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38 会議の後で

すいません、誤って先ほど投稿してしまいました。


誤字報告ありがとうございます。気をつけていますが、徹底したつもりでも見つかりますね。


感想ありがとうございます、とても励みになります。


コミックスピア大賞にも応募しました。もし面白いと思っていただけたら、評価をお願いいたします。

(お、終わったぁぁ〜!)

 声には出さないが、毎月の御前会議は緊張するものだ。毎月、奏上案を出すわけではないし、私の場合は年に3〜4件出していたが大した内容ではなかった。

 だが今回のはこれまでにない大型案件だったし、失敗も許されない。

 そもそも、教育に失敗して娘のアンドレアが王子ともども闇落ちしたら、私の一家どころか王家まで魔王召喚の生贄にされてしまうのだ。

 そうでなければ聖女と王子に断罪されて一家滅亡か。

 どちらも嫌だ。

 この案件、絶っっっ対に失敗は許されないのである。

 国をうまく利用して、この世界での子供の教育ノウハウを組み上げ、アンドレアの教育に活かす。そして王子と共に闇堕ちしたりしない、まっとうな人物に育てる。

 これがこの『教育改革』の真の目的なのである。

 貴族院議長のモンジェリン卿の前では清廉潔白な忠臣ぶりを演じてみたが、本心半分、我が身可愛さ半分だ。自分の命がかかっているので許してもらおう。

 私自身の目的からすれば『ついで』なのだが、国のためにも、本人のためにもなるのだから、三方良しのはずである。


 私の視界に資料を持って帰ろうとする銀竜騎士団団長のニームス卿の姿が入った。

「ニームス将軍、ちょっとお待ちを。」

 私は従者のヴィクトルに杖を押し付けるように渡すと駆け寄った。

「宮廷魔術師長殿、なんでしょうか?」

「ちょっと、内密のお話を。」

 立ち姿が様になるニームス卿を、私は壁際に連れてゆく。

「例の五重属性の子供の件なのですが。」

「ああっ!どうすれば銀竜騎士団に来てもらえますかね?」

 私が話を向けると即座に反応した。よほどご執心のようだ。

「実はその子、かなり気が強くて、孤児院でも持て余しているらしいんです。」

「ほうほう。気が強いとは。戦士として好都合な気質ですな!」

「まだ5歳なんですが、年の割に力も強くて、年上の男の子相手にもぜんぜん負けないらしいんですが…。」

「なんと、その年で。素晴らしい闘争心だ。」

 やっぱりニームス卿、どんなに紳士然としていても根っからの戦士である。血の気が多い。

「それで、女の子なんですが。大丈夫でしょうか?」

「…おおぉ…。なんという天の配剤…。この上も無く貴重な人材です。男で強いのはそこそこ居りますが、女で強いというのは、そうそう居ない。その上でこの資質。おお、戦女神よ、あなたの導きに感謝を…。」

 まだ何も決まっていないのに、ニームス卿は感謝の祈りまで始めてしまった。

(そこまで。)

