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5.

 入校式とかいうやつ。オレはこういう華々しい式典みたいなものは苦手だ。

 ミーリャは指定された席に着き、式が始まるのを待っている。ざっと眺めた感じ、合格者はだいたい100人程度といったところだろうか。ミーリャの受験番号がたしか275で、合格発表の日、オレの記憶の片隅にあった一番大きな番号が698だったはず。おそらく、受験者は約700人。倍率は7倍といったところか。なかなかの倍率だが、狭き門、というほどでもない。




「それではこれより、第50回バーストンズ校入校式を始めさせていただきます」




 アナウンスの合図により、入校式が始まった。アナウンス以外の音は何も聞こえない。静寂。厳粛な空気が空間に流れている。これだ。オレはこういう空気も嫌いなのだ。堅っ苦しいし、規律というものを重んじるのが苦手なオレには場違いの場所であろう。オレが生きていたとき、オレはこういう場所を避けてきた。が、まあ、今はミーリャの付き人のようなものだ。所謂、保護者。……保護者。だから、避けるのは、うん、無理な話だろう。




「入校生代表挨拶。シスイ・ジ・ガランドル。前へ」




 ……ほう。おそらく、こういう代表挨拶というものは合格者のトップのやつがやるものだろう。あいつはミーリャに乗り移ったオレにコテンパンにされてのびてしまった。本来であれば、代表挨拶に選ばれるような人間でもない。が、選ばれた。ということは――初めから決まっていた。ここの上は、シスイがトップで合格すると踏んで、既に決めていたのだろう。

 でも、その期待をオレがねじ曲げさせてやった。……いや、ちがうな。あいつは猫被りと契約を【自分で】交わし、徒党を組んで、【相手にしてはいけない相手】にわざわざ【自分から】突っ込んできてくれた。期待をねじ曲げた、というより、あいつが勝手に自滅した、という表現の方が適切であろう。

 ……さて、脱線してしまったが、要するに、実質あいつがトップ合格のはずだったということ。その、実質トップをオレは容易にぶち倒すことができたということは、つまり、オレの力はここバーストンズ校でも通用する……通用するというより、ミーリャがピンチになったとき、オレはその障害をはね飛ばす力がある、ということだ。そう考えるのであれば、オレはミーリャをサポートすることに関して、力は充分に持っているといえる。ひとまず、オレの不安は和らいだと言っても良いだろう。


 ……で、オレはここまで眺めていてわかったことなのだが。




 ……女。……女。……女。……女。……女。……女しかいねえな。男の気配すらしない。これは、さすがにはっきり言って異常な気がする。……ここは女学校? ……いや、そうは言っても、男の職員はいてもおかしくないはず。……だが、職員も女しかいねえ。……異世界だからか。少し文化がちがう可能性はあるな。だが、猫被りの反応を見る限り、この世界に男がいないわけではない。……というか、男がいなかったら……というよりは男女のペアでアレな行為をしなければ、そもそも人間なんてものは生まれてこないからな。

 ……考えられるに、オレの仮説として、この世界では魔法は女だけしか使えない。ここは魔法戦士育成機関。よって、女しかいない。……とは言っても、基礎的な学問を教える職員もいるのだろうから、やはり、男がいない理由というものに、若干の不整合がある。




「続きまして、上級生代表挨拶。ミーア・エ・シュワール」




 オレがいろいろ考えている間に、式はどんどん進んでいた。上級生代表挨拶ということは、あいつがここの生徒のトップということか。ふむ。つまり、あいつを負かせばオレの自信はつくが、まあ、する必要はないだろう。目立てば、目立つだけ、ミーリャが損な人生を送ってしまう。本人はたぶん望んでいないだろう。




 □■□■□




 そんなこんなで式が終わった。とりあえず、今日は式典だけなので、ミーリャは寮に戻りのんびりしようとする。




「あっ、ラビィちゃん。ミーリャちゃん。いるかしら?」




 寮長の……なんだっけ、こいつ。……ナモだったか。ナモがやってきて、部屋の中を覗く。




「はい?」




 ふたりは呼ばれて、キョトンとした顔で返事をする。




「今日は歓迎会をやるの~だから、ふたりとも、ホールの方に来てくれないかしら~」




 そんな言葉を聞いて、オレは感心したような呆れたような、複雑な心情になった。……この寮にはホールまでついているのか。どんだけ、金あるんだよ。資産家たちも無駄遣いのしすぎだろ。もっと、べつのとこに金回せ。金持ちなら金持ちらしく、薄汚く金に困っている奴らにでもばら蒔いとけ。

 オレはぶつくさと心の中で文句を言いながら、猫被りとミーリャのあとについていっていた。




「ここが、ホールよ~」




 ポワポワとしたオーラを放つナモに案内されて着いた場所は、豪華客船のパーティー会場的なアレ。アレみたいな場所が目の前にあった。ざっと、数百人はいれるようなスペースがあり、しかも、床には高価そうな絨毯が敷かれ、天井にはシャンデリアが垂れ下がり、テーブルにはきちんと清潔そうなテーブルクロスが敷かれている。ほう。貧乏人は帰ってくれ、とでも言わんばかりの豪華さじゃないか。オレにはこれまた似つかわしくない場所だ。




