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1 娘の誕生と記憶の再生

 バタバタと誰かが走る(せわ)しない足音。大きな呻く声とそれに負けない励ます声。やがて赤ん坊の産声が響いてきた。

 そして、しばらくして白いお包みに包まれた小さなフニャフニャの赤ん坊が連れてこられた。

「おお、その子が!」

「はい、公爵様。おめでとうございます。姫君にございますよ。」

 柔和な笑顔を浮かべる産婆。

「そうかそうか!でかしたぞ、マリア!」

 喜色満面の私は疲労困憊といった顔の妻を労ると、生まれたての娘を抱き上げた。


 その時、一瞬で視界と意識が真っ白になった。

 そして膨大な記憶と情報がこの体に流れ込み一体となるのを感じた。


 娘を抱き上げた時、私は前世を思い出した。正確には前世の記憶と知識を。

 そして、ここは恋愛ゲーム【白薔薇の聖女と黒薔薇の魔女】の世界だと気がついた。窓から見える青い屋根の尖塔に囲まれた城はスタート画面の記憶と寸分と違わない。周りに控える女使用人達の装いも同じだ。

 そして私は、主人公の一人『黒薔薇の魔女』の父親である公爵家の当主だ。


 【白薔薇の聖女と黒薔薇の魔女】の内容はシンプルだ。

 二人の女性主人公『白薔薇の聖女』と『黒薔薇の魔女』のどちらかを選んで攻略対象の王子との愛を育み結婚に至る、というものだ。両方のエンドを見ると新たに攻略できるキャラも増えるのだが、ひとまずその話は置く。

 聖女エンドだと、聖女は学園内での困りごとを解決したり、王子と共にちょっとした冒険をして人々を救う。そして王子は魔女と呼ばれる公爵令嬢とその実家の悪事を暴いて断罪し、同時に彼女との婚約を破棄し、聖女と呼ばれる娘と結婚する。

 魔女エンドだと、魔女と呼ばれる公爵令嬢は聖女の行動に密かに毒を垂らし、策略を巡らせて王子を籠絡し権力を笠に聖女を追い詰めてゆく。最後は王子と共謀してクーデターを起こし聖女と実の親──つまり私と妻、そして畏れおおくも国王と王妃の両陛下──を生贄にして魔王と契約を結び、恐るべき暗黒帝国を築くのだ。


 そう、魔女エンドになると、娘は悪堕ちして、私と妻は娘に殺されるのだ!ついでに国も滅ぶ!


 やめて!設定だけで顔が写らないどころかスチルもほとんど無い、ほとんどモブ同然だったお父さんでもさすがに傷つきます!

 そんな記憶と情報が一気に脳内に溢れたのだ。私は一瞬、呆けていたのだろう。

「旦那様?」

 ロレーヌの訝るような声が聞こえて私は我に返った。

 ロレーヌは妻の侍女頭を務める使用人である。マリアがまだ実家にいた頃から側にいて働き、妻の信頼も厚い女性である。

「う、嬉しさのあまり感極まっていたようだ。ははは…。」

 私は適当にごまかして、ようやく落ち着いた様子の妻に声をかけた。

「マリア、本当にありがとう。きっと素晴らしい淑女になるだろう。」

「ええ、ダルトン。そうでしょうとも。そうでなくてはいけませんわ。」

「良い名前を考えねばな。」

 いや、なんて名前になるかは知っているんだけどさ。

 そして悪堕ちして両親をためらいなく生贄にするような娘にならないよう育てないと、とはさすがに言えない。脳みそ沸いているのかと妻に容赦無いツッコミを入れられてしまう。

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