プロローグ
Role-playing game.
通称《RPG》
現在この世界には様々なジャンルのゲームが開発され、沢山の人達に遊ばれているけど、その中でも最も有名なジャンルのゲームはこのRPGであると私は考えている。
一般的にRPGはその物語の主人公に自分がなりきって、出てくる魔物やモンスターを倒して経験値を稼ぎ、レベルアップをさせて強敵に挑むというシステムが大半を占めている。
王道なのは、世界を征服しようとしている魔王を倒すべく立ち上がった勇者を操作して世界中を旅しながらレベルアップをして自身を強化し、その道中でキーアイテムを入手して新たなステージへと赴き、最終的に魔王を倒してハッピーエンドという筋書きの物語。
初めて世に出たRPGはまさにそんな感じのゲームで、それが世に広まってからはそのゲームを基盤とするようにRPGと言えば勇者が魔王を倒す物語、と言った知識が大衆に定着するくらいには反響を呼んだ。
だからこそ、初めてRPGが登場してから50年近く経つ現在では似たような物語のゲームはありふれているし、二番煎じにならないよう物語に意外性を持たせて開発されたゲームも多い。
別にそれが悪い訳じゃないけれど、やっぱりプレイヤーとしては同じようなゲームをやり続けていると、次にどんなパターンが待っていてどんな攻略をしていけば先に進めるかは自然と分かってきてしまうもので、別に攻略本や攻略サイトを見ずとも発売から1週間足らずでゲームクリアに辿り着く事は少なくない。
私だってその1人。
しかも、RPGというゲームシステムはおろか、物語の内容も大体構想され尽くしてきたのかどこかで見た事あるようなものが最近は特に増えて来たと思う。
A社出したゲームの物語と、B社の出したゲームの物語の大半が一致しているなんて最近じゃ珍しくもない。
勿論、どちらかの企業が他社のアイデアを盗んだ訳じゃなく、偶々偶然の一致で同時期に似たようなゲームを出したって言うんだからもう笑うしかない。
その結果が為す意味は、結局の所RPGというジャンルは既に年月を経て開発し、構想し尽くされ興奮や驚きを内包する金脈が枯渇してきたという事。
中身がもうすっからかんの金脈をどれだけお金を掛けて掘り進んだとしても出てくる金はほんの僅か。
その金にしたって霞んでしまっていて、ほんの少し興味を持ってやれば即座に石ころになってしまうような偽物にも等しい金。
そうなると最早RPGという金脈を掘り進んで新たな開発を行おうという企業は次第に減っていくのが世の摂理というもの。
どれだけお金をかけてもそれを回収して尚且つ利益が出るような結果には至らないのだから。
やればやるほど赤字になる。
それがRPGというジャンル。
とどのつまり、RPGは終わったのだ。
一世を風靡し、社会現象でさえ巻き起こしたジャンルのゲームは半世紀の時を経て限界を迎えてしまった。
それを現すかのように、世界中のゲーム会社はRPGというジャンルに着手せず、もっとお金になるジャンルのゲームを開発し続けている。
それ故に、もうここ数年RPGを主体としたゲームは出ていない。
きっともう、これから先もずっとRPGが世に出る事はないのだろう。
……そう、諦めていた。
私の耳にその情報が入ったのはつい先程の事。
1ヶ月程前に日本の大手ゲーム会社の1つである《RYS》が突然何の事前告知も無く一本のゲームソフトの配信をオンライン上で開始したらしい。
タイトルは《IGNAS》で価格は基本無料。
ゲーム内で課金をして売り上げを出す1世代前に流行ったソシャゲにも似たシステムのRPGゲームだ。
全く前情報が無い状態での販売だった為、如何に大手のゲーム会社が出したゲームとは言え初期段階でのDL数は大して伸びなかったらしい。
最も、それは至極当然の事でゲームは面白そう、やってみたいという気持ちが購入前に湧かないと基本無料とは言えわざわざやってみたいとは思わない。
何より、RPGなんかは既に世の中にありふれているのだから自分の好み合うゲームを見つけてプレイするのは当たり前の事。
けれど、IGNASが注目を浴び始めたのは配信が開始されたその翌日からだった。
と言うのもそのゲーム、どうにもおかしいらしい。
ゲームジャンル自体は間違いなくRPGなのだが、ある一定の所まで進めるとゲームデータが消滅するというのだ。
課金制のゲームである以上、ゲーム内でアイテムを購入する事はある。
そうすれば購入履歴が残り、何かしらの理由でデータが消えたとしてもその履歴を元に再度購入済みにする事はどこの企業もやっている常識的な事。
なのに、IGNASではそんなデータ諸共消えてしまうという。
そんな致命的なバグを抱えているゲームをプレイしたユーザーは当然憤る。
折角課金をしてゲームを有利に進めようと思ったのにゲームデータが消えてしまうのでは話にならない!
これでは詐欺だ!
と。
それに対してRYSは一才の苦情を受け付けず、今後もIGNASを稼働し続けると回答し、最後にこうも付け加えた。
『新たな時代を迎える準備が整った』
と。
そんなRYSが残した言葉に多くのユーザーは多少の興味は持ちつつもIGNASをプレイする事を諦め、別のゲームをプレイする事を選択した。
そんな話を聞いた私は居ても立っても居られなくなり、自慢のPCにIGNASをDLした。
ゲームクリアが不可能というゲームそのものの根底を覆すようなゲームが出たなんて知ったとなればプレイしない訳にはいかない。
今までに無かったゲームをプレイする喜びに私は久し振りに体が震えていた。
「さぁ、いってみよう!」