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インテグレイト・チャート  作者: 竜獅子
2/4

初めての戦闘

 IGNASをプレイし始めて約1週間。

 私はある結論に達していた。



「何これ無理ゲー」



 クリアが絶対不可能だと結論付ける他ない程に私の精神は叩きのめされてしまった。

 一度頭の中を整理する為にどんな感じのゲームだったか思い返そう。



 〜1週間前〜


「ゲーム開始っと。まずは……」



 どうやらゲームの開始前に自身が操作する主人公の性別や身体的特徴を入力するキャラクター設定を行う必要があるみたいだ。

 大手のゲーム会社が開発しただけあり、モデルパーツは豊富でかなりのバリエーションがある、

 髪型・髪色・眉毛・まつ毛・目の形・瞳の色・唇の形・唇の色・肌の色・刺青・肩幅・身長など。

 変わり種としては胸の形や大きさ、指の数や手足の長さも弄る事が出来た。

 ボイスなんかもいくつか用意されていたけど、マイクで直接五十音を喋ってやればAIが自動的に組み合わせて自分の声でゲームがプレイ出来るという機能も備わっていた。

 この機能は割と珍しいと思う。私は使わないけど。


 で、そうして作り上げたキャラクターでいざプレイを始めると何のチュートリアルやムービーも無く広大な草原に放り出された。

 装備も何も無い状態で。


 あまりにも突然の事で何が起こっているか分からなかったし、何をやれば良いのか分からない。

 普通、RPGというものはゲーム開始直後にムービーが始まって、これからプレイするゲームがどんな世界観なのかある程度ユーザーに把握させようとする。

 もしくは、先にゲームの操作性をユーザーに教えるべくチュートリアルが始まって武器やアイテムの使い方や敵の倒し方を教わるものである。

 なのにIGNASはそういったRPGなら当たり前の事が一切省かれている。

 逆に言えば、RPGのセオリーを知っている玄人のユーザーなら今更そんな説明なくてもやっていけるよね?という意図が込められているのかも知れないけど、それにしたってもう少し何か説明があっても良いと思う。


