古の都オズボルン
ケンとメアリはしばらく歩き、やっとオズボルンに着いた。
オズボルンは商店街があり人通りも多く賑わっている。
いつも通り、ケンの緑色の肌は人々の視線を集める。今回は嫌悪というより珍しい物見たさという視線で害意はなさそうだ。
ケンとメアリは商店街を抜けて、石造りの立派な資料館に入った。
「ご入館ありがとうございます。わたくしはここの館長をしている、メリッサと申します。わからないことがありましたら、ご気軽にお尋ねくださいませ」
出迎えてくれたゴスロリの服を着た女性は名乗るとお辞儀をした。
館には無数の本があり、日本の大きめの図書館ぐらいの規模だ。
「言語理解の魔法を使える人はおるか?」
「ええ、わたくしが使えます」
「こやつに魔法をかけてくれんか」
「承知しました、失礼します」
メアリがメリッサと話し、メリッサはケンに言語理解の魔法をかけることになった。
メリッサはケンのおでこに触れて、目を瞑った。
「これでモルドボ語を理解できるようになりましたよ」
メリッサはケンのおでこから手を離した。モルドボ語は異世界で最も使われている言語だ。
「もしかして、一生理解できるのか」
「申し訳ありません、この資料館を出るまでの魔法となっております」
「そうか、でもありがとう」
ケンは魔法の効果時間を残念に思いつつ、メリッサに感謝を伝えた。
ケンは早速、有益そうな資料を探し回り、一冊を手に取った。
「読める、読めるぞ、こんなにスムーズに本を読めたのは異世界に来て初めてだ」
ケンは喜びを口にした。ケンは異世界に来てから勉強がてらメアリの本を読んでいたがなかなか理解できずに苦しんでいた。
ケンはそれから蘇生関連の資料を中心に本を読んだ。メアリも同じように資料を読んだ。
貴重な資料だということは読んでいてわかったが、どれも蘇生するための決定打にはならなかった。
数時間でメアリと協力して蘇生関連の本を一通り読み終わった。北の聖女の話もあったが、どれも伝説の域を出なかった。
「地下にも資料がありそうだぞ」
ケンは地下への階段を見つけていった。その階段は何の装飾もされてない。
「果たして、地下に資料があるのか」
「とりあえず、行ってみよう」
メアリの手を引き、ケンは地下に足を進める。
地下には真っ白な空間が広がっていて、何もない。
「何もないようじゃな」
「そうみたいだね、にしても真っ白で不思議な空間だ」
二人は何もないことを確認して一階に戻ろうとする。
「ちょっと、待ってくれ、話がある、お二人さん」
地下に白い翼を生やした少年が突如出現し、二人を止めた。
「何者だ」
ケンは突然現れて少年に驚きつつ聞く。
「僕の名前はウリエル、驚かせてすまない、二人はメアリとケンだね」
「なぜ俺たちの名前を知っている」
「僕たち天使は情報通なんだよね」
白い翼を生やした少年はウリエルと名乗った。
「本当かよ」
「本当じゃよ、天使は主に聖騎士に力を授ける存在じゃがな、こうして人々に接触することもある」
疑うケンにメアリが答える。
「突然すまないが取引をしよう、僕はケンを蘇生できる聖女の居場所を知っているそれを教える代わりに引き受けてもらいたいことがある」
「引き受けてもらいたい事って一体なんだ?」
天使のウリエルが取引を持ちかける。ケンが対価を聞く。
「八岐大蛇という災害級の魔物を討伐してもらいたい」
「それはわしらの手に負えるんじゃな」
ウリエルは災害級の魔物の討伐という困難な取引を提示した。それにメアリは勝算の確認をする。
「勝てるかどうかは僕にもわからない、勝率は五分といったところだ、この取引受けるかい?」
「俺はこの依頼を受けてみたい、メアリはどうしたい?」
「わしも受けよう」
ウリエルの取引に二人は了承した。
「ありがとう、八岐大蛇がいる場所は、ここから東の方角に見えるセン山だ」
「ウリエルはなぜわしらにこんな取引を持ちかけたのじゃ?」
「1つに二人は成長すれば悪魔に対抗しうる潜在能力があると思ったからと、もう1つに八岐大蛇が人里に降りてきて村を襲うようになってしまったからだよ」
ウリエルは感謝した。それからメアリの質問に答えた。
「もし俺たちが負けそうになったら助けてくれるのか?」
「残念だがそれはできない、そもそも僕たち天使には戦う力はない、残酷だが悪魔に対抗しえない能力だったと切り捨てるだろう」
「切り捨てるって、天使のいう言葉かよ」
「悪魔によってもたらされる被害、悪魔に唆されて悪事を働く人々、僕たち天使には余裕がないんだよ。取引という形で二人に助力を求めていると受け取ってもらいたい」
ケンの疑問にもウリエルは答える。
「俺は天使に初めて会ったんで聞くが、なぜこの世界は争いが絶えないんだ?」
「苦しんでいる人々を悪魔が唆し、相手を思いやることなく利己的に、相手の権利を奪うからだと僕は思うよ」
「じゃ、どうしたら争いがなくなるとウリエルは考えているんだ」
「人々が苦しみを受け入れて悪魔の囁きに耳をかさず、相手を思いやり、自分の権利を分かち合えば争いがなくなると僕は信じているかな」
「天使のくせに随分あやふやだな」
「そうだね、天使も万能じゃないんだよ」
ケンの質問に天使は優しく答え続けた。
それからメアリとケンは八岐大蛇を討伐するためにセン山を目指す。