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28 御前会議(4)

すいません、間違って一瞬13日公開にしてました…。

感想ありがとうございます。そうですよね!浪漫ですよね!

 御前会議が催される『不死鳥の間』の大扉が開かれた。周辺には警護に当たる近衛兵が赤地に金の刺繍が光る正装姿で、直立不動の体勢でずらりと並んでいる。

 その前を黒い杖を持った典礼長官に先導されて、宰相閣下・王太子殿下・貴族院議長と続き、文官と武官がそれぞれ列を作って深紅色の絨毯の上を静々(しずしず)と進む。

 距離はゆっくり歩いて1分かかるか、かからないか。不死鳥の間があるのは待合室である月桂樹の間の向かいである。

 中に入ると、中央がくり抜かれた大きな楕円形のテーブルが占めている。縦長に引き伸ばしたドーナッツ型といえば分かりやすいだろうか。

 テーブルには縁飾りのついた白いテーブルクロスが掛けられ、各大臣の席には役職名が書かれた札と銀の盆に載せたクリスタルガラスの水差しとグラス、そしてペンとインク壺とメモ帳が用意されている。中央の空いている空間には花が飾られて、重厚な調度品の中で目を休ませてくれる。

 テーブルの片方にはひときわ豪華な椅子がある。国王陛下の座る玉座だ。金彩に彩られる豪華な(ドラゴン)の彫刻が施された、磨かれて艶やかに光る黒檀の玉座は、いかにも国王が座するにふさわしい。

 玉座を挟んで右側が文官、左側が武官の席だ。間には陛下に出席を求められた人物や貴族院議長の席が置かれている。なお、席順は伝統的に決まっているもので地位や力関係はあまり関係が無い。

 宮廷魔術師長の席は玉座の右側5番目。ちなみに玉座のすぐ右は宰相閣下の席だ。


 不死鳥の間に入室した我々は、それぞれに用意された席へ着席する。

 私も宮廷魔道士長の席に着くと、重たい杖を後ろに控えるヴィクトルに預けた。秘書官は書類の束を私の前に置く。付箋がいくつも貼られた、今日の御前会議で奏上される議題を記したものだ。今日のも厚い。

 座ってから少し時間があり、左隣の席に座る産業大臣のガロベット卿と各ギルドの意向について話す。右隣の司法長官のバイヨンズ卿は、奏上される議題のいくつかに静かに目を通している様子だった。

 少しざわついていた部屋をラッパの音が貫く。それに合わせて、部屋にいる全員が起立して玉座の方を向く。

「ヴィナロス王国の国王、ガイウス2世陛下の御出座(ごしゅつざ)!」

 国王陛下の入室を王家の従僕が告げる。玉座の後ろにある扉が開いて、近衛兵が直立不動で敬礼する。

 その間を悠然とした歩みで、一面に金糸の刺繍が施された黒いビロードの上着(コート)を着た背の高い男が通り抜ける。少し色褪せた金髪の上には王冠をいただいている。隣には王権を示す金色の装飾的な斧を捧げ持つ従僕が立った。

 我が国の国王、ガイウス2世陛下だ。我々は一斉に臣下の礼を取り、(こうべ)を下げた。

(おもて)を上げよ。」

 ガイウス2世陛下は玉座の前に立つと、控えたままの姿の我々に対して命じた。

 そして御前会議の始まりを告げる宣言を発する。

「よくぞ(つど)った、勇気と知恵を称えられし名誉ある諸侯たちよ。余はヴィナロス王国の国王・ガイウス2世なり。余の名の下、万難を排し、厄災を退け、国を富ませ、民を安んじめんがために、余はここに諸侯らを召喚し、会議を催す。余は諸侯らが自由に意見するを差し許す。」

