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第1話

「じゃあ、目を瞑って」

 

 金髪碧眼の、妖精にように可愛らしい容姿の女の子は……

 目の前の少年に向かってそう言った。


「お、おい……近づくなよ……」


 少年は思わず後退りする。

 というのも少女がとても蠱惑的な恰好をしていたからだ。


 大胆に露出した白い肌、肩、鎖骨、胸の谷間……

 普段は隠れていて、意識することはないところへと、自然と目が向いてしまう。

 そして幼馴染にそのような視線を向けた罪悪感からか、慌てて目を逸らす。


「こら、逃げちゃダメ」


 気付くと少年は壁際に追い込まれていた。

 少女はそっと……少年の顔へと、手を伸ばす。

 顎に軽く手を添えた。


「ほら、早く目を瞑って」

「い、いや……」

「はいしか言っちゃダメ」


 少女はそう言うと少年の顎を、強引に下へと引き寄せる。


「罰だから」


 少女の言葉に観念したのか……

 少年は目を瞑った。


 そして少女は少年の唇にゆっくりと顔を近づけ……






 十月の末頃。

 とある塾の自習室兼休憩室にて。


「はぁ……」


 金髪碧眼の可憐な少女……神代愛梨は深いため息をついた。

 彼女の目の前にはノートと参考書が広がっている。

 珍しく勉強中のようだった。


「随分と大きなため息ですね。……悩みごとですか?」


 そう尋ねるのは愛梨の正面に座っている、茶髪の少女。

 愛梨の友人、葉月陽菜だ。


「まあね……」


 愛梨のため息には様々な理由があった。

 

 例えば……今日はハロウィン、そして土曜日だ。

 つまりお祭りだ。

 にも関わらず、塾があった。 

 ハロウィンは祝日に当たらないのだから仕方がないのだが……

 どうしても、せっかくのお祭りなのに……という気分になってしまう。


 次に勉強のこと。

 愛梨は勉強が嫌いだし、努力も苦手だ。

 できればやりたくない。

 しかし次の試験では良い結果を出せるように本気で勉強する……と幼馴染に誓った手前、勉強しないわけにはいかない。

 だから今、こうして勉強している。


 そして……


「風見さんとの関係ですか?」

「ファッ!?」


 葉月の指摘に愛梨は思わず奇声を上げた。

 気が付くと愛梨の顔はほんのりと赤く染まっていた。


 そして少し慌てた様子でキョロキョロと周囲を見渡す。

 噂の当人……愛梨の幼馴染である、風見一颯の姿は見られない。

 彼は今、コンビニまで買い物――昼食を買いに――に出かけている最中だった。

 ついでに彼との共通の友人、葛原蒼汰も一颯と一緒に出かけている。

 ……もっとも、それはどうでも良いことであるが。


「……ど、どうして、分かったの?」


 愛梨は小さな声で葉月にそう尋ねた。

 すると葉月は苦笑した。


「いえ……ただの当てずっぽうですが。本当だったんですね」

「……ま、まあね」


 愛梨は気まずそうに頬を掻きながら頷いた。

 そう、最近愛梨は一颯との関係に悩んでいたのだ。


「良かったら相談に乗りますよ?」

「……そうね」


 愛梨は少し悩んでから頷いた。

 葉月なら、無暗に吹聴したりはしないだろうという判断だ。


「最近、一颯君がさ……」

「はい」

「……勘違いしてそうなんだよね」

「ふむ……どんなですか?」

「私が……一颯君のことを、好きだと思ってそうなんだよね」


 愛梨はほんのりと頬を赤らめ、そして眉を顰めながらそう言った。

 あの日、確かに愛梨は一颯にキスをした。

 何となく、そんな気分になったからだ。

 雰囲気に乗せられたのだ。

 一颯のことが好きだからではない。

 事実として、普段は一颯にキスをしたいなどとは欠片も思わない。

 愛梨は一颯のことなど、好きではないのだ。


 にも関わらず……

 一颯は愛梨が、一颯のことが好きだからキスしたと、勘違いしている節がある。


(何よ、お前と同じくらい興味津々って……)


