言ってるの? 仮に落ちたとしても、第二、第三で滑り止まるでしょ。それとも私に付き合ってくれるの?」
「いや、付き合いはしないが……」
「でしょ?」
愛梨の言葉に反論できず、一颯は頬を掻いた。
とはいえ、目標に届かなければ浪人するか、もしくは妥協するかの二択しかない。
そうなった時、お前は妥協するのか? してもいいのか?
……などと、一颯はとても言えなかった。
「すまない。その話は少し早すぎたな」
「そうよ。……まだ、一年以上あるんだし。大丈夫……」
愛梨は自分に言い聞かせるようにそう言った。
正直なところ、一颯には愛梨が焦り過ぎているようにも見えた。
愛梨の言葉通り一年以上はあるし、その気になれば二年目、三年目と延長できる。
どうしても夢を叶えたいという熱意があれば、そういう選択肢を選ぶこともできる。
愛梨は自分にはできないと思っているようだが……
一颯にはそうは見えない。
一颯は愛梨の能力が決して低くないことを、そしてその気になりさえすれば努力できる女の子であることを知っている。
「……ところで第一志望の大学はどこなんだ?」
「えっ……?」
ふと、気になった一颯は愛梨にそう尋ねた。
志望学部については知っているが、志望大学については知らなかったのだ。
そんな一颯の問いに愛梨は頬を掻いた。
「……秘密」
唇に指を当て、悪戯っぽく微笑み……
誤魔化した。
「これでも幼馴染としてしか見れない?」
下着姿で誘惑してくる愛梨ちゃん
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