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22 決して重役出勤というわけでは無いんだよ

先日のプレビュー累計が過去最高となりました。

閲覧いただき、ありがとうございます。

 宮殿に着くと、まず秘書官が入り口で出迎える。

「おはようございます、閣下。」

「おはよう。今日の業務は?」

 このやり取りから仕事が始まる。急な予定の変更や突然発生する案件もたまにはあるので、確認を怠るわけにはいかない。

 ちなみに今は午前9時半ぐらいなのだが、この世界の感覚でも少し遅い。

 この世界の多くの人は日の出と共に起き、日が暮れると間も無く床に入る。

 この世界にはLEDライトや蛍光灯どころか、白熱灯すら無い。そもそも電気エネルギーの利用なんて無い技術レベルなので夜は暗いから、ろうそくや松明が要る。それらは決して安く無いので、一般庶民は日が暮れたらさっさと寝るのである。

 アーディアス公爵家は貧乏では無いが、私も日が出たらさっさと起きる。なぜかと言うと『やる事が多い』のである。

 ハーブティーと軽食を摂った後に、口をすすいで歯を磨いたら身を清めて室内着に着替える。仕事にかかる前に妻の寝室を訪れて、妻と娘に朝の挨拶と顔を見ておくのを忘れるわけにはいかない。

 それから領地を統治するための事務仕事だ。東の窓辺に置いた執務机で、昨夕までにマイケルが整理しておいてくれた書類を優先順に決済してゆく。ちなみに今進めているのはアンドレアの祝福式への招待状書きである。ほとんどは事務員の中で字の綺麗な者が代筆して私がサインするだけだが、VIP向けには自分自身で全文を書く。

 その後、身なりを整えてから家族で揃って朝食となり、その後はマイケルやロレーヌたちを交えてマリアと領地の運営について意見交換をする。それが済むとアレクの顔を見に行き、話を聞いてあげる。時には領民の陳情を聞くこともある。

 それらを3時間あまりで全部済ませる。ゆっくり寝ているわけでは無いのだ。

 さらに宮殿に出仕するまでの通勤時間が馬車で1時間半。ガタガタ揺れるので書類は読めない、手紙も書けない、さりとて寝られるものでは無い。無駄な時間である。だがテレワークというのも概念自体が無い。

 道路をなんとかしたいと考えたのも、この時間を有効に使えるようにしたいためでもあった。

(電気を使えるようにしてエネルギー革命を…。いやいや、当座の仕事の大まかな形ができてからだ。手を広げ過ぎると過労死しそう…。)

 本当にやる事が多いのである。決して怠惰な重役出勤では無い。


「例の研究事業の件で集めた者を執務室前に待機させております。面通しして訓示を。」

 秘書官があちこちの部署から主に学者系の者を引き抜いてきた。

 経験談を聞き出すのに長けた歴史学者をはじめとする史学系の学者たち、統計のできる数学者、内容の精査ができる教育に携わった経験のある学者、ほか事務を処理する者など10名余りだ。

 メンバーのリストは昨日のうちに渡されていたので目を通していた。

 正直、ほとんどの者は初めて目にする名前でなじみは無い。たぶん、向こうもこうして直接会うことなど無いと思っていたに違いないだろう。

 宮殿での仕事をしていても、多くの者にとって宮廷魔術師長と言うのは廊下ですれ違う事はあっても、言葉を交わす機会など一生無いほどには高い地位だ。

 それだけに直接会って任務を言い渡すと言う行為に、この世界ではまだ一定の意義と効果があった。

「よく集まってくれた。」

 私はまず敬礼で迎えた彼らを宮廷魔術師長の執務室に招き入れると、全員の顔を見た。だいたい20代後半から30代半ばぐらいの男女混合のチームだ。

 前世の世界ならば若手と言えるが、この世界での平均寿命からすると中堅どころである。

「これから君たちには特命の任務を遂行する機関として働いてもらう。」

 緊張した面持ちのチームメンバーを前に話を切り出した。

「君たちに任せるのは前例の無い仕事で、しかも力任せでは進められない。そして、これからの社会の(いしずえ)となる仕事で、絶対に必要なものだ。多少の失敗があっても必ず挽回して、断固たる意志を持ってやり遂げなければならない。」

 真剣な眼差しが私に集中している。

「魔物と戦ったりするような命のやり取りでは無いが、相手は子供達だ。真剣であること、慎重であること、思慮深くあること、敬意を持って接すること、真摯であること、正直であることが必要だ。大人が思う以上に子供はこちらの誠を見抜く。」

 私は少し言葉を切る。

「思わぬ出来事が多くて、思うように仕事が進まず苛立つ日もあるだろう。チームのメンバー同士でお互いに助け合って任務に当たってくれ。以上だ。」

 そして私はメンバーのひとり、30代半ばの猫背気味の女性に目を向けた。

「エレナ・ファインス君、前へ。」

 名前を呼ばれたその女性官僚はびくりと体を震わせると、おずおずと前へ出た。

「は、はい…。」

 緊張のせいか、声が上ずっている。

「宮廷魔術師長ダルトン・アーディアスの名のもと、エレナ・ファインス君を本日付で、この幼児教育研究機関の局長に任ずる。精励(せいれい)するように。」

 彼女の目が驚きに見開かれた。

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