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196 工場群建設

本作品は『月曜日・水曜日・金曜日』の午前04:00時に更新です。

チート無し・特殊能力無し・死に戻り無し・(ほぼ)事前知識無し。

主人公自身の知識と知恵と度胸と才覚でなんとか破滅の未来を避けようとするお話です。

 王都近郊で急ピッチで建設工事が進んでいる。

 製鉄所・アンモニア工場・ソーダ灰工場・セメント工場・アスファルト工場・ゴム工場だ。軸受(ベアリング)の生産工場もあり、現在のヴィナロス王国の先端技術の集積地となっている。

 石油の精製プラントを欠くぐらいで、完全に重工業・化学工場コンビナート群だ。

 万一の事故や他国からの攻撃にさらされた場合を考えて、頭脳である研究所と事務所は工場群から離れた宮殿内にそのまま置かれた。

 まだ生産工場は建て直せば済むが、それを下支えする頭脳まで一緒に破壊されると立ち直れない。


 ルイーズ王妃殿下を蔑ろにしていたわけではないが、これらの工場建設は国家の大計であるため彼女の答えがどうであれ工事が止まる可能性は低かった。すでにガイウス2世陛下の承認も得ているのだ。

 王妃殿下との会談が決裂した場合は単に私の首が飛び、計画が大幅に遅れるだけの話だ。

 ただ、遅れた場合はヴィナロス王国の未来が不透明になる。


 製鉄所は私とケイトの設計で、まず1回の作業で5トンの鉄が生産できる転炉が造られた。

 転炉の外観は大きな水差しに似ている。

 上端に銑鉄(せんてつ)などを投入する大きな開口部があり、中程に土瓶の注ぎ口のような精錬された鉄の取り出し口がある。

 クレーンで吊り下げて操作するための取手も3箇所あり、内張は粉砕して焼き固めたドロマイトを使っている。

 酸素を吹き込んで過剰な炭素を燃やす方法は、転炉の上からノズルを使って吹き込む方法にした。

 転炉の底から吹き込む方法もあるのだが、構造が複雑になって製造に時間がかかるし、大きさが小さいのでこれで十分と考えた。

 結果ではあるが、現代の現実地球で使われているLDプロセスという精錬技術に近いものとなった。

 この転炉がある建物には転炉に吹き込む酸素を貯めておくタンクや、転炉を動かすためのクレーンも置かれている。

 このクレーンは水力を動力源にしているため、100トン以上もの巨大なものは持ち上げられない。転炉の大きさが小さいのにはそのような技術上の限界もある。

 このクレーンのシステムは宰相閣下の知る工学者たちと農務大臣のフレーヤス卿が設計した。


 この転炉は最終的な技術の実証実験に、それが済めば生産用の転炉第一号となる。将来は技術研修用に利用されることになるだろう。

 5トンとは、現代の現実地球の製鉄所の生産力を考えるとあまりに低いが、この世界の技術力からすると大きな値だ。

 もちろん1日1回ではなく、1日に最低4回、できれば5〜6回は作業をおこなう予定でいるから、日生産量で最低20トン、将来的には日生産量30トンを見込む。

 最初にそれを表明した時、産業大臣のガロベット卿と財務大臣のヴェッドン卿は目を剥いて驚いていた。

 これでも将来は生産力が足りなくなるのは確実だから、これで技術と運用の腕を磨き、将来生産規模を拡大するときの礎とするのである。


 現代の現実地球の製鉄所ならば、さらに製品にするための鋳造設備がこれに連なるのだが、そこまでの技術力はまだ開発できない。

 転炉で精錬された鉄はいったん、インゴットにするか、さらに小さい転炉に移して成分調整をする。


 高炉の設計はすでに終わっており、製錬施設の隣を整地が終わって建設が始まったところだ。高炉を建てるのに必要な石材やレンガなどの資材も続々と届いている。もちろん、高炉に付随する設備も建設が始まっている。

 計画では高炉の高さは約20m、銑鉄(せんてつ)の日生産量30トンを目標としている。

 日産数千トンを可能としている現代の現実地球の製鉄所と比べると子供の遊びのような量だが、この世界ではまだこれで十分足りる。

 それですら“大変な生産能力”なのだ。


 それに今はまだ、大量の鉄鋼の使い道が少ない。

 それでも、これをそのまま市場に出すと鉄鋼の取引価格の暴落を招いてしまうから、しばらくは外に出さず自家消費に回す。

 武器・鎧などの防具の他、大砲などの兵器も製造する予定だ。

 そして馬車の架台を鉄骨に換えて堅牢性の向上と軽量化を図り、ゴムタイヤと軸受(ベアリング)を使った改良車輪と組み合わせた新世代の馬車を軍の輸送用に使う。

 将来的にはミョール川に建設予定の堰にも大量の鉄骨を供給する。


 普通は高炉の建設から始めるのだろうが、転炉から始めたのはほぼ鉄100%の軟鉄を作るためだ。

 アンモニア合成炉の内張りに使う軟鉄が無ければ、合成炉が爆発してしまう。

 高炉の建設から始めていたのでは時間がかかり過ぎるので、まずはある程度純度の高い鉄を北方から仕入れ、それをこちらでさらに精錬することにしたので、まずは転炉から、となったのである。


 冷却や洗浄のために大量の水が必要なので、浄水場を建設・拡大して工業用の水源も確保した。

 その水の一部はアンモニア工場に惹かれて電気分解され、水素はアンモニア合成工程と製鉄所の高炉へ、酸素は製鉄所の精錬工程へと運ばれる。


 石灰石を焼いてセメントを作る工程ででた二酸化炭素と、アンモニア工場で作られたアンモニアはソーダ灰工場へと送られて、ソルベー法でソーダ灰が生産される。

 これだけでは二酸化炭素が使いきれないので、一部はアンモニア工場に運ばれてアンモニアと反応させて尿素に変える。


 製鉄所で生じる鉱滓(スラグ)の内、リンを多く含むものは肥料に、そうでないものはセメント工場に運ばれてセメントの原料のひとつとなる。


 全工程で廃棄物や外部に汚染物質が可能な限り出ないように心がけた。

 それでも排水などは出るから、浄水設備も建設して環境保全対策にも十分注意を払った。

 なにせ、この世界では多くの人が川で漁をしたり、農業用水も川の水をそのまま引いているから、自然環境自体への依存度が高い。汚染された排水を垂れ流せば被害は広範囲に及ぶのだ。

 近現代の現実地球で発生した悲惨な公害事件をこの世界で再現してしまったら、いくらなんでも学習能力が無さ過ぎと後ろ指を指されても文句は言えない。

 せっかく魔法という便利な技術もあるのだから、原理が少々ブラックボックスでも便利に使わせてもらう。

 将来的には、これも魔術をなるべく使わないシステムに換えてゆくのが目標だ。


「まずはそのためにも、人材育成が一にも二にも大切だな。」


 私は砂埃舞う工場群の建設現場を眺めながら呟いた。

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