25 御前会議(1)
お待たせしました。再開いたします。
11月5日時点でのことですが、日間恋愛異世界転生/転移ランキングBEST300で日間ランキング191位に入っておりました。
遅ればせながら、読んでくださっている皆様に感謝申し上げます。ありがとうございます。
とは言え恋愛要素が無いものですから、本作のジャンルを『異世界転生/転移(恋愛)』から『ハイファンタジー』に変更しました。
悪しからずご了解のほどを。
宮廷魔術師長執務室の隣には控え室がある。宮廷魔術師長が休息したり仮眠をとったり、着替えるための部屋だ。
そこで髪をきっちり後ろに撫で付けられた私は、屋敷から連れてきた従僕のひとりヴィクトルに手伝わせて豪華な青いビロードの上着に袖を通す。聖銀の糸を使って大きな襟や裾、折り返された袖に装飾的な字体で意匠化された呪文をふんだんに刺繍されたそれは、肩に重みを感じる。
その下にこれまた豪華な銀糸の刺繍の入った青いベストと細身の青いズボン、それに白いレースがあしらわれたネクタイを着ける。
公式な場での文官の正装の色は青と決められているので、青尽くしというわけだ。真っ黒なローブとかじゃなくて良かった。
これにいろいろな魔術効果のある金のメダル──宝石のついた装飾の多い鎖がつながっている。父から受け継いだものだ──を着けて、公式の場で使う宮廷魔術師長の地位を象徴する派手な指輪──これは就任の際に王室から貸与されるものだ──を白い手袋の上からはめる。
最後に公式の場で持つ、先端に付くアクアマリンのような大きな魔晶石と銀の装飾が仰々しい感じの白い杖を手渡された。
「重いよなぁ、この杖。」
「閣下、不敬ですよ。それだって王室から貸与されたもんなんですから。」
私が杖を渡されて顔をしかめて言うと、秘書官にたしなめられた。
だって、ちょっとしたダンベルになりそうなぐらいの重さがあるのだから、はっきり言って持ちたくない。
ちなみにこの派手な杖は魔術の発動補助具としての基本的な機能を与えられてはいるが、それしか無いので見掛け倒しなのだ。威儀を正す以外の用途は無い。
「ヴィクトル、これ持って後ろに付いてきてくれ。会議室に入る前に渡してくれれば良いから。」
私はそれを屋敷から連れてきた従僕のヴィクトルに手渡した。彼は緊張した表情で杖を恭しく掲げる。
「実質的なお咎めは無いと思うけど、落とさないでくれよ。形式上は陛下に詫び状を書かないといけなくなるからさ。」
「は、はいっ!」
18歳のまだ少年ぽさが抜けない感じのするヴィクトルも、群青色に銀糸で植物の模様が刺繍された立派な上着を着せている。
秘書官も彼と似たような銀糸の刺繍が施された青い上着を着ている。これは宮殿で働く文官が公式の場で着用する礼装だ。彼と同じ装いの者が他に数人いる。御前会議で奏上する議題草案作りに関わった者たちだ。
これから王国の意思決定機関である『御前会議』があるのである。
御前会議は王国の意思決定機関で、宰相以下、各大臣──宮廷魔術師長も大臣とは付かないが同格だ──と軍を率いる将軍、貴族の議会である貴族院の議長、その他に国王が出席を求めた人物が参加する。
御前会議があるのは月に一度。臨時の会議もたまにある。
国王陛下に奏上する議題は、事前に宰相に提出して奏上するだけの価値があるかの判断を乞う。もちろんその前に、他の関係閣僚や事務方レベルで協議や折衝をおこない議題としての内容を詰めておく。その間に支持も取り付けるようにしてもらう。
御前会議で奏上される議題は、その性質上、国王陛下の裁可または勅許を要する国家運営上重要な内容と判断された内容のものが上げられる。
この王国は大国では無いけれど、そこそこの大きさの国なので奏上する議題には事欠かない。そのため宰相閣下があらかじめ取捨選択して、奏上・再提出・却下、と振り分けるわけだ。
議題は提出者が説明した後、出席者からの質問と討議がなされ、最後は陛下にご判断していただく。
決定は多数決ではなく、国王陛下の判断による。御前会議は奏上された議題を俎上に載せて議論し、陛下の御裁断に資するための会議という位置付けである。
その議論の結果、原案のままで通る事もあるし、いくらか修正を加えて認められる事もあるし、再検討のうえ再提出を命ぜられる事もある。却下される場合も無くも無い。通るのは奏上される議題の内だいたい4/5ぐらいだろうか。
少なくとも我が国の御前会議は形式的なものでは無く、きちんと討議と検討がなされる。居眠りしてられるようなものでは無いのだ。
 