 公式の場では国王陛下にズケズケと口をきいてはならない事になっているので、この宣言をもって陛下に奏上が許される。

「陛下の寛大なるお許しを受け、臣下一同は国家の繁栄のために、ほかならぬ陛下の栄光のために、万民を安んじめんがために。畏れながら、陛下に奏上(つかまつ)ります。」

 宰相閣下が陛下の宣言に対して応える。ここまでがお決まりのやりとりである。

 国王陛下が着席すると、続いて閣僚たちも席に座った。

「これより定例の会議をおこなう。宰相、本日の議題を述べよ。」

「まずは国際的な景気動向とその我が国への影響、さらに我が国が取るべき対応につきまして、財務大臣と産業大臣の連名で奏上がございます。」

 宰相閣下が最初の議題を取り上げる。当然ながらより重要性が高いと宰相閣下が判断した順に奏上される。ここからは個人の名は消え、役職名だけで呼ばれる習わしだ。


 今日の会議ではまず経済問題が最初に選ばれた。

「畏れながら、陛下に申し上げます。まずは大陸の東部、ことにヤー=ハーン王国の経済状況につきまして──」

 財務大臣の説明が始まった。

 ヤー=ハーン王国は私の古い学友のケイト・ディエティスが暮らしている国だ。私が思っているより、あの国の経済状況は悪いらしい。

「──近年の金相場は中長期的にはわずかながら下落気味でございます。ご存知の通り、これは北方における精錬技術の向上による生産量の増加に加え、新たな金鉱山が2つ西の──」

 財務大臣の説明が続いている。

「それに対し、ヤー=ハーン王国では主要鉱山であったチュルガル鉱山が枯渇し閉山。それ以外の鉱山でも生産量の減少が続いております。かの国では北方の精錬技術導入を進め、減産分の埋め合わせをはかろうとしていましたが、うまくいっておりません。また、聖銀(ミスリル)・銀・銅・錫・亜鉛などの、他の金属資源も減産が続いております。我々はヤー=ハーン王国での鉱業が今後回復する見込みが薄いと──」

 財務大臣の話だと、世界全体での金や銀・聖銀(ミスリル)などの貴金属や他の金属の生産量は上がっているのに、ヤー=ハーン王国では資源が枯渇して生産量が減っている。そのためヤー=ハーン王国の儲けが以前より少なくなっているという訳だ。

 さらに産業大臣からの報告もあった。

「ヤー=ハーン王国での金属の精錬業、ならびに貴金属を利用した工芸品などの製造業につきましても──」

「国内景気の悪化による価格の低迷と原材料の地金(じがね)の不足から職人が国外に流出。そのため──」

「昨年の、金属精錬および貴金属加工大手2社の北方への本社・主要工場移転の記憶も新しいところでございますが──」

 国内で産出する金属資源の精錬業、それを使った工芸品はヤー=ハーン王国の重要な産業だったのだが、その大元の鉱業が斜陽になって材料が入手しづらくなって、景気低迷で支払いも渋くなったので職人が逃げているという。

「ヤー=ハーン王国は十分な備蓄があると主張しており、事実、市場への売却もございますが──」

「また穀物の輸入国でございますので、万が一、不作が発生しますと買い付け価格の上昇から彼の国では財政難を引き起こす可能性が高く、飢饉の発生も懸念され──」

 どうもヤー=ハーン王国は他の産業を育てていなかったらしい。鉱山なんか、いつかは掘り尽くすものだろうに。儲かっているうちはヤバイと思えないんだろうな。

「国内政治におきまして、後継者闘争の混乱は小規模に留まりましたが──」

「これに関しまして、近年は武器増産に着手し始めたことを確認しております。確率は低いものの、国防上の懸念が増しているのではないかとも思われますが、この件につきましては上級将軍より報告がなされるようですので、そちらに譲りたく思います。」

「我が国の金属資材買い付けについては量を確保しやすい北方産を中心とし、現時点で相場の割安感のある金地金につきましては備蓄を増やす良い機会かと考えております。」

 直接、私の分野には関係が無さそうな二人の大臣の話だったが、おかげでケイトの置かれている状況がよく分かったのはありがたい。

 まだ彼女からハト便の返事が届いていないが、思っているよりも早めに動いた方が正解かもしれないと考え直したのだった。

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