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神様ですが、乙女ゲームのバグ(ヒロイン)と戦ってます~ヒロイン撲滅計画~

作者: かりん豆腐


「主様、主様、起きて主様」


 人が呼ぶ声がする。

あれ?今まで何をしてたんだっけ。まあいいか。眠いし。


「主様!」


 うるさいなぁ。もう少し寝てたい。


「主様!!!! ったく、起きろ!! バカ娘!!!」


 怒鳴り声と同時に体を激しく揺さぶられる。

あまりの衝撃に眠り続けることが出来なくなり、重たい瞼を何とか持ち上げた。


「スイ?」


「やっと起きたな。主様」


 目の前には肩にかかるくらいの漆黒の髪に翠色の瞳をし、白地にその目と、名と同じ翠色の模様の入った狩衣姿の美貌の青年。


 白い壁に白い床、白いベッド、白い机に白いソファ。すべてが白で統一されているこの空間でスイは唯一の色。


「今、バカ娘って言った? 言ったよね?」


 夢の中、最後の怒鳴り声の中に聞き捨てならない発言があった気がする。許してはいけないような、そんな発言が。


「気のせいだろ。それより主様、腹減った。ごはん頂戴」


 乱暴に起こされて、起きて早々食事を要求される。なんて理不尽な。でもしょうがないか。スイは私の神力がないと生きていけない。


 そう、彼と私は人間ではない。


「しょーがないなぁ。ほら、ちょっと屈んで」


 私が屈むよう言うと目の前で膝をつき、スイが見上げるように私を見る。屈んだスイの額に唇を寄せ神力を分け与えた。スイを拾って八年。いまだにこの儀式めいた行為には慣れない。


「いい加減慣れろよな。耳、赤いぞ」


 指摘され耳どころか顔まで赤くなる。


「なら方法変えてよ! 手とかでもいいでしょ!」


「断る」


 恥ずかしがる私を見てスイはいたずらを思いついた子供のような顔をして笑う。


「ほら、ごはん終わったなら仕事するよ仕事!」


 このままにしておくとずっと揶揄われてしまうので、仕事に取り掛かることにする。


「なんだっけ、今やってるの。ときドキ☆シンドロームだっけ」


「そう! あの女、また私の世界にやってきて滅茶苦茶にしてくれたの! 絶対退治してやるんだから!」


 ときドキ☆シンドロームは地球という惑星の日本で発売された乙女ゲーム。乙女ゲームと言っても、実は地球とは違う次元、違う世界の未来に起こり得る出来事をゲームと言う媒体に移したものだ。もう少し言うと、乙女ゲームだけでなくロマンス小説なんかもそう。


 私はこの乙女ゲームをプレイしてくれた人間から夢の力を分けてもらって、また新しい世界、つまり乙女ゲームやロマンス小説の世界を作り出して、その世界の未来に起こり得る出来事を人間界のクリエイターに夢として送り込んで商品化している。 我ながらよくできたサイクルでしょ。


 だけど三十年ほど前から、私の作り出した世界の中、特に乙女ゲームにあの女が現れ始めたのだ。


 ヒロイン(バグ)が。


 そもそもの話、私が作り上げた乙女ゲームの主人公はあの女じゃない。


 あの女に断罪されてる悪役令嬢こそが、元々のヒロイン。私は断罪とか好きじゃないの。そもそもそんなドロドロしたものは昼ドラ作ってる他の神様の領分。


 大抵の筋書きは幼いころから憧れていた王子様との夢のようなロマンスや、幼馴染や学校で出会った彼らとのロマンスなんだから。悪役令嬢なんていないの!いるのはヒロインと一緒に青春を送る男達なんだから!


