201 人材確保、次の一手
本作品は『月曜日・水曜日・金曜日』の午前04:00時に更新です。
チート無し・特殊能力無し・死に戻り無し・(ほぼ)事前知識無し。
主人公自身の知識と知恵と度胸と才覚でなんとか破滅の未来を避けようとするお話です。
工場の建設にまで漕ぎ着けて、宮殿や内部の人員の魔術的防衛にも目処が付いた。
久しぶりに私は、ファインス局長と幼児教育研究機関のメンバーの会議に顔を出せた。
「本会議にご臨席いただき、光栄でございます。」
「久しく顔も出さず、ファインス局長と君たちに任せきりで恥ずかしい限りだ。」
「とんでもございません。今日は間も無く始まる予定の『子ども園』の進捗報告です。」
『子ども園』はつまるところ保育園・幼稚園そのものなのだが、乳児保育から5歳ぐらいまでを対象に考えている。
すでにそれくらいの年齢の子供たちは、孤児院でもカリキュラムを作成して試行錯誤しながら運営しているが、それを踏まえ、宮殿にもそうした乳幼児の保育・教育機関を作ろうという計画だ。
夏の間にそれは進められ、教師や保育師として適性のある人物を集めてもらっていた。
『子供園』の目的は二つある。
ひとつ目は宮殿の働き手の確保である。もっと言えば、働く官僚の確保である。
若い官僚たちは、多くの場合は20代のうちに結婚して子供ができる。
たまに事実婚とか、まだ恋人関係レベルなのにできちゃったとか、実は不倫とか、いろいろ居るが、ともかく子供が産まれると──女性の官僚の場合、出産・育児のために1年か2年の間、休職してしまう。どうかすると退職してしまう。
その最たる理由は授乳で、哺乳瓶も粉ミルクも安全な液体ミルクも存在しないこの世界では、赤ん坊に飲ませるのは母乳ぐらいしか無いのである。
母乳を与えてやれるのは母親か乳母か、それしか無い。牛乳で代用するのも難しい。衛生が確保できないからだ。
男性の官僚でも影響は大きい。
この世界では、まだ妊婦の出産による死亡率が高い。子供は産まれたが母親は死んだ、という事が決して稀では無いのだ。
そうなると父親自身が養育するしかなく、乳母を雇って、何かあったら飛んで帰って、という結果となり満足に働くのが難しい。
王都に実家のある者ならそこを頼れようが、地方から上京して宮殿に出仕している官僚も多いのだ。特に下級官吏には多い。
彼らがいないと、日々の細かな実務はたちまち滞ってしまうだろう。
新しい政策実行のために、官僚たちはフルに働いている状態でおちおち休みも取れぬと苦情が多いと、中間管理職の者たちから度々上申される。
そこで育児のために宮殿を離れた官吏たちに戻ってもらい、働き手を増やし、各人の業務負担を減らそう、というのが目的だ。
そのために子供を預かる場所をつくり、できれば幼児教育の実践と研究の場としたい、というわけだ。
ふたつ目は、これが本来の目的だが、我が娘アンドレアの闇落ちを阻止できるような教育方法を構築すること。
まだ産まれてから半年になろうとする頃だ。目下問題は起こっていないが、いつ、どういう形で闇落ちに至る道を辿るのかわからない。
妻のマリアと、彼女の侍女頭のロレーヌはアンドレアの世話をよく見てくれているし、私も家に帰ると育児を交代しているが、本当にどうしてそうなるのか見当もつかないのだ。
とは言え、放置して闇落ちでは話にならないので、なる早である程度の教育水準を上げ、アンドレアの教育に役立てたい。
もちろん、このふたつ目の目的は話すわけにいかない。
その準備を、私が竜の狩場に行っている間にファインス局長らに進めてもらい、帰ったら帰ったで工場建設に奔走することになったので、すっかり任せきりになっていたのだった。
報告書は読み、チェックして返しておいたが、それぐらいしかできなかった。
こうした先進的な取り組みをする時は、どうしても不安になるか、さもなくば暴走もありうる。
本当はこうした主要な会議には毎回顔を出して、彼ら実務担当者たちを鼓舞したり、適度にブレーキをかけたりしてコントロールするのが上司の仕事のひとつだ。
それが完全に果たせていなかったという点で、私は気後れしていた。
「利用希望者数は募集当初より20%増。復職を望む者が大勢いましたので、第2期募集では枠を増加しました。」
「それに伴う人員の確保ですが、なんとか確保できました。3期分については少し微妙かもしれません。」
「人材の確保と育成は急務ね。人材募集は引き続き進めましょう。教師や保育師の教育課程の進捗は?」
「現状、おおむね順調かと思いますが、なにぶん初めてのことばかりですので。孤児院で研修している者たちと子供たちとの間で大きな問題は発生していません。」
なにせ、このような教育システムを作り上げること自体が初の試みだ。
私自身の現代の現実地球での知識を入れ知恵しているが、魔法や神々というものが実在するこの世界ではそれだけでは対応できない。
「特異な魔術属性・特殊な才能を持つ子の場合の特別教育プログラムですが、そうした子供達向けのプログラムが立案できる人材もなかなか居らず、苦慮しています。」
「やはり最後に残るのがここね…。」
ファインス局長はもう一歩、踏み込んだ判断をしても良いか、と目配せしてきた。
私はそれに無言で頷いて、彼女の腹案を話すように勧めた。
「これまでは王都でのみ人員募集をかけていましたが、トッリジャーニ大学で募集をかけてみましょう。」
トッリジャーニ大学は商業都市フィーチェにある歴史ある大学だ。
ここの霊素術と錬金術の学科は著名で、何を隠そう私やケイトの出身大学である。
確かにあそこなら、希少な魔術属性や特殊な才能の価値や生かし方、教育の重要性を理解できる者が多いはずだ。
というか、自分自身がそうだ、という者が集まる場所だ。
ただ、国家的事業に関わらせる者を他国で募集するのは如何なものか、という慎重論も当然あるだろう。
そこでファインス局長は私の判断を仰いだのだ。
【宣伝】
skebにアカウントを設置し、テキストのリクエストを受け始めました。
アカウントはこちらです。 https://skeb.jp/@Oud5TgmcId
詳しくはアカウントに記述しております。
質問がある場合はTwitterアカウント 衆道恋路 慶 2nd.
@Nil_Empty_000 https://twitter.com/Nil_Empty_000 にご連絡ください。




