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93 閲兵式

 『特使護衛隊』はそんなに大所帯ではなく、全員で40人余り。他の同行している荷物持ちやら、ディオンたちアーディアス家の武官たちも含めて60人ぐらいだ。

 それだけに奇跡術の“聖別”も“悪よりの護り”も早めに終わった。そして、モンジェリン卿配下の手勢にも同様に奇跡術の加護を与えてもらってゆく。

「この段階で尻尾が出んか。」

「今日、詰めている者にいないのか、はたまた抵抗したか。」

 突然の『閲兵式』をおこなうとの報せに護衛隊の皆は戸惑ったようだが、エズアール隊長はうまくまとめてくれたようだ。メンバーの中には金竜騎士団の者もいるから、彼らが協力してくれたのもあって迅速に事は進んだ。


 モンジェリン卿の城館は要塞としての機能も保っているから、兵を集めるための大きな中庭がある。その一角に天幕が張られて臨時の席が設けられ、モンジェリン卿・クレスト夫人と私がそこに座る。

 今は席の前に少し間を置いて、整列した騎士や兵たちを天幕の陰から見ている。

 もちろんただ見ているのでは無い。“霊視”と“魔法鑑別”の魔術を通して視るのだ。

「どうだ?」

「特使護衛隊にはおかしな霊素(エーテル)の持ち主はいませんね。」

 “魔法鑑別”を発動させて指を組んで作った窓を通して視ても、やはりおかしな魔術が働いている様子は無い。先ほどかけられた奇跡術の光が彼らを覆っているのが分かるだけだ。

「ふむ。問題ありません。」

「そうか…。」

 私の言葉にモンジェリン卿はいくぶん安心した様子だった。

「取り越し苦労で済めば良し。ですが、この場に居ない者たちにもやらないと。」

「明日、召集できる者は召集し、まとめて調べることにしよう。」

 私とモンジェリン卿のやり取りを見ていたクレスト夫人は、ある提案をした。

「ならば、わざとそれを知らせるのはどうです?明日になれば確実に追い詰められるとなれば、今夜動くでしょう。」

「なるほど。少しリスクはありますが、後顧の憂いを断つには良い方法ですね。」

 私はクレスト夫人の案を受け入れることにした。

「だが、アーディアス卿。貴公は危険に晒されるのだぞ?」

「そうですが、短期決戦に持ち込めるなら危険を冒す価値はあります。」

「…貴公は思っていた以上に勇気があるな。」

 モンジェリン卿は感心したような、あるいは意外そうな顔をした。

 私だって、密偵が周りをウロチョロして、身近な人物を害しようとしていると想像しただけで気分が悪い。今回だけでは済まないだろうが、向こうの出方を知るためにも一度ケリを付けておきたかった。

「そうだわ。家内で働く者らも全員揃えて玄関でお見送りさせますわ。その際におかしな者がいないか改めてくださいません?そうすれば一回で済みますわ。」

「承知しました、クレスト夫人。実はお出迎えいただいた時に“霊視”でチェックはしましたが、あれだけの人数のわけがないですものね。」

 城館で働く人もチェックしたかったので、夫人の申し出は渡りに船だった。

「今日、非番の者はいますか?」

「全員、住み込みですから、非番でも居どころは知れておりますわ。」

「では、そちらも早速。」


 俄仕立(にわかじた)ての寄せ集め部隊、とは言っても近衛三軍の精鋭たち。急な閲兵式といえども、彼らはさすがに見事な行進をやってみせた。

 それに感心した私は、隣のモンジェリン公爵夫妻とともに惜しみない拍手を送る。モンジェリン卿からお褒めの言葉をいただき、私も当たり障りの無い簡単な賛辞を述べた。

 そして、続いてモンジェリン卿の配下の行進と敬礼を受ける。行進の間に“霊視”と“魔法鑑別”で彼らを調べたが、この場にいる者たちには問題が無かった。

「とりあえずは朗報ですね。」

「うむ、となれば、ここにおる者ら以外か。」

 彼の手勢の騎士と兵たちの、よく訓練された動きに感心しながら囁き合う。

 突然の閲兵式に困惑したであろう彼らに、心の中で詫びながら、私はまた当たり障りの無い賞賛の言葉を述べた。

 そうして、閲兵式を終えると『アーディアス卿をお見送りするために』と称して、城館で働いている者たちが全員、玄関前に集められた。

「これで全員ですか?」

 家宰の補佐をしている者らが並べ並べと声をかけながら、侍女・従者・料理人は言うに及ばず、馬丁・庭師にいたるまで、使用人全員を集めていくつかの列を作らせている。

「あら?家宰のベルトランは?」

「あれ?先ほどまでいらっしゃいましたが?」

 私が集められた使用人たちをチェックしている脇で、クレスト夫人と従者のひとりがそんな会話を交わした。

 クレスト夫人がこちらを振り向き、私はうなずいた。

「ベルトランの身柄を確保せよ!今すぐ探せ!」

 すぐにモンジェリン卿が動いた。

「エズアール隊長!ベルトラン氏の捜索に協力せよ!」

 今回の徹底した調査に逃げられないと覚悟したのか、逃げることにしたようだ。

 人間のベルトラン氏が密偵だったのか、それとも何かに憑依されていたのか判らないが、彼を逃すわけにはいかない。

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