第3話
「も、もう、店内だから!」
「そ、そうだな!」
もっともらしい理由を付けて愛梨は一颯のポケットから自分の手を抜いた。
一颯もまた大袈裟に頷いた。
そして二人は少し気まずい雰囲気のまま、映画館があるフロアへと向かう。
当然のことだが、映画館には上映中や近日上映予定の映画の広告がそこかしこに設置されていた。
「見る予定なのはあれか?」
「そうそう。ネットだと、そこそこ評判だったの」
その映画はどうやらいわゆる洋画であるらしかった。
ジャンルはスプラッター映画のようで、所々が赤かった。
恐怖を煽るような文面と共に、隅には「R15」と書かれている。
「ポップコーンとか、ジュースはどうする?」
「うーん……高いから要らない。お昼入らなくなるし」
「それもそうか」
二人はそんなやり取りをしながら、学割でチケットを購入しようとする。
しかし途中で愛梨が気付く。
「あ、見て、一颯君。今日はカップル割だって」
「……カップル? あぁ、そうか。カップル、ね」
愛梨の指摘に少し照れくさい気分になった一颯は思わず頬を掻いた。
愛梨はそんな一颯をジト目で見た。
「……何、照れてるの? 気持ち悪い」
「別に照れてない」
「照れてた」
「照れてない」
二人は小競り合いをしながらも仲良くカップル料金でチケットを購入し、指定の席へと向かった。
しばらくすると映画が始まる。
まず冒頭から金髪のパリピたちがテンションアゲアゲのBBQをしているシーンから始まる。
一颯は瞬間的に「ああ、こいつら死ぬんだな」と思った。
しかし一つだけ、予想外のことが一つ。
なんと、金髪のパリピ女の一人が服を脱ぎだしたのだ。
それを皮切りにパリピたちはそれぞれ服を脱ぎ、過激な水着姿になって踊り出す。
どうやらお色気要素も強い映画のようだ。
一颯が思わず愛梨の方へと視線を向けると、愛梨もまたこちらに視線を向けていた。
少しだけ困った表情を浮かべている。
愛梨もそこはかとない気まずさを感じているようだった。
さて、案の定パリピたちは殺され、場面展開が起こる。
主人公とメインヒロインっぽい人物たちが登場し、彼らと怪人との戦いが始まる。
そこからの内容は愛梨が「そこそこ評判が良い」と言っただけあり、面白かった。
しかしながら、要所要所で過激なお色気シーンが挿入された。
特に最後に主人公とヒロインが愛を交わし合うシーンは、完全にヤッているように見えた。
(見終わった後、愛梨にどんな話をすればいいんだ……?)
必ず訪れる、鑑賞後の気まずい雰囲気にどう対処するか。
一颯は頭を悩ませるのだった。
「……終わったし、出よう」
「……そうね」
一颯と愛梨はエンドロールが終わった後、立ち上がり映画館を出た。
暗い場所から明るい場所へと移動すると、今まで分からなかった愛梨の表情がはっきりと分かる。
愛梨の顔は仄かに赤らんでいた。
さすがに恥ずかしかったらしい。
「えーっと、昼は……」
「す、凄い……内容だったわね」
昼食の話でもして気分を切り替えようとする一颯の言葉を遮り、愛梨はそう言った。
愛梨の方から切り出してくるとは思っていなかった一颯は、戸惑いの表情を見せた。
「そ、その、ね? そういう要素が少しはあるとは聞いていたのだけれど、その、あそこまでとは思っていなかったというか……だから、その、分かるでしょう?」
愛梨は言い訳するように、一颯に対して早口でそう捲し立てた。
当然、一颯も愛梨が知らなかったことは理解している。
最初から知っていたらそもそもこんな映画を選ばない。
もしくは、もっと堂々としているだろう。
こんなにも戸惑った、しおらしい表情を見せることはない。
「……お前がむっつりスケベだってことか?」
だからこそ、一颯はあえて愛梨を揶揄うことにした。
このまま愛梨に理解を示すよりは、雰囲気が明るくなると考えたからだ。
「違うって言ってるでしょ! ……そういう一颯君は、食い入るように見てだけど、どうなの? この、むっつりスケベめ」
愛梨はそう言いながら一颯を肘で突いてきた。
愛梨も一颯と同様に、笑い飛ばす方向性にした方が雰囲気が良くなると思ったようだ。
「俺の顔じゃなくて、映画を見ろよ。……あの程度の内容、恥ずかしくて見れなかったのか?」
「そ、そんなわけないじゃない。ただ……一颯君がどんな顔して、見てるかなって。実際、凝視してたでしょ? やっぱり、えっちなこと考えてたの?」
「えっちなことって……」
エロいというよりは下品。
それが一颯の感想だった。
好きか嫌いかで言えば、嫌いとはいえない……まあ好きではあるが、そこまで価値があるようにも見えなかった。
「あれを見るくらいなら、お前を見るよ」
「……なんで私?」
一颯の言葉に愛梨は首を傾げた。
一方で失言に気付いた一颯は自分の頬を掻きながら答えた。
「……お前の方が、美人だなって」
髪色は同じ金色だが、愛梨の方が綺麗だった。
顔立ちも愛梨の方が当然、上だ。
スタイルは……成人女性と未成年ということもあり、豊満さではさすがに映画の女優の方が分配はあがった。
しかし手足の長さや、体の細さなどのバランスを考えれば愛梨の方が綺麗に見えた。
「な、何を急に……揶揄わないでよ」
一颯の言葉に愛梨は戸惑いの表情を浮かべた。
そして赤らんだ顔を恥ずかしそうに俯かせる。
「別に揶揄ってはいないけど……」
一颯は弁明しながらも、柄にもないことを言ってしまったと後悔する。
再び雰囲気が気まずくなり始める。
しかしその前に愛梨は顔を上げた。
「……つまり、私のこと、そういう目で見てたってこと? このむっつりスケベめ!」
顔を赤らめながらも、愛梨は気にしていないとでも言うように、肘で一颯の体を強く突いた。
一颯は助かったと思いながらも、肘で愛梨を突き返す。
「違うって言ってるだろ? この自意識過剰め」
二人はしばらく、肘で互いを突き合った。
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