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60 闇属性の娘アンドレア

 歓声をあげる民衆を警備の騎士や兵士たちが抑えている前に、私は降り立った。

 手を伸ばして、豪華な産着に包まれたアンドレアを受け取り、先に降りたロレーヌに手渡す。そして降りてくるマリアに手を差し伸べてエスコートする。彼女の姿に周囲から一層感嘆の声が上がった。

 マリアはロレーヌからアンドレアを受け取り、優雅な動きで周囲を振り返って見せた。陽の光を浴びて輝く姿は女神が降り立ったように美しい。

 家族も後に続いて降り立ち、父と母がアレクの手を引いてくれる。ロレーヌとナターシャはここで脇に下がり、祭壇近くの壁際に式が終わるまで待機だ。

 神殿の開け放たれた扉の周りには花綱(フェスツーン)が掛けられている。その下で白い法服に金襴のストールを首にかけた侍祭たちが控えていた。彼らは透し彫りが施された円盤状の飾りがついた金色の杖、または香炉などを持っている。

 私たち一家が一礼すると、彼らも一礼して、くるりと向きを変えると、私たちを先導し始めた。

 神々を称賛する歌声が厳かに響く中、この日のために敷かれた赤い絨毯の上を侍祭たちに導かれて私たち一家は歩く。

 左右の席に座っているのは私が招待したヴィナロス王国の重鎮たちを含む参列者たち。今日は政治の場では無いせいか、私に向けられる視線はいくぶん柔らかいように感じられる。

 侍祭たちが左右に分かれ、祭壇の両脇に並んだ。白く透明感のある大理石を彫刻した神々の像を前にして、バラの“アンドレア”を中心にした花で火が燃える祭壇が飾られて、周囲をその甘い芳香で満たしていた。

 正面に大きな金色の水盤、そして讃歌を歌う神官たちに囲まれて、豪華なポンチョといった形をした法服の幄衣(カズラ)(まと)った高位の神官、そして中央に緋色に金糸の豪華な刺繍と宝石で飾られたマントを肩にかけ、同様に装飾された緋色の宝冠をかぶったトーリオーネ神殿長が笑みを浮かべて待っていた。

 我が娘・アンドレアの祝福式の始まりだ。


 祝福式自体は純粋に宗教的な儀式・儀礼なので、ここから先はトーリオーネ神殿長にお任せである。

 座席の最前列の右側に私たちの一家は着席した。

 ちなみに左側にはアントニオ王太子夫妻・宰相のコンカーヴ公爵夫妻・内務大臣のムーリン公爵夫妻・上級将軍のカステル公爵夫妻・貴族院議長のモンジェリン公爵夫妻が座っている。

 その後ろの席には白金竜騎士団団長バーナード公爵夫妻・王都の神殿の副神官長のサバティス卿・妻の両親のアンブローズ辺境候夫妻・王立魔術院長官夫妻たちがいる。

 儀式はまず神々への祈祷に始まり、讃歌を出席者で歌い、祭儀の主催者──この場合はトーリオーネ神殿長だ──が、花を浮かべた聖水に指を浸し、聖印を切り、聖別された針葉樹の枝を使って集まった人々に聖水を撒いて祝福して回る。

 侍祭の持つ香炉の薫りを含んだ青白い煙はステンドグラスから射す色とりどりの光に照らされて、祈りの声に満ちた神殿内を神秘的に彩った。

「本日はまことに神慮めでたく、素晴らしい日となりました。本日はアーディアス公爵家のご令嬢・アンドレア様の祝福式でございます。畏れ多くもヴィナロス王国王太子、アントニオ殿下とキャストレット妃殿下をはじめ、多くの高貴な方々、国家の誉れある方々のご参列をいただき、感謝申し上げます。」

 一連の祈祷の式が終わると、トーリオーネ神殿長は本日がアンドレアの祝福式であること、王太子殿下を始め国の枢要な人物を多くお迎えして光栄であることに謝意を述べ、アーディアス公爵家の日頃の神殿への献身──つまるところ寄付金なのだが──を顕彰し、最後にアンドレアの将来とアーディアス公爵領への祝福の言葉を述べた。


