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第4話 

『……愛してる』

『私も……』


 ――初めてのキスは甘酸っぱい味がした――



「……ふーん」


 というような台詞、モノローグが書かれていた少女漫画を読みながら、愛梨はどこかつまらなそうな声を上げた。

 そして漫画を閉じ、ベッドに寝転がる。


「別に甘酸っぱくはなかったけどね……」


 愛梨はそんなことを呟きながら……

 自分の唇に触れた。


 つい数時間前、幼馴染と接吻をしてしまったことを思い出した愛梨は僅かに頬を赤くした。


「……少しはしたなかったわね」


 体を小さく震わせながら、熱い吐息を漏らした。


 神代愛梨にとって、風見一颯という少年は弟――決して兄ではない。断じて!――のような存在だ。

 その弟と接吻したのだ。


 超えてはいけない一線を超えた。


 それに対して愛梨は僅かな罪悪感と背徳感……

 そして確かな興奮を覚えていた。


 背筋がゾクゾクとするような、官能的で甘美な快感を感じた。

 初めての感覚に驚き、腰が抜けてしまったことは……事実だ。


「でも、大したものでもないわ」


 二度と幼馴染と接吻することはないだろう。

 否、二度としてはいけない。


 自分に言い聞かせるように愛梨は呟いた。






 さて、夕食の最中……


「ねぇねぇ、愛梨ちゃん。最近、一颯君とはキスとかした?」

「げほっ……」


 母親の唐突な質問に、愛梨は思わずむせ返った。

 動揺で愛梨の視線が泳ぎ、そして顔が仄かに赤くなる。


「きゅ、急にどうしたの……!?」

「いやぁ……そろそろ、進展はあったかなって。もう、付き合って長いでしょう?」


 どうやら、今日の顛末を知っていて、尋ねてきたわけではないようだ。

 愛梨はホッと、胸をなでおろす。


「一颯君なんかと、するわけないでしょ。そもそも付き合ってもないし……くだらないこと、聞かないで」


 愛梨は顔を背け、冷たい声でそう言った。

 一方、愛梨の母親は小さくため息をついた。


「もう、愛梨ちゃん……一颯君にも、そんな態度、取ってないわよね? そんなんだと、取られちゃうわよ?」

「取られるって、誰に?」

「他の女の子に決まってるじゃない。ほら……一颯君、最近、増々男前になって来てるじゃない。背も高くて、頭も良くて……みんな放っておかないんじゃないかしら?」


 弱虫で、泣き虫。

 虚弱体質で、愛梨がいないと何もできない。


 ……それは過去の話だ。


 いつの間にか、一颯は愛梨の身長を超した。

 男性らしく体付きもガッシリしてきたし、女顔だった容姿も、良い意味で男性らしくなってきた。

 

 そして頭も良い。

 一颯に想いを寄せている女子が、決して少なくないことを愛梨は知っている。

 ……愛梨という存在がいるため、表面に出て来ないだけだ。


「そもそも、一颯君は私の物じゃないし、一颯君のことなんて、好きでも何でもないわ。ただの幼馴染だもの。一颯君が誰とお付き合いしようと、私の知ったことではないわ」


 愛梨はそう言って拗ねた様子で頬を背けた。


「素直じゃないわねぇー」


 愛梨の母親は呆れ声を上げる。

 と、そこで新聞を読んでいた愛梨の父親が顔を上げた。


「愛梨……いったい、一颯君のどこに不満があるんだ?」

「……別に不満なんてないわよ」


 愛梨は眉を顰め、そう答えた。

 愛梨の目から見て、今の風見一颯という少年にはこれといった欠点はない。

 そして現状の関係にも、不満はない。


「だから、このままでいいの。……まあ、一颯君の方から頭を下げて、付き合ってくださいって頼むなら……話は別だけれどね?」


 そうしたら、考えてあげないこともないわ。

 鼻高々と愛梨はそう言った。


 私は別に一颯君のことは好きじゃない。

 ……一颯君が私のことをどう思っているかは、知らないけどね?


 と、ナルシストな愛梨は一貫してそのスタンスだった。


「「はぁ……」」


 そんな娘に対し、両親は揃って大きなため息をついた。





 そして夕食後。


「……そう、別に私は一颯君のことなんて、好きじゃないわ」


 自室に戻った愛梨は、小さな声で呟いた。

 

 まるで少女漫画のヒロインのように……

 ドキドキする? ときめいてしまう?

 接吻したいと、されたいと、思ってしまう?

 他の女の子に嫉妬する?


 あの、双子の弟のような存在に。

 泣き虫、弱虫だった、あの男の子に。


 幼馴染に夢中になる?


「あり得ない」


 幼馴染が自分に求めてくるというならともかくとして。

 自分が幼馴染を求めるだなんて、あり得ない。


「だから……気のせい。気の迷い。勘違い……緊張しただけ」


 愛梨は自分の唇にそっと触れた。


 体の熱と、心臓の鼓動が収まるまで……

 愛梨はずっと、繰り返し、何度も呟いた。






 ――無自覚カップルがおしどり夫婦になるまで、あと六年。

 まだまだ道は遠い。

 

ぶっちゃけ、ネタがそうあるわけではないので、長くはなりません。

が、例のごとくそれは私のモチベーション次第なので……

というわけで続きが楽しみ、末永く読んでいきたいと言う方はブックマーク登録・評価(目次下の☆☆☆☆☆を★★★★★に)、感想等頂けると

励みになります。



次回、壁ドン編です

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書籍版第一巻、4/15GA文庫様より発売予定です
i716976
― 新着の感想 ―
[一言] にやにやがとまりません。。。
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