港町ルネーブ
ケンたちはウルの部屋を出て、港町ルネーブの冒険者ギルドにきた。
相変わらず、冒険者たちのケンを見る目は憎悪に満ちていた。それはもちろん同行していたウルにも向けられる。
気分が悪い、罪悪感すら感じてしまう、怒ることに慣れてなく適切な怒り方がわからない。他者の視線は自分を縛る呪いのようで逃げたくなる。相手に嫌悪を向けたいが罪悪感がそれを邪魔してしまう。それでいつもと同じように全てを背負って我慢してしまう。ケンには何が正しいことなのか分からなくなる。
「こんなんじゃ気分悪いだろ」
「ええ最悪よ」
ケンの問いかけにウルは同意する。
「じゃ、俺は先に帰ってるよ」
「今きたばかりでしょ、何言ってるの」
「だって俺がいたら最悪だろ」
「いえ、ケンがいることが最悪なんじゃなくってね、人助けとか言っておきながら、いざ自分が差別されたら弱気になるケンの態度が最悪なのよ」
困った顔をするケンにウルは続ける。
「もっと相手を嫌いなさいよ、心の中でなら何を思っても自由なんだから、罪悪感は必要ない、問題なのは相手が悪意を持って睨んできているということじゃないかしら」
「じゃどうすればいいんだ?」
「俺は悪いゾンビじゃないって言ってきたらどうなのよ」
「————」
立ち止まり黙るケンを置き去りにして、ウルはギルドの受付に向かう。
「——海底神殿の秘宝の依頼の達成を確認しました、報酬は金貨百枚です、ウルさんまたのご活躍期待しています」
「ありがとう、またね」
ウルはギルドの受付から報酬を受けとる。しばらくしてケンがウルに追いついた時には、報酬の受け渡しが終わる直前だった。
「聞いていたわよね、山分けで金貨五十枚ね」
「ああ」
ウルの問いに、ケンは短く応じる。金貨は一枚約一万円の価値だ。
「とりあえず、買い物に行くよ」
「わかった」
ウルはボーっとしているケンを引っ張りながらギルドを出る。
ケンは考える。迷惑でも堂々とすべきだろうか。人は誰しも迷惑をかけて生きている。自分に負い目がある差別には自分を変えるべきか、それと差別に抵抗するべきか。迷惑だからと逃げることは集団に固執しない強さなのか、それとも傷つきたくない弱さなのか。そもそも俺が人に無関心だから周りに不和を作ってしまうのだろうか。
「ぼーっとしてないで歩いて」
考え事をしているケンにウルはそう言う。
「ああ、わかったよ」
「さぁーほら、行くわよ」
ウルはケンの手を引き歩く。ケンは考えるのを中断して歩みを進める。
以前周囲の視線は冷たく、恐れや、怒りが態度に現れていた。人々はゾンビであるケンのことを恐れ、憎んでいた。それでもケンは悩まずに歩いた。
「どこに行くんだい」
「魔法の駄菓子屋さんよ」
ケンの問いにウルがそう応えた。
二人はしばらく歩き商店街まできた。ここまでくればケンは冷たい視線を当てられることは少ない。ウルの言う通りゾンビだと気づく人が少ないからだろう。
商店街には武器屋、酒場、魚屋、肉屋、八百屋、占い屋などさまさまな商売で賑わっている。エルフ、ドワーフ、人間、獣人が平等に商いをやっている。
それから魔法の駄菓子屋に着いた。魔法の駄菓子屋は商店街の一角にあって、古風な趣は日本の駄菓子屋とおまり変わらない。
「いらっしゃい」
「どうも、おばちゃん」
一人の老婆が店の奥から出迎えて、ウルが返事をする。
駄菓子屋は魔法の駄菓子屋だけあって、グネグネ動くゼリーや、中に浮いている綿飴、お菓子の家で動くお菓子人形などの奇妙なお菓子が置いてある。
「面白いでしょ?」
「うん、不思議なお菓子だね」
「全て魔力が込められているのよ、浮遊魔法や操作魔法などがあるのよ」
「魔力は無限の可能性を秘めいているな」
ケンとウルは買うお菓子を選ぶ。
ケンは浮かぶ綿菓子を買い、ウルは動くゼリーを買った。浮かぶ綿菓子は紐で繋がれている。細長いゼリーはミミズのようにグネグネ動いている。
「手を離すと風船のように空に飛んでいってしまうよ、だからしっかり握ってるのよ」
と店のおばちゃんがケンに教える。ケンはへぇーっと答えた。
それからウルはグネグネ動くゼリーを大量に買う。
「ウルはこのゼリーにハマっていてよくうちの店に来るんだよ」
「そうなんだ、見た目はミミズにしか見えないけど、美味しいのかな」
「新食感で美味しいのよ、ケンにも後であげるよ」
店のおばちゃんは笑いならウルが常連だと打ち明けた。ケンが素直な感想を述べて、ウルがゼリーの魅力を教えた。
「おばちゃんまた来るよ、じゃあね」
そうしてウルは照れながら店を出た。
ケンも「じゃあ」と言ってウルの後ろに続いた。
店を出ると正面から騎士らしき男が歩いてきた。
「あの、ちょっと話をいいかい?」
「いいよ」
騎士らしき男がケンに話しかけてきた。それにケンは応じる。
「僕は聖騎士ノーツ、名前の聞いてもいいかな?」
「俺は冒険者のケンだ、それでこっちはウルだ」
「二人ともよろしく、君がケンか、お噂は天使ウルエルから聞いているよ、確か君はゾンビなんだってね」
「そうだぜ、ノーツ」
ノーツはそう聞くと目を輝かせ、ケンの体を注意深く見た。
ノーツは重々しい甲冑を身に纏っている。ブロンドに青い瞳の好青年だ。
「ところで突然すまないね、とある冒険者からゾンビが街をうろついていると通報があって君に話を伺ったんだ、天使ウリエルの協力者であるケンなら安全だと保証できる」
「また通報されるかもしれないけど、このままでいいのか?」
「それは仕方ない、我々聖騎士が人々に事情を話し受け入れてくれるのを待つしかないだろう、故に辛いかもしれないがケンは普通に生活してもらって構わないよ」
「そうか、ありがとな」
ノーツは手を振って、ケンたちと分かれた。
その突如、周囲から悲鳴が響き渡る。




