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195 社内闘争

本作品は『月曜日・水曜日・金曜日』の午前04:00時に更新です。

チート無し・特殊能力無し・死に戻り無し・(ほぼ)事前知識無し。

主人公自身の知識と知恵と度胸と才覚でなんとか破滅の未来を避けようとするお話です。

 どう話すべきか?

 新しい製鉄技術開発と製鉄所建設の話のどこまでを、ルイーズ王妃殿下は把握しているのか?

 また、ルイーズ王妃殿下は把握した話を誰かに伝えたのか?

 それらも問題だが…。


(いや、何よりもルイーズ王妃殿下の抱く懸念を除去する方が先だ。)


 ルイーズ王妃殿下がこの件で横槍を入れるならば、その理由は何か?

 それは実家であるフォッセベーク家の既得権益を守ること。そして、それによって自身の存在価値を確保し証明するためだ。

 おそらくルイーズ王妃殿下ご自身にとっては、新しい製鉄技術と製鉄所建設そのものは、どうでもいい話。

 私が音頭をとって進めている製鉄技術開発と製鉄所建設で、フォッセベーク家の既得権益が失われないか、が彼女の懸念材料であるはずだ。

 したがって、既得権益を害するなら全力で妨害にかかってくるだろう。逆に増す方向で進むならば協力してくれるだろう。

 フォッセベーク家にも理がある話なのをルイーズ王妃殿下に理解してもらえるかどうか、が私にかかっている。


「畏れながら申し上げます。まず、開発中の技術は秘匿されず、天下万民の為に公開される予定でございます。」

「公開?…それは、なんとまあ。」


 ルイーズ王妃殿下は扇を口元に当てて、驚くような仕草をした。だが、彼女の目は間断なくこちらに向けられている。


「もちろん、少なからぬ国費をかけたものでございますので、公開する相手の基準については王太子殿下、宰相閣下ほか、関係閣僚と協議し、その内容は国王陛下にも内々にご報告が入っております。」

「その公開する相手とは?」

「我が国への敵対的行為をおこなわない誓約を交わした相手でございます。」


 一瞬の間があった。


「そうねぇ。今は、状況が状況ですものねぇ。取引材料にできるなら、なんでも使いたいわよねぇ。」

「王妃殿下にご理解いただけて、何よりでございます。」


 もちろん、これで収まるようなら呼び出されてなどいない。

 ルイーズ王妃殿下は私を鋭い視線で見据えた。


「で、それは誰が決めるのかしら?」

「国王陛下にございます。宰相閣下と外務大臣も決定にあたり助言されるでしょう。」

「事業の発案者である貴卿ではないと?」

「すでに事柄は国家の大権である外交に関するものであり、国王陛下の手にあります。私はその任にございません。」


 王妃殿下は私を見たままだった。そして、私はそのまま話を続ける。


「これは外務大臣に申し上げたことですが、私は製鉄に関する北方諸国の優越性を損なおうとは考えておりません。私はこの技術を我が国が独占し、製鉄における優位性を北方から奪った場合に起こる混乱を深く憂慮しております。」

「目的は製鉄業の掌握ではないと?」


 これまで、優雅に椅子に腰掛ける姿勢を崩さなかったルイーズ王妃殿下が、初めて身を乗り出した。


「はい。それは無駄に混乱と争いの種をまく結果となり、我が国を苦境に陥れるでしょう。王妃殿下が懸念される未来が待っております。この件については外務大臣と認識を共有しております。」

「…そう。」


 ルイーズ王妃殿下は背もたれに身を預けた。


「分かっているなら、それで良いのよ。スーミット社のことは知っているわね?」

「はい。副社長のブルーノ・フォッセベーク殿のことですね。」

「そう。兄の社内での立場もあるの。大株主でもあるドマルディ商会との主導権争いもあって、新しく始めた製鉄業で足元をすくわれるわけにはいかないのよ。」


 どうも王妃殿下の行動の背景には、スーミット社内部の社内闘争があるようだ。

 よその事情など私個人としてはどうでも良いのだが、こういう話を王妃殿下が明かした意味を考える必要がある。


「ブルーノ殿を通じて技術提供をおこない新事業における彼の存在を確固たるものとし、その社内闘争に勝利する決定打としたい…。それが王妃殿下の望まれることに相違ございませんか?」

「貴卿は察しが良くて助かるわ。条件は?」

「我が国への敵対的行為をおこなわない誓約を交わす事でございます。」

「フォッセベーク家のコネクションを使って、それを実現しろというわけね。」

「それに直接答えることは、越権行為にあたりますので申せません。ただ…ぜひ陛下とご相談いただきたく。」

「良いわ。王太子からも、貴卿の話を無碍にしてくれるなとお願いされたしね。」


 そこで話は終わりだと、ルイーズ王妃殿下は立ち上がった。私もお見送りするべく立ち上がった。


「でもね、アーディアス卿。」

「はい。」

「結果として、北方の諸国に緊張が生まれるのは分かっているわね?あと、ドマルディ商会も黙ってはいないでしょうし。」

「承知しております。」


 私の答えに、王妃殿下は含みのある微笑みを浮かべた。


「その結果の責任の一端を、どこかであなたは負うかもしれないわ。それは忘れないことね。」

「…警告でございましょうか?」

「いいえ。…一般的な注意事項、かしら。では宮廷魔術師長殿、ご助言、大変参考になりましたわ。御機嫌よう。」


 ルイーズ王妃殿下はそう答えると、侍女たちを従えて東屋を去って行った。

 私は文官の敬礼の姿勢でお見送りする。その後ろ姿が見えなってから、重力に引かれるように椅子に腰掛けた。

 いつの間にか出されていたお茶はすっかり冷えていたが、かえってその温度が心地良かった。


「閣下、ご苦労様でした。」


 これまで黙って後ろに控えていた秘書官のアンドレが労ってくれた。


「今日一番の山は超えたかな?」

「たぶん。王妃殿下の動きは追っておきます。」

「ああ、そうしてくれ。利害が一致したので大丈夫だと思うが。」


 敵に回すと一番厄介な相手を、少なくとも敵対ではない状態に持ち込めた。今はこれで十分だ。

 将来的には味方になってくれる可能性があるし、うまくいけばスーミット社との協力体制を築ける。これは将来の研究にも役立つだろう。たぶん、資金的にも助かる。


「どんどん責任重大になるな…。やれやれだ。」


 私は冷めたお茶の残りを飲み干した。

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