聖女の居場所
八岐大蛇を倒した二人の近くに図書館にあったのと同じ地下への階段が出現した。その地下への階段は開けた山道にあり不自然に目立っていた。
「これはウルエルが呼んでいるってことかな」
「そうみたいじゃな」
ケンとメアリは地下への階段を降りる。
地下は前回と同じように真っ白で何もない空間が広がっていた。
そして唐突にウリエルが降臨する。
「八岐大蛇討伐おめでとう、予想以上だったよ、二人ともありがとう」
「この地下への階段はどこにでも作れるのか?」
「そうだよ、僕の特殊魔法はこの空間ごと移動することができる能力さ、しかし僕はこの空間から出ることはできないし、人を入れたまま移動することもできない」
「すごいような、すごくないような魔法だな」
「かなり限定的な魔法だよ、とりあえずこの回復薬を飲んでくれ、傷がなおる」
ケンの疑問に答えつつ白い翼を生やした少年ウリエルは手に持っている緑色の液体が入った容器を二人に渡した。
二人は凍結した四肢も他の傷も癒え、完全回復した。
「蘇るぅ、もう死んでるけど」
「ウリエルよ、助かった」
ケンとメアリは回復薬を飲み容器をウリエルに返した。
「約束通り、蘇生の聖女の居場所を教えるよ、北の最果てにある神殿キュリオスにいるよ、神殿に行くまでに危険な雪山を登る必要があるし、入るには試練が必要だよ」
「わかった、神殿キュリオスか」
ウリエルが聖女の居場所を教え、ケンがそれに応じた。
「それからメアリに頼みたいことがある」
「何じゃ?」
「ケン、すまないが席を外してくれないか?」
「おう」
ウリエルはメアリに頼み事をするためにケンに席を外させた。ケンはその指示に疑問を感じならも階段を上がり山の広間に戻った。
それから数分の時が流れ、メアリが階段を上がってきた。
「どうだった」
「わしはウリエルの頼みを引きるけることにした、すまぬが詳しい内容はケンには教えられぬ」
「なんで教えられないんだよ」
「ケンに頼み事の内容を知られると、ケンに悪影響が及ぶのじゃ」
「なんだそれ」
「わかってくれ、それとこれからは別行動じゃ、ケンは神殿キュリオスを目指してくれ、わしはやることを済ましてから後を追う」
メアリは頼み事を秘密にし、別行動をすると言った。ケンはメアリの態度に強い違和感を覚え眉間に皺を寄せた。
「急に別行動ってなぜなんだ?」
「ケンは雷魔法に目覚め、今やわしより強いじゃろ、一人で神殿キュリオスに行くことだって可能だと判断したのじゃ」
納得のいかないケンにメアリは優しく言い聞かせる。
「確かに、雷魔法に目覚めて今はどんな敵にも負ける気がしない、だけどメアリがいた方が早く歩みを進めることができる」
「わしはどうしてもやらなくちゃいけないことがあるのじゃ」
ケンはまだ別行動に納得できずにいる。
「なら俺もそのウリエルの頼みを手伝うよ」
「ウリエルの頼みはわしの試練のようなものでケンに手伝える代物じゃないんじゃよ」
ケンは考えを拒否されてよりメアリにより疑いの目を向ける。
「俺に知られちゃいけない試練って何だよ、いいかげん教えてくれたっていいんじゃないか」
「そうじゃな、ウリエルの頼みはゾンビウイルスを根絶することじゃ、ケンにもそのウイルスが体内に宿っている、誰かに噛み付くなどすればたちまち相手はゾンビになるじゃろう」
メアリの予想外の発言にケンは驚いた。
「そんな、ど、どうやって根絶するんだ?」
「感染しないゾンビを作ったり、ウイルスを無力化する薬を作る研究をするつもりじゃ、ケンは人間に蘇生した時にゾンビウイルスが取り除かれることに期待したい」
メアリはゾンビウイルスを根絶する方法はケンに教えた。
「俺が誰かをゾンビにしてしまう可能性があるのか?」
「生者に噛みついても問題ないが死者に噛み付けばゾンビになるんじゃ」
焦るケンに優しくメアリは答える。
メアリは杖を八岐大蛇に向け、紫色の魔力で包み込む。
八岐大蛇の首は全てくっつき、傷も治る。
そして八岐大蛇はメアリが操るゾンビとして復活した。
「そもそも何でメアリがゾンビウイルスを根絶しなくちゃいけないんだ」
「わしにも死霊使いとして責任があるからじゃ、それに指数関数的にゾンビが増えるのはやはり危険だからじゃ」
「でもメアリがゾンビを制御すれば問題ないんじゃないか?」
「私にもゾンビを制御する限界がある、普通のゾンビでも同時に1000体が限界じゃ、1001体目のゾンビは血肉に飢えたただの魔物になるんじゃ」
メアリはケンの肩に手を乗せて言った。
ケンはメアリの手を払い除けて、
「それは今すぐやらなくてはいけないことじゃないだろ、なぜ今なんだメアリ」
「ケンはもう一人でも十分戦える、一人の方が成長できる、新しい仲間を見つけるのも経験じゃ」
メアリの言葉にケンは考え込む。
俺はメアリに依存しているのか、メアリはこの世界に精通しているし、とても賢い、何度助けられたかわからないほどだ。せめて人間に戻るまでは同じ異端者として一緒に冒険してほしい。俺は一人孤独にゾンビとして差別されるのか怖いのか。そんなじゃダメだろ、俺は強くありたい、力は強くなくとも心は強くありたい。とケンは考えた。
「わかった、そこまで言うのなら別行動にしよう、環境が人を変えるというし」
「すまない」
「謝ることはない、メアリがいたからここまで蘇る方法を知ることができた、これ以上借りを作ることはできない、そろそろ自立する時だ」
「わしも好きで同行していたんじゃ、借りなんてものはないぞ、わしは隠れ家の洞窟に帰って研究する、なんかあったら戻ってくるんじゃぞ」
メアリはそう言うと八岐大蛇にまたがった。
「気をつけて、メアリ」
「ケンも気をつけて」
ゾンビ八岐大蛇はメアリをのぜて山を降りていった。