 最も、そんな不満を感じつつも、なんとなくの感覚でこれまで培ってきた経験を元にゲームの操作が出来ているのが悲しい所。

 幸いにしてメニュー画面などは流石に備えられているので、自分のステータスや所持品・簡易マップの表示などは自在に行える。

 ゲームの操作方法はキーボードで行うかコントローラーで行うかで切り替える事が可能みたい。

 私はコントローラーの方が使い慣れてるから無線でペアリングしてそっちで操作をしている。

 画面はPCだと少し小さくて見にくいからモニターに繋いで表示している。

 けどまぁこの辺は別に他のゲームをやると時と変わらない。


 ひとしきりゲームの操作を覚えた私は広大な草原をひたすらに歩き続ける作業に入った。

 最初の目的は街や村を見つける事。

 恐らくだけど、このゲームの世界観は普通のファンタジーだと思われる。

 キャラクター設定の時に職種を選択する項目は無かったけど、初期衣装のスキンの中に短剣や杖を所持しているモノがあった。

 衣装1、衣装2と特に職種を示すような名前では無かったけど、見た感じは盗賊や魔法使いを連想するような作りだったからほぼ間違いない筈。

 実際、ステータス画面にもHP、MP、SPとあるからそれぞれヒットポイント・マジックポイント・スキルポイントを現しているのだと考えて良いだろう。

 そんな項目を必要とする世界観はファンタジーをおいて他にない。

 これで学園物の日常ゲームだったら笑うぞ。


 一応、私の今のステータスはこんな感じ。



 名前・マヤ

 Lv.1

 職業

 称号

 HP 10/10

 MP 10/10

 SP 10/10

 FP100/100

 物理攻撃力10

 魔法攻撃力10

 物理防御力10

 魔法防御力10

 素早さ10

 運10

 魔法

 能力

 EXP. 0/10



 とまあRPGのテンプレみたいなステータスをしていた。

 基礎能力値オール10。可もなく不可もなくといった所だろう。

 職業・称号・魔法・能力が空欄なのはまだやり始めで何も獲得していないからだと思う。

 もっと言えば初期ステータスのままでは素手で殴ったり防いだりするしか戦闘の手段がなく、特別な力を行使する事が出来ないという事。

 Lv.とEXP.の概念があるから敵を倒せば経験値が入り、Lv.とステータスが上がる事で次第に魔法や能力などを獲得していく流れで間違いない筈。

 唯一見慣れないFPの100/100だけはまだ何か分かっていない。

 けど、なんとなくの検討は付いているからゲームを進めて行けば分かるだろう。


 ……うん。まぁ普通だ。この程度の事なら予想の範囲内。

 ただ1つ、ちょっと気になってる数字があるんだよな。

 と言うのも、メニュー画面を閉じて通常の画面に戻しても、左下の隅の方に小さく0/10000と記載されている。

 この数字がなんなのか全く分からない。前後左右に他に文字がある訳ではなく、当然メニュー画面にもその数字がなんなのかを示すヒントもない。

 現状謎の数字としか言いようがないのだ。

 画面にずっと表示されている事からステータスとは無関係なのだろうけど、私が今までプレイしてきたゲームには特に類似するシステムに心当たりがないから本当に分からない。

 まぁ、最悪攻略サイトで調べるから今は気にせず自力で進めていこう。


 そうして私は引き続き草原を歩いていたのだけど、もう1つ分かった事がある。

 それは、このゲームがオープンワールドのシステムを採用しているという事。

 オープンワールドは基本的に視界に入る全ての景色の場所に自由に移動出来るシステムの事を言う。

 視界が固定されて進むべき道が一本しかなかったり、シミュレーションゲームのようにキャラクターをターン毎にマス目を移動させるようなものではない。

 それ故に世界の探索はユーザーに委ねられており、ゲームの攻略の仕方が分かったクリア後なんかは本来の物語進行とは反するような動きをして物語を進めたりする事も出来たりする。

 逆に言えば、プレイを始めた段階ではどこにどう言っていいのかがさっぱり分からないという事になる。


 とりあえず漠然と人が居るであろう街や村を目指して適当に進んで来たけど、別にそういった場所に向かえとナビがあった訳ではない。

 そう、このゲームは物語の世界観はおろか主人公としてやるべき目的すら明確に提示されていないのだ。

 勇者として魔王を倒すのか、冒険家として財宝を見つけるのか、難航不落のダンジョンを攻略するのか、そんな事さえ分からない。

 まず最初にやるべき指標がないので本当にただ草原を歩くだけになっている。


 ……もしかしてこれって散歩ゲー?

 いやいままさか。

 しっかりステータスが備わっているんだからそんな筈はない。

 きっとどこかに倒さなきゃいけない魔物がいる筈。


 そんな事を考えながら歩き続けていると、遠目に何かが飛び跳ねるような仕草をしているモノが視界に入った。

 私はそれに向かって歩いて行くと、少し硬そうな茶色の体毛に覆われたウサギのような動物がそこに居た。

 ……可愛い。

 これって敵?味方?どっち?