 以前、風邪を引いた時に一颯に言われた言葉を愛梨は思い出す。

 あれは愛梨は一颯に興味津々……つまり男性として好きだと思っていることが前提の言葉だ。


 やはり一颯は、愛梨が一颯のことが好きだと思っているのだ。


 これは愛梨にとっては非常に遺憾だ。

 実に腹立たしい。


 一颯が愛梨のことが好きで仕方がないのならばともかくとして、愛梨が一颯のことが好きで仕方がないなど、あり得ない。

 あってはならない。

 プライドの高い愛梨はそう思っている。


「なるほど……」


 さて、愛梨の悩みを聞いた葉月は大きく頷いた。

 そして……


「……違うんですか?」

「……何が?」

「え? だから、愛梨さんって風見さんのこと、好きですよね?」


 何を今更?

 という表情で葉月は愛梨にそう尋ねた。


 愛梨の顔が見る見るうちに赤く染まる。


「違う! 何言ってるの!? 根拠は何?」

「いや、だって恋人同士じゃないですか」

「ただの幼馴染って、言ってるでしょ?」

「あぁ……そういう設定でしたね」


 葉月は呆れ顔を浮かべながら頷いた。

 愛梨はいろいろと言いたいことがあったが……グッと堪えることにした。


「そう、そうよ。私たちは恋人じゃないし……断じて、私は一颯のことなんて、好きじゃないの。にも関わらず……一颯君は、私が一颯君のことが好きだと思っているみたいなの。……幼馴染がこんなんだと、恥ずかしいでしょ? 勘違い童貞みたいで」


「処女が童貞を馬鹿にしても仕方がない気が……あぁ、いえ、何でもないです」


 風見一颯が勘違い童貞なら、神代愛梨は拗らせ処女だ。

 などと葉月は思ったが、心のうちにしまうことにした。

 冷静に考えると自分も処女だったからだ。


「うーん、それは大変ですねぇ」

「あのさ、陽菜ちゃん。適当に共感しておけばいいかみたいなのはやめて。……今は共感じゃなくて、解決方法が欲しいの」


 愛梨の言葉に葉月は面倒くさそうに眉を顰めた。 

 これが真剣な悩みであれば葉月も一緒になって頭を悩ませる気にはなるが……

 蓋を開けて見れば、いつものバカップルの痴話喧嘩だ。

 関わる方が馬鹿らしい。

 が、最初に聞いたのは葉月だし、相談に乗るとも言ってしまった。


 葉月は少し考えてから……答える。


「素直にあなたのことは別に好きじゃないって言えば良いじゃないんですか?」

「何よ、それ。そんなこと、いきなり言い出したら……頭の悪いツンデレヒロインみたいじゃない」


 そんなこと言ったら、勘違いが深まるだけじゃない。

 愛梨は少し顔を赤らめながら言った。

 すると葉月は大きく目を見開いた。


「へぇ……自覚があったんですねぇ。わわ! ぼ、暴力反対!? い、今時、暴力系は流行らないですよ!!」


 拳を振り上げるフリをする愛梨に対し、葉月は慌てて頭を抱えて縮こまった。

 一方の愛梨は頬を膨らませ、腕を組み、顔を背けた。


「私はツンデレじゃないし、ましてやそんなツンデレみたいなこと、言いたくないわ」

「そ、そうですか? でも、ほら、大事なのはTPOというか……場面だと思うんですよ」

「……場面?」


 愛梨の問いに葉月は大きく頷いた。


「確かに、開口一番であんたのことなんて好きじゃない……って言い出したら、頭の悪いツンデレですけど。例えば……ほら、風見さんが勘違い童貞ムーブをした途端に、ちゃんと好きじゃないと言えば、それほどおかしくはないでしょう?」


「うーん、そうね……確かに言わないと伝わらないでしょうし。でもなぁ……好きじゃないって直接言うのは、どうしても、こう、ツンデレ感が……」


「そこはまあ、言い方を工夫してくださいとしか……」


 頭の悪いツンデレが言うんだから、何を言っても頭の悪いツンデレっぽくなるのは当たり前でしょうよ。

 と、葉月は思ったが心の奥底にしまっておくことにした。


 

 



新章スタートです。

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書籍版第一巻、4/15GA文庫様より発売予定です
i716976
― 新着の感想 ―
[良い点] 何もおかしくないけど草の生える章タイトル [気になる点] この位のいたずらで済むんでしょうかね
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