孵化したドラゴン〜能力値が理想じゃないとテイマーに捨てられ復讐を決意する〜
殻を破り、陽光の日差しを向けわたしは誕生した。
森と土の匂い。崖を通り抜ける風の音。
眼を開け視界に映り込むのはわたしの親となる人間だった。
わたしはドラゴンだ。ドラゴンは産まれた瞬間に個を確立させ知性を得る。
ただ人間はわたしに祝福の言葉を与えてはくれなかった。
異なる種族の親、愛情が薄いのはそのせいかとも思ったが、わたしは気が付いた。
人間の背後に鎖で繋がれた二頭のドラゴンの番に。
あぁ、あの二頭こそがわたしの親なのだろう。
ではこの人間は?
そうか、彼は魔物を使役するテイマーか。つまりわたしも親も彼に使えるべきドラゴン。
ならばわたしはドラゴンの誇りを持って役立ってみせよう。
しかしわたしは話すことはできない。故に誓いの言葉も投げかけることはできない。
主人はわたしに祝福の言葉をかける事もせず手をかざす。
魔法陣の光りがわたしを包む。
遺伝子に刻み込まれた記憶からその魔法陣がどんなものなのかわたしは、即座に理解してしまった。
理解などしなければよかった。
あの光はわたしの能力値を調べるためのもの。
もしも主人の理想とする能力値に達していなければわたしは捨てられる。
これまでもわたしの親は卵を産み、孵化を続け子を魔物が蔓延る野山に打ち捨てられてきた。
忌々しい遺伝子の記憶。
いくらドラゴンとはいえ、産まれたばかりの幼体では生きて行く事も難しい。
よもやわたしが捨てられる可能性も高い。しかしまだ希望は有る。
わたしが頭を向けると主人は、
「チッ。体力、魔力、速度は最高値だが他がダメだな……いくつか魔法を継承してるが使えねぇ」
そんな事を吐き捨てた。
そのまま主人がわたしの身体を持ち上げ、野山の崖に投げ捨てた。
一体わたし達が何をしたというのか? 親は主人のために卵を産み、孵化させ……! 身体を痩せてまで尽くしたというのに!
ドラゴンは幼体では飛べない。
陰を吹き抜ける風が身体を煽る。
崖の上から醜い笑みを浮かべるテイマーの人間。
あぁ、人間とは愚かな生き物だ。
わたしは誓おう。この遺伝子に刻まれた怨みと同胞達のために復讐を成し遂げようと。
わたしの身体が崖底に落下する。
そうすればわたしは死に死肉を喰らいにハイエナが集まるだろう。
しかしわたしには親から受け継いだ魔法が有る。
わたしは咆哮するように魔法を唱えた。
すると魔法陣から突風が吹き荒れ、崖底に衝突ぎりぎりのところでわたしの身体はわずかに打ち上がり、地面に着地することができた。
そしてわたしの鼻に異臭が漂う。
辺りを見渡せば骨と食い散らかされた幼体のドラゴン。
あぁ、わたしの兄姉たちの死骸なのだな。
しかしわたしが生きて成長するためには、彼らの死骸に残った魔力を糧にしなければならない。
故にわたしは一心不乱に人間への怨みを懐きながら死骸と腐肉を喰らいに続けた。
時折り襲い掛かるハイエナや崖ゴブリンを喰らい、一年の年月が経過した頃。
わたしは幼体から生体へと成長を遂げていた。
赤黒く深き闇を纏った翼を羽ばたかせ、わたしは崖を飛翔する。
そして鼻に復讐すべき人間の臭いが漂う。
あぁ、あの男は愚かにもこの場所でまた同じ事を繰り返そうと言うのだな。
わたしは速度を上げ、崖を駆け抜けた。
そして翼を羽ばたかせながら男の前に姿を見せる。
何とも愚かな。
男は最初は怯えていたが、冷静になったのか。
「だ、だれかぁっ! あぁ、いや待て。……黒竜なんて珍しい個体に出会えるなんて運が良い!」
己を幸運だと感涙させわたしに手を伸ばした。
「黒竜よ! 俺と契約しろ!」
ドラゴンは話すことはできない。
故にわたしの返事とは単純明快。
男の頭から腹を顎と喰らい、醜い悲鳴をあげるよりも先に肉を引き裂く。
そして男だった肉片を崖に投げ捨て、わたしは男に従わされていた同胞達の鎖を食い破る。
それからわたしと同胞達で人間への復讐を果たし、地上から人間が消えた頃。
ドラゴン達の楽園を築くのだった。
ーー 孵化したドラゴン〜能力値が理想じゃないとテイマーに捨てられ復讐を決意する〜 完 ーー