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91 護衛計画

「閣下、参上しました。」

 近衛三軍から選ばれた精選された軍人たちからなる『特使護衛隊』の隊長、エズアール・メフター・ドラリアだ。格はもちろん、ディオンよりエズアールの方が上である。

 エズアールは金竜騎士団の上級騎士で、ケモ耳タイプの獣人種ナハムの男性である。ただでさえ筋肉質で背が高いナハムにあって、肉弾戦を得意とする金竜騎士団の、勇士の中の勇士ともなれば…見た目はアーノルドやダヴィッド殿以上の『肉壁系マッチョ』だった。

 とにかく体が分厚い・大きい・ゴツい。よくリンゴを握り潰すパフォーマンスがあるが、あれを人間の頭で軽くやってのけそうだ。虎耳と虎尻尾・彫りの深い顔立ち・頑丈そうな顎の輪郭と相まって、雰囲気は仁王像を連想させる。

 エズアールは武官なので、私は彼の経歴をよく知らなかったのだが、各地での大規模な魔物(モンスター)討伐を成功させた歴戦の勇士なのだそうだ。指揮官としての能力も高いという。

 そして隣にいる銀色の鎧姿はアーディアス家付きの武官ディオン・ロイエ。彼もヒトの成人男性として筋骨逞しい部類に入るのだが、その彼が細く見える。


「よく来てくれた。とりあえず、二人ともそこに座って。」

 私は直立不動で敬礼をとった二人に着席を促した。

「実はモンジェリン卿から、密偵がエングルムに入り込んでいるとの情報を得た。人数や相手側の技能など、詳しいことは不明だ。」

「我らはいかがしましょう?」

 さすがにエズアール隊長は話が早かった。

「密偵が誰か分からず、モンジェリン卿は泳がせて尻尾を摑むつもりであるようだ。我らの方で下手に張り込んでは、かえって彼の計画を妨害しかねない。そこで我々は、徹底防御を計り、敵が何かを仕掛けても何もできない、あるいは時間をいたずらに消費するように仕向けるのだ。」

「なるほど。では我らは閣下の御身を確実に護れるように、警護を堅くすればよろしいので?」

 私はディオンに頷くと、基本的にそれで良いと言った。

「問題は相手がヤー=ハーン王国の者らしいという事だ。人間だけではない(・・・・・・・・)かもしれない。」

「なんと…!」

「厄介な。」

 二人とも眉根を寄せて嫌そうな顔をする。

「そうならば単純なアンデッドでは無かろうな。憑依能力のある霊体系のアンデッドなんかいたら厄介だ。」

 それも密偵が務まるならば闇の悪霊(レイス)ぐらいは覚悟するべきなのかもしれん、とは思ったが口には出さなかった。

 そもそも、どうやって闇の悪霊(レイス)ほどの霊体系アンデットを従わせるのか?それに必要以上に警戒させる必要もない。

 もっとも、悪霊憑きになれば憑かれた人物の霊素(エーテル)属性がマイナス方向に極端に傾くので“霊視”の魔術をごまかすことは難しい。うまく隠そうとしても、そうした時に使う魔術は何か予想がつくのでチェックはできる。

「銀竜騎士団からの出向者がいるな?奇跡術が使える者は何名いる?」

「四名おります。全員“聖別”が使えますし、そのうち二人は“悪霊祓い”も“悪よりの護り”もできます。」

「おお、それはそれは。」

 “悪霊祓い”はアンデッドを追い払う奇跡術、“悪よりの護り”は悪霊や一部の悪魔などから憑依を防ぐ奇跡術だ。

 軍隊には奇跡術の使い手は少ない。神々に奉仕する神官たちの組織である神殿は、よほどの理由がない限り神官を各国の軍隊に派遣しないからだ。

 組織としての『神殿』は聖都とその周辺を治める領域国家としての側面もあるが、基本的には各国の政体とは一定の距離を置いている。そのため特定の国に肩入れする事は無く、そもそも人類同士の争いに加担しうる世俗の国家の軍隊に人員を派遣する事に消極的なのである。

 そのため奇跡術を使える者を軍に確保したい場合、軍内部で神殿とは別に人材を確保するのが基本だ。だいたい軍神あたりが多いのだが。

 とは言え、やはり神官養成の専門では無いので高位の者は多くない。“悪霊祓い”ができる者が二人も付けてくれるとは上級将軍のカステル卿の心配りには感謝しかない。

「では、まず全員に“聖別”と“悪よりの護り”を受けさせろ。憑依される危険性を避けたい。」

「承知しました。直ちに。」

「これを渡しておく。足らなければ追加を渡す。」

 私は魔晶石をエズアール隊長に4つ手渡した。


 一番恐ろしい事態は、誰かが憑依されてこちらの動きが筒抜けになることである。“聖別”だけで完全に防げるものではないが、憑依を防ぐ護符の類を用意している時間は無い。

 買えば良いじゃ無いかと思うかもしれないが、ゲームのお店のように、お金を出せば欲しいものが欲しいだけ手に入る世界では無いのである。

 霊体系アンデッドの憑依除けの護符など普通は売っていない。神殿にお布施をして、身を清めた神官に作ってもらうのである。もちろん今日頼んで明日できるというものでは無い。

「定期的に“霊視”でチェックするしか無いな。“霊視”が使える者は何人いる?」

「六人おります。相互に“霊視”すれば良いので?」

「そのとおりだ。“魔法鑑別”は?」

「四人です。」

「その四人にやらせろ。念のため、この後に閲兵式をやる。それまでに“聖別”を済ませておけ。」

 私の言葉に一瞬間をおいて、すぐに二人とも理解したようで頷いた。

「全員のチェックですな。」

「そういう事だ。」

 これで仲間内で疑心暗鬼にならずに済む。モンジェリン卿にも頼んで、ひと芝居打ってもらおう。


「閣下の身の回りはいかがしましょうか。出入り口は固めますが…。」

「まずは、お前たちも“聖別”を受けさせてもらうように。かまわないね?」

 私の確認にエズアール隊長は、もちろんでございます、と答えた。

「魔術的な防御は私がやるし、身の回りの物品の管理の強化は、そこの二人に任せてある。」

 私は秘書官のアンドレとラブリット二等書記官に視線を向ける。

「なので、私とこの二人が宿泊する部屋の哨戒を強めてくれ。」

 宿泊する先のホテルの間取り図は、あらかじめ護衛隊が取得して彼らの頭に入っている。具体的な配置は彼らがうまくやってくれるだろう。

「物資の見回り、チェック体制も念入りにしましょう。」

「そうだな。外部から持ち込む物資には特に注意した方が良いな。」

 私はエズアール隊長の提案に頷く。モンジェリン卿の動きを邪魔せず、警護を堅くする以外に動きようがないのだ。

「できることは限られるが、対処できないわけではない。手持ちの手札(カード)で切り抜けるぞ。」

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