 試しに主人公の身体が触れる距離まで近づいてみると、特に反応は何もなかった。

 もし敵なら触れた時点で戦闘画面になる筈だから、このウサギは敵では無いか、シンボルエンカウント式の戦闘方法じゃ無いという事になる。

 ならばと今度はアクションコマンドの《殴る》を使ってみる。

 主人公がウサギに向かって右のストレートを出すが、やはり変化は無し。

 ……リーチが足りなかった?位置的にはウサギの方が下にあるし、主人公の方が背が高いからただ真正面にパンチを打っただけでは当たりはしないのは普通。

 だったら今度は《蹴る》を使ってみると、右足でウサギを蹴るような動作をした後、ウサギが少し後ろへと吹っ飛びウサギの頭の上に《5》の数字が表示され、すぐに消えた。



「なるほど」



 ウサギの頭上に表示された数字は恐らく与えたダメージの値。

 風景をそのままにダメージが入ったという事はこのゲームの戦闘方式はシンボルエンカウントではなくシームレスバトルという事になる。

 私の考えは正しいようで、ウサギにダメージを与えた事で私を敵認定したのか、おもむろに私に向かって突進をしてきた。

 考え事をしていて意識が他所に行っていた時の事だったので私はその攻撃を避ける事が出来ずモロに食らってしまう。

 そしてウサギの攻撃によって私が与えられたダメージは《3》



 HP 7/10

 MP 10/10

 SP 10/10


 HPも変動して10から7に減ってしまっている。

 このゲームのダメージ計算がどうなっているのかは分からないけど、最低後3回ダメージを食らえばゲームオーバーになってしまうだろう。

 プレイ早々そんな間抜けな醜態は晒したくない。

 与えられたダメージの値からして私と敵のレベルはほぼ同等だと思うから防御を捨ててとにかく攻めに攻めて倒し切ろう。


 そう思い立った私はとにかく《蹴る》のコマンドを入力してウサギにダメージを与え続ける。


 《5》

 《4》

 《5》

 《5》


 追加で19のダメージを与えた所でウサギは動かなくなり、その場に倒れた。

 その間私に入ったダメージは0。

 うん。私頑張った。初めてにやるゲームにしては上手く立ち回れたと思う。



 《Lv.2になりました。各種ステータスが向上します》



 お。ウサギを倒した事で経験値を得てレベルが上がったらしい。

 どの程度上がったのか見てみよう。



 名前・マヤ

 Lv.2

 職業

 称号

 HP 7/12

 MP 10/11

 SP 10/11

 FP98/100

 物理攻撃力13

 魔法攻撃力11

 物理防御力12

 魔法防御力11

 素早さ11

 運10

 魔法

 能力

 EXP. 5/15



 それぞれ1〜3程度の上昇か。まぁこんなものか。

 EXP.の値が5/15という事は、前の段階では0/10だったからウサギを倒した事で得られた経験値は15で、レベルアップに必要な分を獲得した後は次のレベルアップに持ち越されるという事か。

 ウサギ一体で15の経験値。美味しいのか不味いのか分からないけど、何はともあれ初めてのレベルアップだ。

 この調子で他にも敵らしきモノを見つけたらどんどん攻撃していこう!


 そこから私は視界に入った敵を追いかけては戦闘を繰り返し、少ないながらも経験値を稼いでレベリングを行った。

 どうやらウサギ以外にもこの草原には敵はいるようで、他には蜂・鳥・蛇・スライムと遭遇した。

 どれも大した強さはなく、2〜3回攻撃を当てたら倒せるくらいの強さだった。

 そんな感じでレベリングを行う事約3時間。

 私のレベルは12まで上がっていた。



 名前・マヤ

 Lv.12

 職業

 称号

 HP 12/89

 MP 0/47

 SP 55/55

 FP23/100

 物理攻撃力38

 魔法攻撃力30

 物理防御力29

 魔法防御力31

 素早さ25

 運15

 魔法【火之玉ヒートボール】【治癒ヒール(小)】

 能力【緊急回避】

 EXP. 42/183



 そしてレベル上げる事で分かった事もある。

 それがこれだ。


 ⓵このゲームはレベルが上がってもHP.MP.SPは全回復しない。

 ⓶HP.MPは自動回復をしない(今後取得する魔法やスキルによっては回復する可能性もある)

 ⓷SP.は能力を使用すると消費され、時間経過で回復する。

 ⓸魔法・能力スキルはレベルアップだけでなく、戦闘中にも突然取得する事がある(条件不明)

 ⓹倒した敵からはアイテムやお金はドロップしない。

 ⓺FPは恐らく満腹値だと思われる。この数値が0になった時どうなるのかはまだ分からない。

 ⓻倒した敵は倒してもそのままその場に残り続ける。何故が画面上から消滅しない。


 システム的には結構辛い使用だと思う。

 現実的な作り、と言えば聞こえは良いけど利便性が悪過ぎてゲームの進行を妨げる要素が多過ぎる。

 特に敵を倒してもアイテムやお金がドロップしないのは痛い。おかげでHPの回復がままならず、なんとか覚えた治癒魔法で辛うじて命を繋いでいる状態だ。

 アイテムドロップで食料を調達する事も出来ないからFP.は減る一方だし、今の時点でかなり詰みかけている。


 そんな感じでどうしたものかと頭を悩ませていると、天からの助けと言わんばかりに村らしき場所が視界に入った。

 レベリングの道中かなりの距離を歩いたからいつの間にか人里のある近くまで来ていたのだろう。

 そうして私は余計な戦闘に巻き込まれないよう注意しつつ、初めての村へと入って行った。


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