 初めてあの女(バグ)を見つけたときは速攻で修正をした。いくらゲームと言っても、ゲームと私の作り出した世界は夢の力をもらっている私と密接にかかわっている。ほっとくと私が作った世界に悪影響が出かねない。


 私が作り出した世界は私の子供同然。そんなことは許せない。


 最初はぽつぽつと出てきたバグだが、日を追うごとに数は増えて行って今では対応に追われてすべてを把握しきれない程にバグに侵食されてしまっている。


 しかもあの女、姿は違うけど同一の魂なのよね。しかも妙に見覚えがある感じ。


 何故か乙女ゲームにだけ出張ってきて、プロローグから乗っ取って主人公に成り代わってる。でも、おかしい。ただの魂が乗っ取れるはずないんだもん。


 もう、考えることもやることも多すぎる! とりあえず、ときドキ☆シンドロームを何とかしないと。


 スイも手伝ってくれるし、絶対撲滅してやる。


「元のプロローグはヒロインの公爵令嬢が学園に入学するところからだっけ?」


「そう。学園の入学式を終えて、幼馴染で一つ上の王太子に入学おめでとうと言われるところから」


 入学を祝われて、制服が似合ってると褒められるところからスタートする。それから教室に行って同じ新入生や担任の教師、三年生の生徒会長、購買のお兄さんとの交流が始まる。さらには二年生になったときには後輩の男の子も出てきたりして、絆を深めていって…


「なのに、なにが『あ、いけない! 遅刻しちゃう。急がなきゃ!』よ!!! あんたの出番ないから!!」


「それで走った挙句、校門で王太子とぶつかるって無理があるよな。つか、ぶつかった時点で無礼討ちだろ」


 そう、間違っても王太子が遅刻間際のヒロインと校門でぶつかるなんてありえない。そんなの王太子も遅刻寸前じゃん。遅刻太子とかカッコ悪すぎでしょ。しかも普通はぶつかってきそうな不審者がいたら周りの人間が止めるはず。ほら、無理やり登場するからもうすでにおかしなことになってんじゃん!!!


「んで、悪役令嬢にされちゃった本来のヒロインは高位貴族を呼び捨てで呼んでるところを注意するのが初登場か」


 まったくもって正論をかましてるだけなんだけどね。何でそれが『仲良くお話してただけなんだけどな…』になるのか。それが通ると思ってるのか。ん?ん?


「主様、顔不細工になってる。つくりは悪くないんだからもったいないぞ」


「だまらっしゃい!」


 人の顔になんてことを言うのか。そりゃスイに比べたら大抵の人は不細工になるよ。


「あ、そのちょっと拗ねた顔かわいい」


「やめて! 弄ばないで!」


 下げて上げるのは卑怯だと思う。


「その後は行く先々で出会う男達と会話で交流を深める…なんでこの女自分からあっちこっち会いに行ってんだ?しかもプレゼントとか何でもない時に、知り合って間もない女からプレゼントとか超怖え」


 あ、もう仕事に戻ってる。人の心を乱すだけ乱して。むぅ、悔しい。


 それはそれとして、そう。なんで男の子達がいる場所を狙い撃ちして会いに行ってんのこの女。最早ストーカーだよ。プレゼントも、そもそも学校に持ってきちゃいけません! しかも愛の欠片ってなに? なに渡してんの? 怖いよ。


「スイ、やっぱり私この女怖い。嫌い」


「はいはい。打倒バグでしょ。手伝ってあげるから頑張って」


 おかしいな。私は主のはずなんだけど、どうにも立場が逆な気がする。


「そんなこと言って、手伝わなきゃスイの神力だって補充できなくなるんだからね」


 神力が無くなればスイは消えてなくなる。もともと壊れかけて消えそうな魂を拾って神力で補修したのがスイだ。私も夢の力の供給が無くなれば、私の身体にある神力が段々減っていって、最終的には消えてしまう。


「そうなっても主様と一緒に消えるだけだから悪くはないかな。俺一人とか主様一人残るとかは絶対ごめんだけど」


 スイは私を慕ってくれている。どうしてここまで慕ってくれるのかはわからないけど、私にとってもスイはいなきゃいけない存在になってる。いなくなるのは悲しい。あれ、ちょっとした意趣返しのつもりだったのに私の方がダメージ受けてない?


