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207 『こども園』の開所と入所式

誤字報告ありがとうございます。


本作品は『月曜日・水曜日・金曜日』の午前04:00時に更新です。

チート無し・特殊能力無し・死に戻り無し・(ほぼ)事前知識無し。

主人公自身の知識と知恵と度胸と才覚でなんとか破滅の未来を避けようとするお話です。

 『こども園』の開所日。

 ささやかながら入所式を執りおこなった。

 ささやかと言っても、カミーユ・キャストレット王太子妃殿下が来賓としてお越しいただいたので、それなりに格式を調えたものとなった。

 花を飾り、宮廷楽団から小楽団を出してもらい、挨拶が私と王太子妃殿下だけだと王太子妃殿下の格好がつかないので、副神殿長のアインと白金竜騎士団の将軍アーノルドを引っ張り出してきた。

 二人とも世間的には十分立派な身分と地位だから、これで問題無い。

 保護者の官僚たちも正装姿だ。

 利用者の種族分けはヒトが6割・ケモ耳タイプの獣人種ナハムが4割弱・残りわずかがドワーフ族。技官が多いのでナハムとドワーフの比率が高めとなった。

 子どもたちのむずかる声と乳児の泣き声が響く中、宮廷楽団の奏でる華やかなファンファーレで入所式が始まった。


「本日の佳き日、ここに最初の子供達を迎えられることを、たいへん嬉しく思います。」


 式は長々としても仕方がないので、私の挨拶は簡便に済ませる。

 大事なのはメインの来賓、カミーユ・キャストレット王太子妃殿下だ。


「皆様、本日はご機嫌麗しゅう。この『こども園』の最初の入所者となる子どもたちと保護者の皆さんに、カミーユ・キャストレット・ド・ヴィナロスより心からの喜びを申し上げます。」


 微笑みを浮かべ、よく通る澄明な声で祝辞を述べる王太子妃殿下の姿は、将来の王妃として十分な威厳と気品があった。


「今日の日を迎えるまでに、そこに居られる宮廷魔術師長、ダルトン・アーディアス公爵ほか、多くの優れた学者たち、子供の教育指導経験のある教師たち、そして多くの経験を持つ乳母、子守りの経験と知恵を結集して、この『こども園』は作られました。」


 王太子妃殿下は私の方に一瞬顔を向ける。


「その最新の成果と産物は、ここを利用するすべての入所者はほしいままに利用できるのです。なんと素晴らしいことでしょう。必ずや、健やかに、身も心も立派な人間に育つことでしょう。私も一人の幼子を持つ母親として、その成果を期待するものです。」


 視察いただいた翌日に届けた幼児教育用のおもちゃ類を、ルカ殿下はいたく気に入ってくれていると聞いている。

 安心安全、それでいて子供の好奇心と探究心を削がないおもちゃだ。

 開発中はときどき執務室がおもちゃで溢れて、秘書官から“何してるんですか、閣下”と冷たい目線で見られたが。

 だが私は知っている。そんな秘書官も積み木で遊んでいたのを。


「皆様と子供達に、浄福なる神々の祝福があらんことを。」


 ささやかな思い出に浸っているうちに、王太子妃殿下の祝辞が終わった。

 私は王太子妃殿下に御礼を申し上げる。

 ここに居る保護者は普通の、ヒラの官僚だ。普通であれば王太子妃殿下が臨席される儀式など、一生経験することは無い。

 そういう場に列するだけでも栄誉といっても良いのに、祝辞を受けるとか大変なことなのだ。実際、感激のあまり落涙する者すらいる。


 いろいろな意味で王太子妃殿下にご臨席いただいた意味は大きく、王太子妃殿下の方から望んでくだされたのは僥倖だった。これは宮廷中で話題になり、幼児教育の重要性が各層に印象付けられたはずだ。

 これはいろいろな形で社会に影響を及ぼすだろうから、私塾があるように、私立のこども園も出てくるはずである。

 形だけ真似られてコンテナに子供を詰められるだけ詰めて閉じ込めておく、みたいなことをする悪徳業者が出ないとも限らないので、早めに基準を作り品質が保たれるような態勢を整えるべきだろう。


 その後、アインとアーノルドの祝辞があって、来賓の祝辞が終わるとそのまま式を終える。

 そして王太子妃殿下以下、来賓を見送ると、一旦休憩。

 休憩後に保護者向けの説明をするのは、ここの所長として任命したジャン・ジョレスだ。

 彼はファインス局長の下で、このこども園の実現のために働いてくれた男だ。


「0歳の乳児を抱えている皆さんはこちらへ!1〜2歳児のお子さんを抱えている皆さんはそちらへ!」


 彼は40代の、そろそろ髪の生え際が気になるおっさんなのだが、なかなか子守りが上手かった。

 なんでも年下の兄弟姉妹が多く、むずかる赤ん坊を背負いながら勉強をし、妻を早く亡くしたので自分の子も男手で育てたのだそうだ。

 式が終わると、さっそく子供を連れた保護者たちを各部屋へと誘導している。


「さすがの手際だな。」

「はい。彼に任せれば大過無く『こども園』を運営してくれるでしょう。細かな異常にもすぐ気づいて改善していってくれると思います。」


 私はジャン・ジョレス所長の働きぶりを褒めると、ファインス局長も同意した。

 とにかく前例が無い事業なので、失敗をあげつられやすい。そこは私がフォローしてゆかねばならないだろう。

 私はジョレス所長に声をかけ、自分では解決困難な問題があれば、いつでもすぐに私やファインス局長に相談するようにと告げた。


「ありがたいお言葉でございます。必ずや、王太子妃殿下はもちろん、閣下や皆様のご期待に沿ってご覧に入れます。」


 彼はやや過剰に恐縮していた。

 王太子妃殿下にもお声がけいただいた上に握手まで許されたので、感激して舞い上がっているらしい。

 励みになれば、結果として全部よし、だ。



 ややあって、御前会議が終わった後に、あの『政界三大妖怪ジジイ』の一人、内務大臣のヨハン・ムーリン卿から声をかけられた。

 あの微笑みの仮面はこの時も外れない。


「アーディアス卿、施策はますます快調のご様子で何より。」

「これはムーリン卿、経験の深い貴卿からお褒めいただけるとは嬉しい限りです。」


 相手は宰相も務めた古狸。毒にも薬にもならない一般的な返答をしておく。


「いやいや、警戒せんでくれ。貴卿に礼を言いたくてな。」

「ムーリン卿からお礼を言われるような覚えが無いのですが…?」

「あの『こども園』のおかげで、庶務を処理する者の数に余裕ができのだ。」

「ああ、そういうことでしたか。」


 内務大臣のムーリン卿が管轄する内務省は、ヴィナロス王国内のさまざまな行政活動の主体だ。

 その性質上、ヒラの官僚の数が一番多い。

 事業が増えた分、いろいろと業務が増えて人員が足らなくなっていたのが、こども園ができたことで復職した人が出てきたので業務が滞らなくなったと。

 こども園で子供を預ける官僚は大体がヒラなので、ヒラの官僚が大勢いる内務省が大いに恩恵を受けた…ということらしい。

 宮殿勤めの官僚の人員に余裕を持たせるのは当初の計画の内だから、これは当然の結果ではあるのだが、こうして目に見える形で効果が示されるのは嬉しいものだ。

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