人間に戻りたい
メアリの冒険者になるなら早速冒険者登録をしようという意向で俺たちは洞窟を抜けて近くの街にやってきた。
街は中世ヨーロッパのような街並みで、獣人やエルフ、ドワーフのような多種多様な人種がいた。恐竜のようなツノの生えた四足歩行の大型の爬虫類が一般的な交通手段のようだ。
「それにしても俺たちめっちゃ見られていないか」
「当然じゃ、自我を持つゾンビなどお主ぐらいしかおらんからな」
「なんか、睨まれて強い敵意を感じるような——」
「その通りじゃ、わしも死霊使いの魔女という二つ名で恐れられておる、それにゾンビは普通魔物で倒すべき敵なのじゃ」
エルフの男とすれ違う時に鋭く睨まれる。そのような数々の不穏な空気を感じつつ俺たちは冒険者ギルドの到着した。
冒険者キルドには受付と依頼書を大量に貼っていある掲示板があった。それから多くの冒険者が掲示板の前でたむろしている。
「こやつの冒険者登録をしたいのだが?」
「わかりました。この申請書のお名前をご記入して下さい、それから魔物討伐の経歴がある場合はそれも併せてご記入ください」
受付嬢から渡された申請書を見て、俺は文字を書けないというと、メアリが名前を書いてくれた。
「これでいいんじゃな」
「はい、登録するお方はフジサワ・ケンさんですね、私は受付のシーナと申します、これから登録を行うので少々お待ちください」
「シーナさん、ありがとう」
メアリは受付嬢に確認をとる。受付嬢のシーナさんは栗色の髪に栗色の瞳をした可愛い女性だ。
会釈したあとシーナさんは席を外しギルドの奥に行った。優しそうな人だったな。
「きっも、お前ゾンビだろ」
「そうだけど、何か用でもあるのか」
突然柄の悪い女が話しかけてきた。となりにはガタイのいい男がいる。
「ケンっていったか、お前みたいな、異物が冒険者になると迷惑なんだよ、今すぐ出ていけ」
「急にそんなことを言うなんてひどくないか」
「うるせぇ、ただでさえ人外がいるってのによ、ゾンビなんかいたら気持ち悪くて仕事の邪魔だ」
「俺にとってはお前が邪魔だけどな」
「今なんつった、もういっぺん言ってみろ」
柄の悪い女が俺の胸ぐらを掴みかかる。俺も胸ぐらを掴み返そうとした瞬間にメアリが俺と女の間に割って入った。
「すまなかった、冒険者登録を済ませたらすぐ出ていく、どうか許してくれんか?」
「チェ、気色悪い連中だな」
柄の悪い女はそう吐き捨て、ギルドを大男と一緒に出ていった。
「メアリ、どうしてあんな女に謝ったんだよ」
「わしは争いを拒まぬ、謝ることで解決するのならそれが一番いい」
「納得できないね、どう考えても悪いのはあの女だろ」
「忘れてはならぬ、わしらは魔女とゾンビなのじゃ、常に差別の対象であらゆる迫害を受ける運命にあるのじゃ」
そうこうしているうちに受付嬢のシーナさんが戻ってきた。俺たちは会話を中断する。
「ケンさん、冒険者登録完了しました。ケンさんのご活躍に期待しています」
俺はシーナさんから手形を受け取った。そして約束通り俺たちはギルドを後にした。柄の悪い女ほどではないが、俺たちを睨む冒険者は多くいた。
「納得できない」
「そんなことは忘れるのじゃケン、次は武器を買いにゆくぞ」
俺とメアリは鍛冶屋に歩みを進める。
「やっばりあの場面は自分の尊厳をかけて戦うべきだったよ」
「そんなことをしたら、わしらは戦いだらけになってしまうじゃろ、集団から外れた異物は虐げられるそれが社会の常じゃ」
「それでも、戦いたい、だって理不尽だろ、召喚された直後に差別され、虐げられるなんて!」
「それは、わしが悪い、ゾンビとしてケンを召喚してしまった責任がある」
メアリは白髪を揺らしなら俺に謝った。メアリに謝られても事態は変わらない。本当に申し訳なさそうにしているメアリにメアリのせいではないと言いたかったけど、変な意地がそれを邪魔する。
「人間に戻りたい」
「わしにはケンを人間に戻すことはできない、じゃが死者を蘇らせることができる者がいると聞いたことがある」
「なら今すぐその人に会いに行くよ」
「残念だが、その者の居場所も本当に存在するのかもわからないのじゃ、死者を蘇らせるという神の所業のようなことができる魔法エネルギーを持つものはそうはいない、地道に探すしかあるまい」
人間に戻るための話をしているさなか、俺らは鍛冶屋に着き、中に入った。
「へい、いらっしゃい、欲しいのは武器かそれとも防具か」
「武器が欲しい」
「いいねあんちゃん、攻撃は最大の防御なりってね、そうだなあんちゃん、この槍なんかはどうだ?」
気さくな鍛冶屋のおっちゃんが二メートルぐらいの槍を薦めてくる。だが俺は冒険者になるとしたら、剣を使うと決めていた。名前の性なのかわからないが、剣で戦いたいという気持ちが昔からあった。
「槍はいいや、おすすめの剣はないか?」
「そうだな、このロングソードなんかはどうだ」
手渡されたロングソードは一メートル無いぐらいのながさで、とても扱いやすい。
「おっちゃん、これにするよ」
「まいどあり、いつでも研いでやるからな」
俺は無一文なのでメアリがお代を払った。仕方ないことだが男として情けなさを感じでしまった。
「なんじゃ、うれしくないのか」
「うれしいよ、でもメアリにお代を払ってもらうのことが恥ずかしいっていうか」
「そんなことに恥ずかしがるなんて時間の無駄じゃ、それより魔物を倒しに行くぞ」