「主様泣きそうな顔してる。かわいい。俺がいなくなるの想像しちゃった?」


 スイはいなきゃいけないけど、意地悪は直したほうがいいと思う。絶対に。


「ほら、ちゃっちゃと続きして終わらせよ」


 そういったスイはすでに作業に取り掛かっていて、私も慌てて自分の作業に取り掛かる。


 バグの修正はめんどくさい。まずは元の物語と改変された物語の相違点をすべて探し出さなければならない。それが終わったら、今度は書き換えの作業になるんだけど、これが非常にめんどくさい。バグが無理やり物語を変えて負荷がかかった状態になってるから、一気に書き換えると世界が壊れかねない。だから、結末から少しずつ少しずつ書き換えていかなければならない。


 例えば結末が、悪役令嬢が断罪されて処刑になったと書き換えられたものなら、“断罪はされたが国外追放になった”に変えて、その次に“断罪はされたが冤罪を証明した”“断罪されそうになったが助かった”こんなプロセスをいくつも経てやっと、負荷なく“断罪されなかった”に書き換えることができる。それを物語全編行う。そして最終的にバグを消すことができる。


「主様、ときドキ☆シンドロームの相違点全部みつかった。あとは頑張って」


 スイはそう言って紙束を渡す。スイの仕事は、元の物語と改変された物語の相違点を探してまとめること。もう何年もやっている作業だからペースも早い。


「ありがとう。後は私の仕事ね」

 

 指を一つ鳴らすと空中にディスプレイのようなものが浮かび上がり、改変された物語が映し出されている。スイがまとめてくれたのを見ながら相違点を何度も何度も書き換えていく。


 一通りの作業が完了すると、最後に改変された乙女ゲームをプレイした人間の記憶を書き換えて作業は終了した。


「うー。疲れたー」


「お疲れ様」


 長時間の作業に疲れ切ってソファに座る気力もなく、床に座りベッドに突っ伏していると後ろからスイに抱きしめられた。


「スイ?」


「俺考えたんだけどさ、いつまでもイタチごっこしてるのもアレだし、そろそろ原因突き止めて大本を何とかしないとやばいんじゃない。バグが出始めたのが三十年前位なんだろ? 俺はまだいなかったからわからないけど、その辺りで何かなかった?」


 もちろん、ずっと原因は調べていた。でもそんな簡単に見つかってたら今こんなに苦労してないわけで。 


「三十年前、三十年前かぁ」


「なんかってわけじゃないけど、そのくらいの時期に一度だけ、貧しい男女が愛を育む物語を作ったことがあるくらいかなぁ」


「……物語の登場人物って主様が加護を与えた人間達なんだろ?」


「うん」


 世界を作れば当然、数えきれないほどの人間も生み出すことになる。その中で、何人かに加護を与える。いわばお気に入りだ。そしてそのお気に入り達の物語で夢の力を集めている。


「主様はハッピーエンド至上主義だよな?」


「もちろん」


 悲恋などノーセンキュー。悲恋になりそうなら加護の力でハッピーエンドにする。


「その貧しい男女はどうなった?」


「えっと、私が作った世界の方はどう頑張っても借金苦で心中か身売りか病気になっても治療が受けられなくて死んじゃいそうだったから、加護を多めに与えて必要なときに必要なお金が手に入るようにして、裕福ではないけど子供にも恵まれて、最後は孫に看取られたよ」


 あの時は苦労した。本当にあっちもこっちもバッドエンドだらけだったんだもん。でも悲恋で終わらせたくなかったから頑張った。


「そんなに絶望的な状況を変えるほどの加護ってどのくらい与えたんだ?」


「うーん。ヒロイン達に与える加護が髪の毛一本位の量だとしたら足一本位?」


 いやほんと、身を削る勢いで加護与えたもん。


「俺、原因わかったかも」


 え! 私がどれだけ考えてもわからなかったのに? ないない。そんなにすぐわかったらこんなに苦労してないって!


