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47 対抗策

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(2021年12月2日14時時点)

になっていました。

みなさま、拙作をお読みくださり、ありがとうございます。

 不吉な雰囲気が室内に垂れ込めた。私も含め、なんとも言いようの無い不穏なものを全員が感じていた。

「上級将軍、もし彼の国が行動を起こすとすれば、いつ頃と見るか?」

「はっ。おそらくは国内の経済状況が差し迫る頃には行動に出るかと。最短で来年、最長で10年後。おそらくは3年以上5年位内かと。」

 陛下は赤龍騎士団団長のルーデス卿に視線を向ける。

「東の国境の防衛線強化にかかる時間はどれほどか?」

「畏れながら申し上げます。最短で1ヶ月、標準的に進めて3ヶ月は必要でございます。1ヶ月の場合は要所のみ、昼夜問わず進める必要がございますので、万全とは言い難い上に、必ずや向こう側の注意を引くこととなりましょう。」

「急ぎ過ぎるのも悪手になりそうだな。しかし事が起きた後では遅い。」

 陛下はしばし瞑目(めいもく)すると、息を吐いた。

「赤龍騎士団団長は東の国境線の強化を進めよ。工事速度は標準で良い。当面の予算は予備費を当てよ。不足があれば財務と相談せよ。」

「御意に。」

 続いて軍務尚書のフィグレー卿に指示を出した。

「軍務尚書。東の国境線の強化について、名目は“不法越境防止の徹底を図るため”として触れを出せ。先方より問い合わせがあれば、それで返答して良い。」

「承知いたしました。」

 ここで青竜騎士団団長のカーンブリッズ将軍が意見を出した。

「畏れながら奏上いたします。軍の編成を見直し、東の危機に即応できる体制を整えた方が良いかと。」

「そうだな。そなたの部下たちに活躍の機会を与えぬのは惜しんで余りある。金竜騎士団・銀竜騎士団・赤竜騎士団・青竜騎士団は対ヤー=ハーン王国軍戦を前提とした戦略・戦術を研究し、部隊編成を進めよ。」

 陛下は進言を受け入れ、すぐに作戦研究を始めるように指示を出した。

 国王陛下が元帥を務めるヴィナロス王国直下の軍は、白金竜騎士団・金竜騎士団・銀竜騎士団の近衛三軍と赤竜騎士団・青竜騎士団の二つを合わせた五つの騎士団だ。

 王都周辺の拠点防衛と警備に特化した白金竜騎士団と違い、物理的な攻撃力と防御力重視の金竜騎士団と魔術的な攻撃と防御魔術・高い機動力を重視した銀竜騎士団は部隊レベルで自由に組み合わせて、柔軟な編成と機動性を重視した運用がなされている。

 赤竜騎士団・青竜騎士団は能力に突出したものは無いが、総合的に優れた騎士と兵で構成されており、単体で持続的に活動が可能なように配慮されている。

 我が国の王国直属の五つの騎士団はトップがしばしば顔を合わせるし、行動を共にする機会も多いので混ざっての行動に慣れている。命令系統の上では、他の騎士団の傘下に一時的に入る形になるわけだ。

