57 祝福式前日
日間ファンタジー異世界転生/転移ランキングBEST300で178位でした。(2021年12月12日)
みなさま、拙作をお読みくださり、ありがとうございます。
娘のアンドレアの祝福式を明日に控えて、すべては準備万端となった。
私は今日・明日・明後日と三連休だ。もっとも休みなのは宮殿への出仕であって、この3日間は娘の行事のためにたぶん普段より忙しいのでちっとも休める気がしない。
おそらくは妻のマリア共々、ベッドに入ったらバタンキューの状態じゃ無いかと思う。私はともかく、出産から1ヶ月のマリアにはまだちょっとキツイかもしれない。
そこで祝福式後の宴席が設けられている大食堂室と大ホールの什器をしまう部屋を、妻のための臨時の休憩室に改造しておいた。綺麗に掃除をしてから壁紙を張り、妻が横になれるベッドと椅子、小さなテーブルが運び込んだのだ。
少し狭いが、妻とロレーヌ、あと数人なら立って入れる程度の小部屋ができた。出来栄えのチェックは妻のマリアと母のソフィアだ。
「ちょっと狭いけれど、すぐに横になれる場所があるのは良いわ。」
「まあ。私の時もあったら使ったかも。ダルトン、気がきくわね。」
そのあとロレーヌを始め妻の側仕えの者たちに見せて、意見を聞いた。
「奥様のお気分が優れぬことがあっても、これならすぐに対応できそうでございますね。医師に診ていただいたり、奥様のお世話をするための広さはありますし、よろしいのでは。」
ロレーヌからも及第点をもらえたので、これで期間中の備えとすることに決定した。
その大食堂室には重厚な木製のダイニングテーブルが3台平行に置かれている。それぞれ40人掛けで、すでに白いテーブルクロスが掛けられている。
そのうち、中央のテーブルは私の家族と賓客用の席だ。
ここには私の家族のほか、王太子ご夫妻・バーナード公爵夫妻・サバティス卿などの友人たちとその家族、妻の両親のアンブローズ辺境候夫妻、そしてコンカーヴ公爵夫妻・ムーリン公爵夫妻・カステル公爵夫妻・モンジェリン公爵夫妻などの国家の中枢人物、それとトーリオーネ神殿長の席がある。
正直、このメンバーの名前、特に後半だけで胸焼けがしそうだが、呼ばないわけにはいかない。
これ以外の閣僚メンバーもここに席がある。来れない人もいるので全員では無いが、あとは国王陛下さえいれば臨時の御前会議でも開けそうな出席者だ。
残る左右の席には、王立魔術院長官夫妻・魔法素材商人ギルド長夫妻・魔術師協会会長夫妻、妻の友人たち、そのほかアーディアス家と関わりの深い機関・団体・商会の長たちと、領地内の主だった有力者の者たちなどが占める席が用意されている。
こうすると、思った以上に簡単に120席が埋まってしまうのだ。席順なども頭を悩ますところで、これは妻のマリア・執事のマイケル・父のパウロ・母のソフィアと一緒になって考えたものだ。これだけで禿げそうだった。
そのテーブルの上には顔が映るほどピカピカに磨き上げられた銀製の燭台が置かれ、娘と同じ名前のバラの“アンドレア”が使われた花束が飾られている。
燭台はもちろん“灯火”の魔術を付与された魔法道具のものだ。お祝いの席を設けるときに使われるそれにはクリスタルガラスの飾りが付いていて、明かりを灯すとキラキラと輝いてとても綺麗なのだ。
バラの“アンドレア”は濃い暗赤色の花なので、テーブルに飾るには地味じゃ無いかと心配していたのだが、白いカスミソウや薄い黄色のフェンネルの花、青いカンパニュラ、甘い香りのジャスミンなどのほか、薄いピンクや黄色の小花が組み合わされて、祝福の席にふさわしい華やかさがあった。
花はテーブルの上だけでなく、大きな花瓶に活けたものが部屋の四隅や壁沿いに数カ所飾られていて、華やかに彩っている。
このテーブルの上に、当日になると銀の食器が並べられるのだ。
その銀の食器に盛られる料理のひとつだろう、宴席から望める場所に臨時の炉が設えられていた。余興を兼ねて『子牛の丸焼き』をここで作るので、数人の料理人たちが炉の具合を確かめている。
これ以外にも料理人たちが腕によりを掛けて作った料理が出ることになっているが、中には一週間前から仕込んでいる料理もあるらしい。
他にもマリアと料理長のモランと相談して決めたワイン各種。そのうちの1つは我が領で生産しているワインだ。
それに合わせるアル・ハイアイン王国製のワイングラスは、繊細な金彩とカットが施された無色透明なもので人気が高い。
ふつう工芸品といえば北のドワーフ製のものが定番だし、それに恥じない高品質なものなのだが、ことガラス製品に限ってはナハムたちの方が技術的にもデザイン的にも優れる。彼らの本拠地であるアル・ハイアイン王国で生産される高級グラスセットは、各国の王侯貴族・富豪たちが求めてやまない。
隣の大ホールでは音楽と舞踏会も催される。こちらは食事会の後の余興的なものだから、正式な舞踏会ではなく踊りたい人はどうぞ、という感じのものだ。
だからと言って手を抜いてなどいない。こちらもまた大食堂室と同じぐらい念を入れて花が飾られ、音楽を聴いたり、踊り疲れた人が休憩するための席が設けられている。
今はテーブルクロスがかけられ、花と燭台が同様に飾られているだけだが、当日はここでも飲み物とつまみが提供される。このつまみだが、実は料理人の創意工夫が試されるところらしく手を抜けないのだそうだ。
楽団の一座が明日に備えてリハーサルをしている。当日はここは最も華やかな場となるだろう。
領都の神殿に行くと、祭壇前に大きな金色の水盤が据えられ、その隣に金色の縁飾りがついたテーブルクロスの掛けられたテーブルが置かれていた。
明日はここで娘のアンドレアが祝福式を受けるのだ。
祭壇の周辺には、屋敷と同様にバラの“アンドレア”を中心にした花が飾られている。周辺の座席も綺麗に磨かれ、中央の道には赤い絨毯が敷かれていた。
明日はここを、私と娘を抱いた妻が通って祭壇の前に行く。
娘の将来は分からないが、必ず私も妻も、皆が生き残って娘も幸せになる、そんな END を目指すのだ。