「アーディアス公爵家当主ダルトン様、アーディアス公爵家夫人マリア様、ご令嬢アンドレア様、祭壇の前へ。」

 そして、私と妻、そしてアンドレアの名前をトーリオーネ神殿長が呼んだ。

 私とアンドレアを抱いたマリアは立ち上がって、王太子殿下夫妻に一礼し、神殿長の待つ洗礼盤の前に進む。

 洗礼盤の前に立った私たちを、先ほどまで讃歌を歌っていた神官たちが取り囲む。

 マリアは金色の水盤の隣に置かれた、金色の縁飾りがついたテーブルクロスの掛けられた台の前に進んだ。その台の上には白い絹地に金色の房飾りがついたクッションが置かれており、その上にアンドレアを下ろす。そして娘の産着を脱がせてゆく。

 私はそれを一歩引いた場所で見守っていた。

 産まれた時の姿に戻ったアンドレアを、トーリオーネ神殿長は妻から受け取る。左手に娘を抱き、右手で水盤の上に聖印を切る。そして両手で娘の胴を持つと、そっと水盤の中央に浸した。

 水が冷たいのか娘は顔をしかめて一瞬ピギャアと泣いたが、すぐに泣き止んで、何か不思議なものを見る目でトーリオーネ神殿長を見上げた。

 神殿長は右手で水盤の聖別された水をすくい、娘の頭の上に注ぎ、額に聖印を描いた。

「これなるは聖なる神々の祝福、命与えたまい、力を与えたまう。汝のゆく先に幸いあれ。」

 最後の言葉が終わった瞬間、水盤の上が光を帯びて、霊子(エーテル)力が急激に膨らむ。

「祝われた者よ、幸いなる者よ、汝への神々の恩寵は──」

 一瞬の間を置いて、3つの光が弾けた。


「火! 土! 闇!」


 トーリオーネ神殿長の驚く顔が垣間見えた。もちろん、その声を聞いた途端、私も目を見開くほど驚いた。

 なんと、娘のアンドレアは希少な『闇』属性持ちのうえ、稀な三重属性持ちだったのだ。

 座席からも驚くような、どよめきの声が上がる。

 ビックリするのは私だってそうだ。アンドレアが『闇』属性持ちなのは最初からわかっていたこと、だが三重属性持ちとは思っていなかった。

 マリアを見れば、彼女も口に手を当てて目を見開いている。やはり相当驚いたようだ。

 トーリオーネ神殿長は落ち着きを取り戻すと、アンドレアを水盤から引き上げて妻に渡す。彼女はアンドレアの体を抱くと、すぐに神官の一人から渡されたタオルで体を拭いてやり、台の上に置かれたままになっていた産着を元どおりに着せた。

「アーディアス公爵家のご令嬢、アンドレア様への祝福式はここに為されたり。神々の恩寵深く、この先に幸運あれ。」

 トーリオーネ神殿長の祝福式を締める言葉が唱えられて、アンドレアの祝福式は無事に終了した。


 希少属性どころか、思いがけない三重属性持ち。おそらくは白薔薇の聖女・ルミリアも三重属性持ちになっているだろう。

 白薔薇の聖女も、今頃この国のどこかで祝福式を受けて、同じように驚きの声に包まれているのだろうか?

 本来ならば、大聖都に向かわせず、この国で存分に力を有効利用して欲しいのだが…。

(すまんな。君は我が一家と娘のために、一生、大聖都か、どこかで清い人生を送ってくれ。)

 アンドレアの祝福式の騒ぎが済んだら、ルミリアの捜索も本格的に始めねばならない。

 まだまだ私と一家の生存ルートの構築は緒についたばかりなのだ。

やっとアンドレアの祝福式と、彼女の闇属性が確定です。

お話はまだまだ続きます。彼女の成長とダルトンの活躍に、今しばらくお付き合いください。


この後、もう1〜2話と、資料編を挟み、1週間程度をめどに少しお休みをいただきます。

ご了解ください。

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