203 先生集め、まず周りから
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本作品は『月曜日・水曜日・金曜日』の午前04:00時に更新です。
チート無し・特殊能力無し・死に戻り無し・(ほぼ)事前知識無し。
主人公自身の知識と知恵と度胸と才覚でなんとか破滅の未来を避けようとするお話です。
ファインス局長には、特別教育プログラムの対象になる稀少な魔術属性の子供たちの全リストを作成するように命じた。
これは各地からの成果報告書にある記述を抜き書きしてまとめるだけだから、今週中に完了するだろう。
リストができたら、それを元に具体的に必要な教師の数と、どういった人物を募集するかを決める。
とりあえず、確実に協力してもらえそうな相手に声を掛けてまわる。
使い走りを使って、数カ所に面会したい旨を伝えてもらう。
返事が来るまでの間に、私は魔術省の機関・王立魔術院に向かった。ここは宮廷魔術師長の管轄だから、私の一存でどうでもできる。
とはいえ、それぞれに仕事をしているし、工場群建設などで無理を言って作業を手伝ってもらっているから、さらにお願いをするのは気が重い。しかし、背に腹は変えられないのだ。
「ミラドイス院長、ご機嫌よう。突然ですまないが、今、お時間はあるだろうか?」
「これは閣下。ご機嫌よろしく。大丈夫ですが、いかがなさいましたか?」
私は王立魔術院の院長室に向かった。
ヴィーコ・ミラドイス院長は執務机から顔を上げた。
彼は霊素術の研究をしている魔術師であり、ヒゲの生えた、丸顔の壮年の男性で、いかにも魔術師然とした深い紺色のローブを纏った人物だ。トッリジャーニ大学と聖神智大学で教鞭をとり、ヴィナロス王国の王立魔術院で教授を務めてきた。
「なんの用意もございませんが、そちらへお掛けください。」
「突然押しかけたのはこちらだから、こちらこそ迷惑をかけて申し訳ない。」
「いえいえ。急を要するご用件なのでしょう。」
用意された茶は甘い良い香りがした。
「シナモンを加えたのか。」
「はい。オレンジ・ジンジャー・カモミール・カレンデュラ・ローズマリー・ローズヒップなどを組み合わせて。ヴィナロスは北方よりも南方の産物が手に入れやすいので、茶をブレンドするのも楽しいですね。」
「なら、院長はムーリン卿とは話が合いそうだな。」
「あのお方の茶に関する見識は一流ですなぁ。私はとても及びません。」
少し雑談を交わしてから、本題に入った。
「私が幼児教育研究機関を設立しているのは知っているな?」
「もちろんです。興味深い計画で、ここでも時々話題になります。」
「その中に稀少な魔術属性を持った子供を教育する特別プログラムがある。それに協力してほしい。」
「ほほう。協力と言いますと、何をすれば?」
そして、私はミラドイス院長に事のあらましを伝え、教師として適正のあるものを探している、と言った。
「なるほど。魔術院の教授や研究員から、その特別教育プログラム向けの教員を出してほしい、という事ですな。」
「そういう事だ。どんな子が来るかまだ全体を把握できていないので、具体的にどういった人材が必要かは追って伝える。」
「承知しました。では把握できたらお知らせください。できる限り閣下のご希望に添えるようにいたします。」
「ありがとう。協力に感謝する。」
とりあえず、悪い感触ではなかったので、初手から心が折れずに済んだ。
そして、一度執務室に戻ると返答が届いていた。
副神殿長のアインから短時間であればいつでも、とあったので王宮に向かった。
王宮の入り口で、門を守る騎士たちにアインを呼び出してもらうと、ほどなく小走りで彼はやってきた。
「やあ、ダルトン。突然どうしたんだい?珍しい。」
「急ですまない。奇跡術向けの魔術特性を持つ孤児の教育について、ちょっと相談したくてな。」
「へえ。話を聞こうじゃないか。」
忙しいとあらかじめ言ってきている相手なので、要点を簡潔に説明する。
「そういう事なら、喜んで協力させてもらうよ。こちらとしても願ってもない話だ。」
「そう言ってくれて嬉しいよ。ドドネウス神殿長にも了解を取り付けてもらえるとありがたい。」
「最終的な決定権を持つのはあの方だからね。話さないわけにはいかないさ。」
そこで私は“光”属性の娘、ルミリア・ピヴォイネスのことも話した。
「前にも言ったけど、“光”属性の娘の話、覚えているか?」
「ああ、そう言えば。大聖女様の件ですっかり忘れてた。」
案の定である。
そんなことだろうと思ったが、私にとっては重要なので話をしておく。
「そりゃあ、あの“善”属性の女児と比べれば重要性は低いかもしれないが、そうそう無い魔術属性だぞ?捨ておくのは惜しく無いのか?」
「そうだなぁ。居場所はわかってるし、王都内だし…。うん、地元教区の司祭を通じて、神殿の学校で学ぶ気はないかご両親に訊いてみようか。」
「ああ、ぜひそうしてくれ。もし教育で苦労するなら私も協力するから、いつでも声をかけてくれ。」
「そう言えば君の所も珍しい魔術属性の子供たちに、特別教育をするとかいう話だったな。困ったことがあれば相談するよ。」
その後、軍務尚書のフィグレー卿に騎士団への協力を持ちかけて了解を得、他の所にも頭を下げて回った。
そうして暗くなってくる頃には、どうにか要望を伝えて了解を得ることができた。
「まあ、こんなものかな?」
「感触は悪くなかったですね。いけるんじゃないですかね?」
秘書官のアンドレは澄ました顔で答える。
彼は今、使い走りが持ち帰った返答をもとに、明日の予定表を書き換えている。
「宰相は明日お会いくださるそうです。」
「よかった!時間は?」
「午後ですね。」
「モンジェリン卿は?」
「午前でも午後でも良いそうです。」
「良し。じゃあ午前中にお会いできるように連絡してくれ。」
アンドレはあらかじめ代筆した手紙を渡しに渡した。モンジェリン卿宛ての明日午前に面会を求める内容である。
一読して問題が無いか確認して、サインを入れる。
アンドレは封筒にそれを入れると、呼びつけておいた使い走りに持たせて、モンジェリン卿の王都の屋敷に向かわせた。
「明日はまず、モンジェリン卿の屋敷に向かうか。」
「そうですね。現地集合で良いですか?」
「そうだな。それで。」
私はアンドレとモンジェリン卿の屋敷前で合流することにした。明日もまた忙しそうだ。
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