 だからと言って、いきなり足並みを揃えるのは難しい。あらかじめ行軍演習は必要だ。


「敵は時間でございますな。ならば時間の引き伸ばし策が有効と思われます。諸卿はいかに考えますか?」

 宰相閣下の提案に、まず内務大臣のムーリン卿が答える。

「まずはスカール一世の即位30周年の式典が秋にありますな。それを使わせて(・・・・)もらいましょうぞ。」

「各国の大使や閣僚とも接触しやすい。おそらくはヤー=ハーン王国の異常に各国も薄々感づいているはず。今のうちから話を進めましょう。」

 外務大臣のゴルデス卿はそれに賛成する。

「ふむ。貴卿の夫人の発案で催された各国の大使夫人らを招いた茶会に出席したと、王妃から聞いておるが、何か布石を打っておるのでは無いか?」

「いやはや、さすが陛下はお耳が早い。連絡を取りやすいよう環境整備の調整(・・・・・・・)をしております。」

 なんとも表現しがたい笑顔でゴルデス卿は答えた。

「そうか。この件に関する報告は逐次せよ。」

「御意に。」

 陛下は言葉を濁すゴルデス卿を咎めなかったが、報告は求めた。


「ヤー=ハーン王国の危機を早めるのは、主に経済的なものですか?」

「おそらくは。軍事的・政治的な理由もありましょうが、彼の国の事情を(かんが)みるに、その可能性が一番高いかと。」

 農業大臣のフレーヤス卿の問いにヴェッドン卿が答えた。

「ならば、物資や資金をいくらか援助して、危機を先延ばしさせるのはどうでしょう?」

 フレーヤス卿の提案に周囲からほう、と声が上がる。

「なるほど、それは理に適ってはいますが…『施し』を受け入れさすのは難しいでしょう。即位30周年の祝いの品としてなら、ある程度受け入れるかもしれませぬが、毎年は無理ですぞ。」

「備蓄穀物を少し融通してはどうかと思ったのだが、あまり良い手段ではなかったか。」

「若干、相場より高く金の地金(インゴット)を買い入れる形で資金援助する方法も考えられますが…。これから支出がいろいろ嵩みそうですので、私としては避けたいところです。」

 ゴルデス卿とヴェッドン卿はあまり気が進まないようだ。

「いや失礼した。素人の思いつきに過ぎなかったな。」

「とんでもない。その方法も融和策としては有効に作用する場合もありましょう。それはタイミング次第ですな。フレーヤス卿の提案も選択肢から外すべきではありません。」

 フレーヤス卿をゴルデス卿は宥めた。

「素人の思いつきと卑下するほどでもありませぬぞ。」

 ここでモンジェリン卿が割って入る。

「フレーヤス卿の提案は、王国の東側の諸侯への経済対策としても悪く無い。ヤー=ハーン王国そのものが没落しようが知ったことでは無いが、あまりに早く滅んでしまわれると困る。東の諸侯は、特に東の街道沿いは収入が減って行き詰まりますぞ。産業転換させる時間的余裕が欲しい。」

 モンジェリン卿は各地の諸侯の権益も擁護する立場だから、その観点から意見を述べた。

「そうですな。東の街道を根城にする荷物持ちや馬主たちを見捨てるわけには参りませぬ。」

 産業大臣のガロベット卿も同意した。


「あちらの王族または有力貴族に太いパイプを作ることはできぬかの?」

 カステル卿は周辺を見回した。

「スカール一世には年頃の娘も息子もおらんかったはずだが。たしか皆、結婚しておるな。」

 ムーリン卿はゴルデス卿に視線を向ける。

「ええ、いませんね。10年前に王子は結婚し、姫も北方の国に嫁いでおります。王族は粛清が進んでいますし、貴族も弱体化しておりますから、あまり良い手段ではないですな。」

 ゴルデス卿は答えた。

 カステル卿は婚姻を結んで身内の情を誘う作戦を考えたようだ。

 それは各国の王族・貴族の世界では珍しい方法では無いが、中央集権・王権の絶対化に力を入れているスカール一世には受け入れられまい、とゴルデス卿は述べた。

 無論、スカール一世の直系子孫にちょうど良い相手がいれば有効だが、いない現状ではそこでおしまいである。

空き(・・)を作る、というわけにもいくまいしなぁ。」

「閣下、それこそ大戦争のきっかけです。」

 これまで黙っていた白金竜騎士団のバーナード卿がツッコミを入れた。

 なかなか物騒な手段を考えるカステル卿に、陛下も言葉を控えよと仰せになった。

「仮に娘がいたとしても、落ち目が分かっている国に娘を嫁がせたくは無い。」

 この場合、一番圧力がかかりそうな王太子のアントニオ殿下が言った。そりゃあそうだと、周辺もうなづく。


 私はここまでの議論を黙って聞いていたのだが、何かアイデアがモヤモヤと形をなそうとしていた。

 頭の中に地図を展開し、周辺状況をその中に書き込んで眺める。

(なんだったっけ…。東の国境…太いパイプ…軍事同盟…。)

「宮廷魔術師長殿、難しい顔をなさっていかがされたか?」

 金竜騎士団団長のゴーデス卿が、濃い茶色の狼っぽい耳をピクンと動かして言った。

「ちょっと考え事を──あっ!」

 私は古い盟約を思い出して、手をポンと叩いた。

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