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206 王太子妃殿下の視察

本作品は『月曜日・水曜日・金曜日』の午前04:00時に更新です。

チート無し・特殊能力無し・死に戻り無し・(ほぼ)事前知識無し。

主人公自身の知識と知恵と度胸と才覚でなんとか破滅の未来を避けようとするお話です。

 時間を少し遡る。

 ファインス局長らとの会議を終えたところで、一人の使い走りが走ってやってきた。


「申し上げます。宮廷魔術師長閣下に、王宮から伝言のお使者がお見えです。」

「王宮から?はて、どなたからだろう?」


 思い当たる節があるとすれば、私の進める国家事業に賛成してくださっている国王ガイウス二世陛下。

 あるいは、製鉄産業の件で協議をしたルイーズ・フォッセベーク・ド・ヴィナロス王妃殿下だ。

 しかし、使い走りが告げた名前はいささか予想外だった。


「カミーユ・キャストレット・ド・ヴィナロス王太子妃殿下からのお使者でございます。」

「王太子妃殿下から!…なんだろうな。」


 私のしている政策は、彼女の実家の家業とか立場には関係が少ないと思うのだが。

 とにかく、会って伝言を聴かないと話にならない。


「あい分かった。待たせるわけにはいかないから、すぐに向かう。」


 幸い、この後は書類を処理する予定だったので調整の必要は無い。私は足早に執務室へ戻った。

 そこには袖に黒い線の入った青い上衣(コート)を着た王太子妃の侍従が、立って待っていた。

 青い上衣(コート)の袖にだけ黒い線が入っているのは、王宮に勤める侍従と侍女の制服の特徴だ。国王付きの侍従の制服には袖だけでなく襟にも黒い線が入る。


「お待たせした。王太子妃殿下からの御伝言をお聞かせください。」

「こちらこそ、突然のことで申し訳ありません。宮廷魔術師長、ダルトン・アーディアス閣下へ、カミーユ・キャストレット・ド・ヴィナロス王太子妃殿下からのお言葉をお伝えいたします。」


 彼はそう言うと、懐から書状を取り出して読み上げる。 


“カミーユ・キャストレット・ド・ヴィナロス王太子妃より、宮廷魔術師長ダルトン・アーディアス公爵へ。

ごきげんよう。浄福なる神々のもと、貴卿の働きぶりもますます順調なご様子。

両陛下はもちろん、王太子殿下よりも、その働きぶりを耳にしております。

今回の突然の伝言は、その仕事に関してです。


宮廷魔術師長の進める『こども園』の計画を、詳しく知りました。

たいへん興味深く、また素晴らしい取り組みだと、私も共感いたします。

そこで一度現場を視察したく、お願い申し上げるべく使者を立てました。

ご都合はいかがでございましょうか?お返事をお待ちしております。”


「王太子妃殿下からの伝言は、以上でございます。閣下、ご返答をお聞かせいただきたく。」


 こんなの『嫌です』なんて言えるわけないじゃないか。

 と言うか、たぶん願っても無い好機だ。ここは積極的にトップセールスに出るべきだろう。

 王太子妃殿下が強力な後見人になってくだされば、仮に私が失脚するような事があっても、施策としては維持される可能性が出てくる。


「もちろん、喜んで王太子妃殿下の視察のご案内を承ります。内装工事もほぼ終わり、人員の訓練も終了間近です。王太子妃殿下のご都合の宜しき日であらば、いつでもご案内いたします。」

「承知しました。では王太子妃殿下のスケジュールを見て、改めてそちらにご連絡申し上げます。それでよろしいでしょうか?」

「はい。ご連絡をお待ち申し上げます。」


 私がそう答えると、その侍従は書状を懐にしまって一礼して執務室を辞去した。

 私はソファーに腰掛けて、ふうと一息ついた。


「ビックリしましたね。王太子妃殿下だなんて。」

「勉強が好きで、国許では浮いていた、と聞いているからなぁ。こういうのが個人レベルではなく国家の取り組みとしてあるのが嬉しいのかもしれん。」

「ファインス局長にも連絡しますか?」

「そりゃもちろん。しないわけにいかないよ。彼女にも来てもらわなきゃな。」


 私と秘書官はそう会話をして、必要な連絡と指示を出しておいた。

 その後いろいろと調節し、王太子妃殿下の視察の日取りは保護者向け説明会の前日となった。


「本日の良き日、お目にかかれて光栄です。アーディアス卿。」

「恐れ多くも王太子妃殿下の御覧の栄を賜り、まことに恐悦至極でございます。」

「あまり堅苦しくなさらないで。今日の視察を楽しみにしておりましたのよ。」

「そうは言っても、臣下の礼はおろそかにできませんので…。王太子妃殿下、一人、お目にかけたい者が。」


 私は目でファインス局長に合図を送った。

 文官の正装姿の彼女は、緊張した面持ちで前に進み出る。


「ここに控えますのは、幼児教育研究機関の局長を務めるエレナ・ファインスでございます。」

「まあ、あなたが。お顔をあげて。御機嫌よう、ファインス局長。」

「お、王太子妃殿下のお目にかかり、恐悦至極でございます…。大変、身に余る光栄でございます。」


 普段よりも高くなった声で応えて、王太子妃と握手する。

 半年ぐらい前の、幼児教育研究機関の長に抜擢される前であれば、王太子妃に会って握手なんて考えられないことだったのだから無理もない。


「ファインス局長は技官として王立魔術院で奉職すること10年あまり、情報の統計的処理に優れております。その才能を重んじて、この職に抜擢した者でございます。そして期待に応え、見事にその任を果たしております。官僚としてだけでなく、一人の母親として育児の大切さと困難を知る者でございます。」


 たぶん、もう知っているのだとは思うが、たくさんの人の目がある前でファインス局長を褒めて、王太子妃に紹介しておく。

 こういうのに意味は無いが、ファインス局長の今後のための保険として意義がある。


「素晴らしいですね。私も一人の母親として、ファインス局長の経験をお話いただけると嬉しいですわ。」

「あの、私の家庭での経験など、たいしたものではございませんが…。ですが、ここでの子供達の過ごす時間は最高のものになるようにと、各分野の識者の知恵と経験を結集して、現時点での最善を目指しました。」


 ファインス局長は最初こそ緊張気味だったが、次第に打ち解けた…というよりも、ひとつの機関の長としてのプライドが呼び覚まされたのか、しっかりとした口調に変わった。


 やった事はと言うと、翌日におこなった保護者向け説明会と変わりない。

 年齢別の各部屋を見て回り、それぞれの担当者たちを紹介し、設備や備品について説明をする。


「この積み木というおもちゃ、どこで手に入るのですか?ルカにも与えてあげたいわ。」

「これは我々で開発しました。もしルカ殿下にもお喜びいただけたら、臣下一同、誠に光栄でございます。」

「じゃあ、1セット譲ってくださる?」

「もちろんです。明日、お届けに上がります。」


 最近いろいろありすぎて、ルカ殿下のことを忘れてた。

 ルカ殿下はまだ2歳だから、こういうのができたら王太子のアントニオ宛に届けておくんだったな、と反省する。

 この失態を挽回すべく、さっそく翌日に他の絵本やスポンジ製おもちゃなどと共に、積み木のセットを王宮に届けさせたのだった。


 この視察はとても気に入ってくださったのか、カミーユ・キャストレット王太子妃殿下は開所式の来賓としてご臨席くださることになったのだった。


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