第2話
「愛梨って、多分俺のこと好きだと思うんだよ」
コンビニで弁当を購入し終えた……帰り道。
風見一颯は友人である葛原蒼汰にそう言った。
一颯のそんな発言に対する葛原の反応はと言えば……
「お前、それ同じこと前も言ってたよな」
呆れ顔であった。
それもそのはず。
半年に一度の頻度で一颯は葛原に「愛梨ってもしかして俺のこと好きなんじゃ……?」と言っているからだ。
その上……
「で、しばらくしたら『やっぱり違ったわ……』って、落ち込むんだろ?」
「別に落ち込んでない」
一颯はムッとした表情で答えた。
確かに一颯は「もしかして愛梨って俺のこと好きなんじゃ……」と定期的に勘違いをして、「やっぱり違った」ことを繰り返してはいるが……
違ったからといって落ち込んだことは一度もない。
「むしろ安心したほどだ」
「ふーん……そんな顔じゃなかったが……」
「それに今回は前よりも確信がある」
なぜなら、愛梨の方からキスしてきたからだ。
お互いに意地の張り合いだった、ファーストキスの時とは違う。
愛梨の方から、どういうわけか求めてきたのだ。
また、風邪を引いた時も……
冷静に考えてみると愛梨は構って欲しそうにしていたように見えた。
故に「やはり愛梨は俺のことが好きなのだ」と、一颯は考えたのだ。
「ふーん……まあ、実際、神代はお前のこと好きだと思うけどな」
「だよな?」
「で、お前も神代のこと好きだろ?」
「それは違う」
一颯は即答した。
別に一颯は愛梨のことなど、好きではない。
ただの幼馴染でしかないからだ。
……と、少なくとも一颯は考えている。
「あぁ……そうなの? じゃあ、仮に好きって言われたら振るのか?」
「……いや、愛梨がどうしてもと頼むなら、付き合わないこともない」
愛梨は生意気な幼馴染だが、しかし可愛らしい女の子であることは事実だ。
その愛梨から好きと言われたら……満更でもない気持ちにはなる。
もちろん、今の幼馴染同士の関係が崩れてしまうのではという懸念もあるのだが……
そもそも告白された時点で、どう転んでもその関係は崩れてしまうだろう。
なら、振るよりも付き合った方が、関係を維持できる。
「はぁ……本当に素直じゃないな。好きなら好きと言えばいいのに」
「本当にそうだよな」
「お前のことだぞ」
葛原は呆れた声でそう言った。
さて、予備校での授業も終わり……
二人はいつものように一緒に帰った。
「じゃあ、一颯君。また後でね」
「ああ……後で?」
「うん、着替えたらそっちに行くから」
愛梨の問いに一颯は増々首を傾げた。
着替えたら、の意味が分からなかったのだ。
今日は土曜日で学校がなく……よって二人は制服ではなく、私服だ。
一颯の家に遊びに来るなら、そのままくればいい。
いつもは制服すら着替えずに、一颯の部屋に直行しているのだ。
ましてや私服ならば尚更だ。
「うん、ちゃんと用意してるから。楽しみにしててね?」
「あ、あぁ……?」
何を?
一颯は意味も分からず生返事をする。
そうこうしているうちに幼馴染は自分の家の中に入り……
その前に振り返った。
「最低限、お菓子は用意しておいてね」
「お菓子? うん、まあ……あるけど……」
「なかったら、“悪戯確定”だからね?」
愛梨は軽くウィンクをすると、とうとう家の中へと消えてしまった。
一人、外に残された一颯は首を傾げ……
「ああ!!」
大声を上げた。
それから十五分後のこと。
一颯が一人、そわそわしていると……
インターフォンがなった。
「いーぶーきーくん! あそびましょー!」
愛梨の声が外から聞こえてきた。
「……上がってくれ」
「お邪魔します」
そう言いながら部屋に上がってくる愛梨を見て……
一颯は少しだけホッとした。
というのも愛梨の恰好が普通だったからだ。
ごくごく普通の……冬物のコートを身に纏っている。
(……仮装じゃない。ということは……)
ホッとしたのも束の間……
「はい。こっちは一颯君のご両親に渡してね」
愛梨はそう言うと二つ持っているうちの、もう一つ紙袋を一颯に渡した。
中からはふんわりとした焼き菓子の香りが漂って来た。
少しカボチャの匂いも感じられる。
一颯は背中に冷や汗が伝うのを感じた。
「じゃあ、早く部屋に行きましょ」
ニコニコと愛梨は機嫌良さそうに言った。
少し前まで予備校で勉強をしていたせいか、羽を伸ばせることを心の底から喜んでいるようだった。
「あ、あぁ……」
一颯は頷くと自分の部屋まで、愛梨を案内した。
すでに二人で寛ぐための座布団とテーブル、飲み物、そしてスナック菓子などの集められるだけのお菓子は用意していた。
「うんうん、感心、感心」
一颯の用意は、今のところ愛梨にとっては最低限の物だったらしい。
大きく頷いた。
そして……
「じゃあ……私から、行こうかな?」
愛梨はそう言うと……
バサっと冬物のコートを脱いだ。
「……え?」
一颯は思わず目を見開いた。
というのも予想外の姿が現れたからだ。
黒いタイツに、黒いハイレグタイプのレオタード状の衣装。
紙袋から取り出したうさ耳バンドを着ければ……
それはいわゆる、“バニースーツ”だった。
「……じゃあ、いくわね?」
愛梨はわざとらしく咳払いをすると……
「トリック・オア・トリート! お菓子をくれなきゃ、悪戯しちゃうぞ!?」
愛梨は楽しそうに一颯にそう言った。
そして一颯は……
「すみません! 忘れてました!」
「……は?」
愛梨の目が一瞬で冷たくなった。
うそつき
悪戯確定ね
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