第2話
「……遅いな」
一颯は携帯を確認しながら呟いた。
すでに待ち合わせの時間を過ぎているが……待ち人は来ない。
「相変わらずマイペースなやつだ」
一颯は思わずため息をついた。
考えてみると、一颯の周りにはマイペースで自分勝手で我儘な女子が多いように感じられる。
その筆頭が愛梨だろう。
(……少し可哀想なことをしたかな?)
先ほど、強引に愛梨を振り切ってしまったことを思い出し、一颯は少しだけ後悔した。
少し傷つけてしまったかもしれない。
愛梨に悲しい思いをさせるくらいならば、素直に白状して愛梨を連れてきても良かったかもしれない。
と、一颯はそんなことを考えていると……
一颯の携帯が音を鳴らした。
少し慌てながらも、携帯を耳元に当てる。
『今、着きました』
「そうか。改札前にいるけど……」
『見つけました! 北口の方から来ます』
言われるままに北口方面を見ると……
茶髪の可愛らしい女の子が大きく手を振りながら、こちらに駆け寄ってきた。
「いやぁ、すみません。寝坊しました」
悪びれもなくそう言ったのは……一颯の友人。
葉月陽菜だった。
「待ちました?」
「いや……俺も今、来たところだ」
「え? それは酷い遅刻ですね!」
「……社交辞令だが。あと、お前が言うな」
「分かっていますよ」
ケラケラと葉月は愉快そうに笑った。
「実は風見さんとのデートが楽しみ過ぎて……寝付けなかったんです」
「……そんなに楽しみだったのか?」
意外だと思いながら一颯はそう尋ねると……
葉月は大きく頷いた。
「はい。友達の彼氏と浮気デートすると考えると、背徳感が堪らなくて、脳汁ドバドバで……」
「あぁ、そうか……」
いろいろとツッコミたいことは多かったが、面倒くさかったので一颯は適当に流すことにした。
そんな一颯の反応が面白くなかったのか、葉月はさらに続けた。
「ちなみに愛梨さんには……ちゃんと内緒で来れましたか?」
「え、あぁ……いや、実は見つかって……」
「え!?」
「でも、お前のことについてはバレてない。……女の子と出掛けるということについては、何故かバレたけど」
一颯は愛梨に「女の子とデート?」と問われたことを思い出しながら、首を傾げた。
今更ながら、どうして分かったのか分からない。
女の勘……そうとしか説明できない。
「つまり愛梨さんは……風見さんが女の子とデートをすると知って、それを見送ったわけですか」
「え? まあ、そうだけど……それが?」
「いやぁ……愛梨さんの気持ちを思うと、あまりに切なくて……何と言うか、脳味噌が破壊される感じか……」
葉月は両手で体を抱き、見悶えた。
ドン引きする一颯を他所に葉月は一人で勝手に納得した様子で大きく頷く。
「やっぱり……NTRは幼馴染物に限りますよね」
「いや、別に俺はNTR物は好きじゃないんだが……」
「才能ありますよ」
「嫌な才能だな……」
一颯は苦笑した。
「さて……冗談はともかくとして、愛梨さんへのプレゼントを買うことはバレてないんですよね?」
「まあな」
そう、今回の目的は葉月とのデートでも浮気でも何でもない。
愛梨にプレゼントを買うことだ。
愛梨に内緒なのは……できれば“サプライズ”を演出したいからである。
「ハロウィンパーティーを忘れてたお詫び、でしたっけ?」
「そうそう」
少し前のハロウィンで一颯は愛梨を怒らせてしまった。
一応、許しては貰えたが……しかしハロウィンを楽しみにしていた愛梨をガッカリさせてしまった事実は変わらない。
そこでここは一つ、お詫びにプレゼントを渡そうと考えたのだ。
要するにハロウィンのお菓子の埋め合わせである。
「しかし……毎年、クリスマスや誕生日では贈り合っているんですよね? 風見さんの方が愛梨さんとの付き合いも長いですし……私の意見で良いのですか?」
葉月を呼んだのは、「女の子の意見」を聞きたかったからだ。
とはいえ、一颯も愛梨との付き合いも長く、その好みや趣味も分かっている。
そういう意味では葉月の意見は不要に見えるかもしれないが……
「普段は大した物、贈ってないからな。ハンドクリームとか、ハンカチとか、そんな物ばっかりだし……」
「なるほど。……つまり今回はしっかり気合いを入れようと、そういうことですね?」
「そんなところだな。……何をニヤニヤしてるんだ」
「いやぁ……中学生の頃からお二人を見守ってきた身からすると、ようやくその段階にと……感慨深い気持ちになりまして」
腕を組みながらうんうんと頷く葉月。
後方師匠面。
というワードが一颯の脳裏を過った。
「……まあ、いいや。そろそろ行こうか」
「そうですね」
一颯と葉月はようやくショッピングモールへと向かうため、歩き出した。
駅を出ると……強く、冷たい風が吹いた。
ブルっと葉月は体を小さく震わせた。
「おお……寒いですね……」
もうちょっと着て来れば良かった。
と、後悔の言葉を漏らす葉月に対し……一颯は自分のマフラーを指さした。
「貸そうか?」
「え? い、いや、さすがにそれは申し訳……」
「まあ、気にするな。呼び出したのは俺だしな」
一颯はそう言いながら自分のマフラーを首から外し……
葉月の肩に掛けた。
葉月は受け取ったマフラーを巻きながら……
一颯に尋ねた。
「もしかして、愛梨さんにも普段からこんな風にやっているんですか?」
この色男め!
と、葉月が揶揄いの言葉を掛けると……
一颯は肩を竦めた。
「まさか。今回だけだ。……愛梨には半分しか貸さないし」
「……半分?」
葉月は思わず首を傾げた。
「……それは一緒に使うという意味ですか?」
「そうだけど……?」
「レベル高過ぎでしょ……」
葉月は呆れ顔を浮かべるのだった。
一方、その頃……
「ひ、陽菜ちゃんだったなんて……!」
「わ、私には半分しか貸してくれないのに!!」
サングラスにマスクを付けて不審者がショックを受けていた。
愛梨ちゃんの脳味噌が……
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