第4話
ある日。
一颯と愛梨は同じベッドの中で並んで寝ていた。
「可愛いわねぇ、二人とも」
「手まで握って……仲がいいなぁ」
二人の若い男女はカメラを構えながらそれを見守る。
「もしかして将来……結婚したりして?」
「そうなったら愛梨ちゃんは俺たちの娘ということにもなるなぁ」
そんなやり取りをしていると……
パチっと、愛梨が目を見開いた。
そして……
「……んぁ、んっぎゃぁぎゃぁぎゃぁ!!」
大きな声で泣き始めた。
小さな手足を上下に動かし、そして隣で寝息を立てていた一颯の体をバシバシと叩く。
「んっぐ、ぎゃぁぎゃぁぎゃぁ!!」
そして一颯も揃って泣き始めた。
「……あら、一颯、泣かされちゃって……男の子なのに……大丈夫かしら? この子」
「赤ちゃんなんてこんなものじゃないか?」
ある日。
一颯と愛梨はそれぞれ玩具で遊んでいた。
最初は自分の玩具――愛梨は人形、一颯は玩具の電車――で遊んでいた二人だが……
「ぶっぶー! ぶっぶー!」
愛梨が一颯の電車の玩具に、人形を乗せて遊び始めた。
一颯は少しだけ、戸惑った表情をする。
何かを言いたそうでし、しかしどう言えばそれを表現できるのか分からない。
そんな顔だ。
「……」
とはいえ、電車の玩具は一つではない。
一颯は別の電車を線路の上で走らせようとして……
「じゃま!」
バシっと愛梨に跳ね除けられてしまう。
気が付くと愛梨は一颯の玩具(線路)を完全に乗っ取っていた。
「……ぐずぅ」
一颯は線路で遊ぶ愛梨をじっと見つめる。
そしてしばらく戸惑った末に、愛梨に話しかける。
「あーちゃん、かして」
頑張ってその一言を口にする。
すると……
「ヤッ! あいりの!!」
拒絶されてしまう。
これにはさすがに一颯もムッとした表情を浮かべる。
何となく、愛梨の言い分が間違っていると感じたからだ。
「うぅー!!」
声を上げ、一颯は自分の玩具を奪還しようとする。
玩具を掴み、強引にそれを引っ張る。
「だめっ!!」
愛梨も負けじと引っ張る。
そして気付けば揉み合いになり、そして……
「えいっ、えいっ!!」
バシバシと愛梨が玩具で一颯を叩く。
叩かれたショックと痛みにより、一颯の目から涙が溢れる。
「うわぁーん!! あーちゃんがぶっだぁ!!」
大声で号泣する。
そして一颯が泣いたことに驚いたのか、愛梨はビクっと体を震わせる。
「うぇーん!!」
愛梨も泣き始める。
少ししてドタバタと、大人が駆け寄る音がする。
それぞれの母親が自分の子供を抱き上げる。
「ほら、一颯、泣かないの……男の子でしょ?」
「よしよし、愛梨……どうしたの?」
何とかして泣き止ませようとする。
少しして一颯が愛梨を指さす。
「あーちゃんがぶっだぁ!」
愛梨を糾弾する。
何となく、自分が悪者にされそうな雰囲気を感じ取った愛梨は首を左右に降った。
「いーくん、おもちゃ、とるもん!」
「だからって、ぶっちゃだめでしょ? 愛梨。ほら、ごめんねしなさい」
「……ごめんね」
ぐすっと不服そうな表情で愛梨は一颯に謝る。
「ほら、一颯も。あやまって」
「……ごめんね」
一颯も不服そうに謝る。
それから一颯の母親は一颯に言う。
「さあ……愛梨ちゃんに玩具貸してって。言えるでしょ?」
「……おもちゃかして」
一颯は愛梨が手に抱える玩具(自分の物)に対してそう言った。
すると愛梨は少し迷った表情を浮かべ……
「やっ!」
「ぐすぅ……」
愛梨に拒絶され、一颯は再び泣き始める。
「こら、愛梨! 貸してあげなさい……って、そもそも、それ一颯君のじゃない!」
「あら、本当……」
「ほら、一颯君に返して……」
「やーやー! あいりの! あいりのだもん!!」
「うぇーん!! あーちゃんがとったぁ!!!!」
今日も平和な一日だった。
ある日。
一颯と愛梨は二人でブロックを使い、遊んでいた。
一颯はブロックを使い、車や建物などを――無茶苦茶な造形だが本人は大真面目で作っている――作っていた。
愛梨も同様に遊んでいたが……しかし途中で飽きてしまったらしい。
ブロックを放り出す。
そしてチラっと一颯の方を見る。
「いーくん、おままごとしよ?」
「うーん……いやっ!」
今、いいところだから邪魔するな。
と言わんばかりに一颯は愛梨の提案を拒絶する。
愛梨はムッとした表情を浮かべる。
そしてしばらく考え込んだ様子を見せてから……
「ギャオーン!」
そんな声を上げながら、一颯の作った製作物を足で踏み潰した。
一颯は呆気に取られた表情を浮かべる。
それでもめげずに一颯は作り続けるが、しかし愛梨はそれを片っ端から破壊する。
そして最終的に……
「ううぇーん!!」
号泣し始める一颯。
それを尻目に破壊を続ける愛梨。
慌てて駆け付ける大人たち。
「こら! 愛梨! 何やってるの!!」
「かいじゅうごっこ!」
「ダメでしょ! 壊しちゃ! ……ごめんなさい、うちの子が。いつもいつも……」
「いえいえ……ほら、一颯も泣き止んで……全く、気が弱いんだから……」
うぇんうぇんと号泣する一颯。
怒られながらも全く反省の色が見えない、ふてぶてしい表情の愛梨。
そしてそんな二人の様子を……
画面越しに一颯と愛梨は見ていた。
「お前、俺のこと、泣かし過ぎじゃないか?」
「い、いやぁ……私も、ほら、若かったからさぁ……」
今日も二人は一緒にいる。