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67 娘の闇堕ち阻止計画0.1.2

誤字報告ありがとうございます。

優雅な舞踏シーンが、拳が唸る武闘シーンになるところでした(笑)

 余興は大ホールでのダンスや飲食ばかりではない。続く隣の部屋にはビリヤードや盤双六(バックギャモン)、チェスなどのゲーム類を用意した遊戯室もある。

 たまに持ち出して家族で遊ぶこともあるが、大ホールと遊戯室がつながっていることからわかるように、客を楽しませるための設備だ。まだ外は明るいのでテラスでボーリングに興じる人々もいる。

 私たちも仲間内で話してばかりいるわけにはいかないので、適当に解散して、招待した客たちと親睦を深めた。

 粘る客は宵の口までいたが、ほとんどの客は三々五々、様子をみながら順次帰ってゆく。

 王太子ご夫妻をお見送りした後、バーナード卿夫妻もサバティス副神官長も帰ってゆく。名残惜しいが仕方がない。

 アンブローズ辺境候夫妻はマリアの両親ということもあり、我が屋敷にお泊りになる。10日ほどをめどに滞在し、我が領地の様子や王都での物見遊山、国王陛下への拝謁などをして過ごすようだ。

 マリアも案内役として、一緒につきあうつもりだと聞いている。しっかり親孝行してもらおう。

 

「お…終わった…。」

「さすがに、くたびれましたわね…。」

 私とマリアは貴賓用の椅子で、ぐったりと背もたれに寄りかかった。

 多少はリラックスできる時間があったものの、多数の客、それも多数の国の重要人物を客に迎えて公的な催しを実行するのは、なんとも精神的な負担が重い。

「今回は準備を君に任せきりで済まなかったな。何か欲しいものがあれば言ってほしい。」

「ちょっと今は思考力が…。お返事は両親が帰ってからでよろしいかしら?」

「ああ、良いとも。」

 マリアもだいぶ疲れているようだ。幸い、準備してあった緊急の休憩室は使わずじまいだった。

「アンドレアの様子を見に行こうか。」

「そうですわね。ロレーヌに任せましたけど。」

 重い腰を上げて私たちは妻の寝室に移動する。


 ロレーヌたち、妻の侍女の一団はアンドレアの世話をよくしてくれていたようだ。機嫌良さそうな顔で眠っている。

「お嬢様は先ほどお乳を飲んで、お眠りになられました。」

 侍女の一人が報告する。彼女も乳飲み子を抱えていて、手を離せるようになるまで休職していたのだが、祝福式のために授乳できないマリアに代わってくれていたのだ。この世界にはまだ粉ミルクや、簡単に安全で清潔を保てる哺乳瓶は無い。

「お世話になったわね。ロレーヌから賃金を忘れずに受け取って。」

「ありがとうございます、奥様。」

 彼女は深々と一礼して、部屋を退出していった。

 眠るアンドレアはどう見ても悪に落ちるようには見えないのだが、誰だって、生まれて間もない頃から邪悪な人格では無いだろう。育ちや周囲の関係性が、そうした結果をもたらしたのだと思う。

 私にできるのは、彼女がそうならないように教育と周囲の関係を良く保つことだけ。闇落ちに繋がりそうなフラグを排除しておくことだ。


 娘の闇落ち BAD END を避けるための基本的な行動指針は変わらない。


1.娘が善良な人物になるよう教育する

2.娘を第一王子・ルカ以外の人物と婚約させる

3.ルカと聖女ルミリアが出会わないようにする


 1は始まったばかり、2はこれから具体化、3も早急に着手せねばならない。

 2はやや厄介な案件だ。

 アントニオ殿下の言うことは最初は冗談半分だと思っていたのだが、彼はやけにこだわる。何か政治的な背景があるのか、単に楽しようと思っているのか、それとも『シナリオの強制力』なのか、吟味しなければならない。さりとて、あまり時間をかけられないのも確かだ。

 『まだ早い』を理由に断っている以上、さっさと勝手に縁談を進めてしまうわけにはいかない。ルカ王子にふさわしいお相手を探し、機会を得てくっついてもらおう。


 3の聖女ルミリアもどこにいるのか。

 王都周辺ではないかと予想しているが、実際どうなのやら。【白薔薇の聖女と黒薔薇の魔女】の中では明確には語られていなかったと記憶している。

(娘が三重属性だと言うことは、ルミリアもそうである可能性が高い。話題になるだろうから、見つけるのは難しく無いはず。)

 正直なところ、こんな未来がある可能性が無いのなら、彼女(ルミリア)にはぜひ国内でその力を役立てて欲しかった。その才能は惜しんで余りある。

 見つけ次第、サバティス副神官長に伝えて、彼女を大聖都に連れて行ってもらえるように努力してもらおう。


 娘の顔を見つつ、彼女の属性の1つ『闇』について考えた。

 『闇』はこの世界を構成する諸要素のひとつである。これ自体に善悪は関係が無い。

 人間は意識がある時のことばかり認識が偏るから、安らかな眠りを包んでくれる闇の恩恵を忘れ、そこに脅威があるかもしれないと疑心暗鬼に陥って闇を忌み嫌う。

 そして魔術属性『闇』について知られている事はあまり多く無い。いわれもなく忌み嫌われることが多かったため、その属性の持ち主のほとんどは、持って生まれた才能をひた隠しにしてきたからだ。

 闇属性はその名の通り、闇を操るほか、静寂・鎮静・内省・精神・原初・恐怖・秘密・隠蔽などに関わりがあるが、体系立てて研究できた事例は数えるほどだ。

 その意味では、アンドレアの例は貴重な事例となり得るのだが、私は娘をモルモットにする気は無い。

 過去事例を見れば、闇属性の悪党などごく少ないのがわかる。

 もともと少ないのだから当然だが、有名どころでは大昔に北方を荒らし回った盗賊団の頭目“闇夜のジェイス”と、人攫いと奴隷売買を資金源に悪魔教団を率いた“闇の司祭ケルザ”の二人ぐらいか。

 闇夜のジェイスは最後は捕まって、手下もろとも斬首された。

 闇の司祭ケルザは、当時の大聖都の総主教が“聖戦”を宣言して聖騎士団を差し向けて殲滅した。

 どちらも国家か、国家に相当する組織が動くまでになったから相当強かったのだろう。

 ただこれは、いわゆる生存者バイアスのような、悪名が轟くほどになった奴がたまたま闇属性の持ち主だった可能性を排除できない。

 たぶん、名もない闇属性の持ち主の方がすっと多かったはずだ。

「闇属性の持ち主への偏見を持たれないように、偏見や差別を許さない教育も必要だな。」

 休暇明けにエレナ局長とそのことについて話し合わねばならないなと、私は心した。


 この日の夕食は宴のあとだったので簡単に済ませ、アンブローズ辺境候夫妻を歓迎する席は後日設けることにした。

 孫にあたるアレクやアンドレアの姿や一挙一動に喜ぶお二人を見て、これで良いんだよなと私は内心で呟いた。

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