第8話 ブシノキの最後
レウムは唾を飲み込み。正面の男と向き合う。正面の男は体調は軽く2mほどありそうな大男だった。
さっきは咄嗟に飛び込んでしまったが大丈夫だろうか?それに俺はこんな大男に勝てるのか?
『大丈夫です。あの男はマスターの魔力量の5分の1です。』
そうか。戦闘モードを頼む。
『了解。魔法闘気・特殊結界・未来予知・危機察知・高速演算・身体強化・鉄尾具現を発動します。』
戦闘モード、その名の通りの状態で、鉄尾具現は、しっぽを3本生やし。攻撃の数を増やすことができる。
「行くぞ」
「オス!」
俺は尻尾と手を構え、オスの目の前に一瞬で移動し、大きく前に振るう。オスはそれに合わせて手を十字に構え、防御の体制をとった。しかし、俺のこの攻撃は只の囮でしかない。拳がオスの手に触れた時、オスの足元から鉄の腕が飛び出し、オスの下顎に激突した。オスの巨体は浮き、俺の拳がオスの腹に直撃し、その後尻尾が横腹に突き刺さる。
「う、うぉぉぉ」
オスはその巨体からは想像できないほどの弱々しい声を発した。次の瞬間、オスの目は上をむき、気絶した。
ーーーーーー
「我が名はパキラお主の名前はなんという?」
「ウス」
「ウスというのか、よろしく頼むぞ。」
「ウス!」
パキラは右手を上にあげた。パキラが手を挙げると、周りの魔力とパキラの魔力がそこに集まり、溜まっていく。ウスはその光景に危機感を覚え、パキラに向かって走り、右手に魔力を集め、殴った。そのパンチは、オスと共に放つと山を割り、城壁すら破壊する力、たとえ一人だとしても、圧倒的な攻撃力を持っているのだが……
「その程度痛くも痒くもないぞ?」
「あ、あぁ」
パキラは平然と立っていた。まるで子供に殴られたかのように。そしてパキラの腕に魔力が溜まり切り、禍々しい竜の腕となった。ウスはその場から全力で逃げた。
「逃げても無駄だ。魔古龍之邪腕」
パキラはジャンプして、ウスの上に飛び、腕でウスを叩き潰した。ウスはその圧倒的な魔力と絶望感により、気絶をした。
「この程度か……」
ーーーーーー
スレッドは自分の目を疑っていた。まずは左の白髪の男だ。自身に擬似尻尾を作る魔法なんて見たことがなかった。さらに魔力量と闘気の精度も桁違いだった。さらに地面から出てきた腕。あれもオスを浮かすほどの力を持っていた。あの男が特質能力を持っているのは明らかだった。
そして次は右の美少年?も自分の手をドラゴンの手にするなんて魔王くらいしか思いつかない。もしかしたらこいつらは新たな魔王?
「な、なんなんだお前たちは!それじゃあ、それじゃあまるで魔王ではないか!!」
確かに。そうだな。表現は合っている。
「なんなのだと?我が名は魔古龍パキラ!恐れよ!」
美少年はそう名乗った。先ほど白髪の男がパキラと呼んでいたのは聞き間違えでは無いようだった。そして、先ほどだったら疑ったかもしれないが、この光景をみて疑うほど、スレッドも、ブシノキも馬鹿ではなかった。そして、中央大陸では、冗談でも魔古龍の名を語る者はいなかった。
「魔古龍だと!ふざけるな!なぜこのようなとこにいるんだ!」
「我はレウムについてきたまでだ。」
「レウムだと?聞いたこともない!なぜ魔古龍がそのような素性の知れない者についているのだ!その男は魔王だろう?なぜ魔古龍が魔王側についているのだ!」
ブシノキは早口でそう言った。
「あのう……勝手に人を魔王にしないでくれるかな?」
「オスを瞬殺するほどの者が魔王以外なんだというのだ!」
「だから俺は只の人だって!」
「まだ隠そうとするか!」
このままじゃあ埒が開かなそうだ。
「おい。ブシノキ!俺と一騎打ちしろ!それで勝てたら見逃してやる!レウムさんと魔古龍様もそれでよろしいでしょうか!」
「我はそれでよいぞ!」
「ああ。頑張れよ!」
「感謝する!」
「いいのか?俺とお前じゃあ相性が悪いんだよ!バカが見栄を張ろうとするからそうなるんだ!」
ブシノキの言葉は無視し、腰にかけてある双剣に手をかける。
「お前は俺が本当に糸のスキルだけでSランク冒険者に慣れたと思うか?」
「あ?なんのことだ?」
「俺には隠されたスキルがある。」
「あん?それがどうした!炎鳥!」
炎でできた鳥がスレッドに向かって飛んでいく。スレッドは双剣を構えた。
「こういうことだ。」
スレッドは双剣で鳥を切った。鳥はその瞬間に消えた。
「なんの魔法だ?」
「それだけじゃない。」
スレッドは片方の剣をブシノキに向けた。その瞬間スレッドの剣からさっきの鳥が出てきた。
「うわっ!なんだ!」
鳥はそのままブシノキに衝突する。直後、スレッドがブシノキの後ろに周り、胸に剣を突き刺した。
「終わりだ。」
「はは。最後まで俺は勇者には届かなかったか……ありがとな。スレッド」
「!?死ぬつもりか!」
ブシノキは最後の力を振り絞り、自分の心臓を剣でさした。