「あれ、今年はふたり!?」


「ええ、そうよ~」




 オレと同じく、このセレブさに似つかわしくないようなショートカットの女が大声で叫ぶ。なんだ、こいつは。話しぶり的に上級生か。




「ひとりはリーウェン家のやつだっけ? ああ、じゃあ、パス。部屋、戻る」


「ちょ、ちょ、ちょっ、おい!? ガネア! 待てよ!? な、なんのための歓迎会だよー!?」




 大声女がかったるそうにしているガネアとかいう女を引き止めようとしている。いろいろと人がいて覚えづらいな。あいつは大声女で良いとして、こっちのかったるそうにしている女は……片方だけ腹辺りまで髪を垂らしているから、サイド女とでも呼ぼうか。




「そうですよ。歓迎会は歓迎するための会なのですから、ちゃんと参加しなければなりません」


「うぜえ……」




 きっちりカクカクした堅物のような女が、大声女に加勢して、サイド女を引き止めている。……ひとつ言いたいのだが、オレとミーリャとそれから猫被りは、いったい何を見せられているのだろうか。オレたちを放っておいて、知らんお前たちの間で話を進めないでもらえないだろうか。……いや、話は進んでいないか。……なんだろうな。うん。兎に角、早く、参加するなりしないなり決めてもらえないものだろうか。でなければ、オレたちはただポカーンとしているだけだ。




「ぐぅ……スヤスヤ……すぴぃ……」


「起きてください。アリウェル。器用にベッドを浮かせるのもやめなさい」




 寝間着の女がベッドを浮かせてスヤスヤと寝ていやがる。……なんだ、ここは。スマン。子どもたちの……お遊戯会か、何かでも見せられているのか?




「あともうひとりいるのだけど……あの娘は来なそうね。……というわけで、今年はこの寮の生徒は私含めて総勢8人です。8人全員で力を合わせて頑張っていきましょう~」




 というわけで、というのがよくわからなかったが、そういうことらしい。……というか、8人しかいねえのに、ここの寮、こんな広いんか? やべえな。……てか、広いくせに、ミーリャと猫被りは相部屋なのかよ。見た感じもっと部屋あったような気がするけど、べつべつの部屋でも全然問題なさそうなのだが。




「あっ、まずは自己紹介からするわね。改めまして、私は45期生。この寮の最年長ね。ナモ・デ・カヴィンバティよ。よろしくね~」


「よろしくですわ」


「アタシはリゼ・フ・ドーニャ! 49期生! よろしく!」




 うるせえ。声がデケぇ。……つか、50期生だけで、100人いるわけなのだが、ここはたった8人しか寮生いないのか?

 ……他にも寮が幾つかあるのだろうか。




「私はエリ・ノ・ドーバー。寮長のナモと同じく45期生です。よろしくお願いします」


「よ、よろしくお願いします」


「ぐぅ……すぴすぴ……スヤスヤ……アリウェル・ド・グランヴィア……47期……生……ぐぅ……」




 こいつ、話しながら寝ていやがる。




「んで! こっちがガネア・ゴ・ダーチェリー! アタシのひとつ上、48期!」


「もうひとり、48期生のアーチェ・ズ・フロウアリーって娘もいるのだけど、今日は忙しいからいないみたい」




 残念そうにナモは言っていた。




「……えっと、私はミーリャ・ワ・ネヴィアです。よろしくお願いします!」


「ミーリャさん。よろしく」


「よろしくな、ミーリャ!」


「スヤスヤ……よろ……スヤスヤ……」


「うふふ。よろしくね、ミーリャちゃん」


「……よろしく」




 ……なんだ、歓迎会、ってだけあって、普通に歓迎されているな。なら、問題はなさそうだ。よしよし。




「私はラビィ・オ・リーウェンですわ。皆様、よろしくお願い致します」


「……チッ」




 猫被りがサイド女に舌打ちをされていた。……なんだ、この険悪なムードは。オレにはよくわからないのだが、やはり、猫被りには悪い噂でも広まっていたのだろうか。




「あらあら、ガネアちゃん、落ち着いて? ……ごめんなさいね、ラビィちゃん」


「いえ、平気ですわ……ですが、その……私は何か粗相でもはたらいてしまったのでしょうか」


「ラビィさん。ダーチェリー家をご存じではないですか?」


「ダーチェリー家ですか? すみません……」


「知らないのも無理はないでしょう。地位的にはあまり、といった感じですから。ダーチェリー家はかつてリーウェン家の傘下のひとつ……といっても良いでしょうかね。リーウェン家はダーチェリー家を従えていました。ですが、リーウェン家はダーチェリー家だけ追放したのです」


「……それは初耳ですわ」


「……ッ!」




 殺気立った目つきでサイド女は猫被りを睨む。こえー。というか、猫被りも発言には気をつけろよ。




「まあ、よくわかんないけど! ラビィは関わってないんだし、まあ、楽しくやろう! な!?」




 大声女が下手なフォローを入れていた。……なるほど。緩衝材的な役割としてはちょうど良い。……てか、寮長よ。一応、場を収めようとはしていたけど、大声女がフォロー入れなきゃこれヤバかったんじゃないか。仮にもナモ、お前は寮長なわけだし、穏やかな目で見ていないで、もっと行動に移した方が良いと思うぞ。……と、オレは上から目線なことを思っていたことに気づき、少し反省をする。人と交じる機会がなかったからか、オレはこういうのに乏しいのだろう。




「よし、歓迎会だ、歓迎会!」

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