 私の方がやや引いた。そこまで才能に惚れたのか。それともそれほど銀竜騎士団は人員不足なんだろうか?単にニームス卿が才能に恵まれているだけのような気がするのだが。

「アーディアス卿、私はその女子を必ずや、強く・賢く・気品ある、忠義に厚い最強の女魔法剣士に育て上げてみせましょうぞ!」

「あ、じゃあ、引き受けてくださいますね?」

「もちろんですとも!して、いつ来ますか?私が迎えに行きます!」

「あ、ちょ、ニームス卿、落ち着いて!」

 武人に肩を掴まれるのはけっこう痛い。

「その子が居るのはリーモックス領なんで、ちょっと遠いんです。」

「失礼した。…それは、けっこう距離がありますな。」

 リーモックス領はバーナード卿の領地だが、王都から離れた北方にある。銀竜騎士団を預かるニームス卿が迎えに行って、王都を留守にするわけにはいかない。

「その子には妹がいて、妹と一緒であれば銀竜騎士団の保護下に入っても良いと言っているそうです。ニームス卿は将軍として、その条件をお認めになりますか?」

「その程度、なんの問題もありません。」

 即答である。

「では、なるべく近いうちに迎えを寄越して、連れてくるようにしましょう。」

 私はそういうと、破顔したニームス卿に熱のこもった握手をされた。よっぽど嬉しかったのだろうな…。彼は足取り軽く帰っていった。


 …実を言うと件の女の子の『かなり』は相当のもので、怒り心頭に達すると周囲に火が点いたり、電光が飛ぶレベルらしい。魔力も相当高そうだ。特に妹に危害が及びそうになると、完全に手がつけられなくなるらしい。

 そりゃあ、孤児院の修道士や尼僧の手には余るだろう。

 たぶん彼女には、ちゃんと個性と感情に向き合ってくれる大人が必要だ。彼女に向き合えるだけじゃ無くて、その力を前にして平然としていられる体力と胆力も要る。

 ニームス卿をはじめとする、銀竜騎士団のメンバーは魔術の素養がある者たちだから、その辺の対処には馴れているだろう。あそこは彼女の居場所として最適ではないかも知れないが、現状での最適解ではないかと思う。ちょっと男臭いかもしれないが。

 一般教育にはこちらの手の者を付けさせるつもりでいるから、彼女は特異例として記録する予定だ。感情の制御が上手くなったら、同年代の子供達とも交流させられるだろう。

 孤児の幼い姉妹など最も弱い立場だから、何が彼女をここまでさせる事になったのか、想像するに余りある。

 

「アーディアス卿、ちょっとよろしいか。」

「ガロベット卿、会議ではありがとうございました。何のご用でしょうか?」

 今度は私が産業大臣のガロベット卿に呼び止められた。

「実は薬師ギルドのギルド長夫妻から請願を受けているのだが…。」

「わかりましたよ。あの“癒し”属性の子でしょう?薬師ギルドの商品生産のために、馬車馬のように働かせたりはさせませんよ。」

「いやいや、そんなことでは無いのだ。話を聞いてもらえないだろうか。」

 ガロベット卿によると、子供のいない薬師ギルド長の夫妻は長年、不妊治療薬の研究開発を続けてきた。

 その副産物として、さまざまな素晴らしい処方や魔法薬(ポーション)を創り出して薬師ギルド長にまでなったのだが、自分たちの目的は叶わないまま老いて、すでに50代。

 実子は諦めるが、跡継ぎは欲しい、と。

「そんな折に“癒し”属性の子供の話を聞いたので、ぜひ養子に迎えたいと。医薬の神の導きだと申されていてな。」

「やや、これは疑って申し訳ありませんでした…。って、ガロベット卿。漏らしましたね?」

「あ、これは、話を進める上でついポロリと…。」

「まあ、ご協力もいただいたし、今回だけ知らんふりをします。でもご注意ください。」

 あんまりこういう事が続くと計画に支障が出るので、ごまかすように笑って頭を搔くガロベット卿に釘を刺しておく。

 この場合、例の子が悲惨な境遇に陥る可能性は低いだろう。

 ただ教育はこちらに一任させてもらう事を条件として飲んでもらう事にした。結果のフィールドバックのためには欠かせない。

 薬学を教えるのは放っておいても自分でするだろう。うまくいって、素晴らしい結果が生まれるようになると良いな。

「そうだ。ガロベット卿。結果が思わしければ、その子はきっと素晴らしい薬師になるのでしょう?」

「ハハーン、分かりましたぞ。少し薬師ギルドに融通させるのですな?」

「ええ、国や騎士団に優先して納品してもらいましょう。」

 効果抜群で即効性で副作用が少ない、高品質の魔法薬(ポーション)は非常に高価だ。どうかすると高給取りの騎士や宮廷官僚の1ヶ月分の給料ぐらい軽く飛ぶ。

 それでも命が助かるならばと、争って求めるほどに入手は難しい。それが労せず手に入るようになるならば大助かりだ。


(まあ、今回はおさまる所におさまったし、良いってことにするか。)

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