「多分違うと思うけどなんだと思うの?」


「主様の加護を過剰に受け取った魂が暴走した」


 なんで?


「え? ハッピーエンドで終わったよ?」


「主様の加護って要は神力だろ?俺もいつも神力もらってるけど、神力をもらうと主様と深く繋がった感じになる」


 そう。加護とは神力を分け与えてることを言う。加護を与えられた人は私の庇護を強く受けることになるから、私との繋がりも普通の人よりも強くなる。


「俺は元々ボロボロの状態だったから主様の神力をかなりもらってるんだよな?」


 そう。スイの魂を修復するのに私の身体で言えば半身くらいの神力を注いでいる。


「うん」


「神力のおかげで俺は主様の考えがよくわかるし、何なら記憶の断片みたいなものも感じ取れる。だから足一本分の加護をもらったその魂が主様から加護を受けてることと、主様の作った別の物語があることを知ってても不思議じゃないと思う。主様の作った物語は王子や裕福な貴族が出るのが多い。それを知ったら自分の人生と比べてもおかしくはないし、なんなら主様に嫌がらせの一つでもしてやろうと思ってるかも」



 ・・・・・・・・・ん?



「それって、私が悪いってこと?」


「まだ推測だけど。一回その孫に看取られた魂がちゃんと転生できたか調べてみろよ」


 そう言われたらすぐにでも調べるよね。身の潔白を証明するためにも。私はスイの腕の中から抜け出して、ディスプレイを呼び出すと魂を管理しているデータベースにアクセスした。








 結論、黒でした。


「ごめんなさい」


 私が加護を過剰に当てた魂は、転生してなかった。普通、転生できなかった魂は次第に存在が薄れて消滅するけど、私の過剰な加護のせいで消滅することなく神力と融合し、魂のまま漂っていたと。その魂は私の神力を強く感じる日本へと渡り、これまた私の神力と結びつきの強い乙女ゲームに入り込み、無理矢理ヒロインになってまわってると。見覚えのあるはずである。もとは私の加護を与えた魂なんだもん。神力と融合して若干変わったとはいえ、気づけよ! 自分!


 あまりのいたたまれなさに、土下座で謝る。自業自得の尻ぬぐいをスイにしてもらってたなんて、笑い話にもならない。


「いーけどさ。これからどうするの? 正直、魂捕まえるのすげー大変だと思うけど」


「とりあえず今まで通り物語を片っ端から直しながらなんとか魂を捕まえる方向で行きたいと思います。手伝ってください」


 正座したまま涙目でスイを見上げる。


「その顔はずるくない? まあ、バカな子ほど可愛いって言うのは心理だよね。手伝ってあげるからご褒美頂戴」


「神力ならいくらでも!」


 すごく失礼なことを言われてるけど、残念過ぎることに今の私に反論できるすべはない。甘んじて受け入れよう。そして神力ならいくらでもあげるから見捨てないで。このただ白い空間に一人には戻りたくない。


「いくらでもはダメ。俺と主様で半分こずつ」


 そう言って、私の頬を両手で包むと段々とスイの綺麗な顔が近づいてきた。目の前まで来たと思ったら唇に柔らかい感触を感じて、その柔らかいものが、何度も私の唇をついばむと、ゆっくりと離れていった。



「いっ…キッ…した!?」


「キスした。顔真っ赤で超可愛い。俺、頑張るから頑張った分だけご褒美頂戴。ね、主様?」




 こんなの、私の神力がいくらあっても持たない気がする。絶対ヒロイン撲滅してやる!


人間っぽいけど、ちょっと放漫なところもあるのが神様らしいかなと思います。


もしよければ、創作の励みになりますので広告下の☆☆☆☆☆から評価を頂けると嬉しいです。

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